113.恩人のもとへ

「はぁ…ひどい目にあった…」

「あはは…その、ごめんね?」

「あーいやいや、先輩に謝ってもらう必要はありませんよ」



 あれから俺達三人は会議室に戻り、新たな任務についての概要説明を受けた。それは良いのだが、その間ずっと正真さんから凄まじい威圧感を受けていたのは解せない。


 いや、理由は分かってる。桜先輩が俺達側の席、もっと言えば俺の隣に座っていれば、父親として快く思わないのはまだ理解できる。


 だがそれを隠しもしないのは、一人の大人としてどうなのか。



(…なんというか、久しぶりだな。人間関係にストレスを感じるのは)



 別にこの街の人達が、善人ばかりというわけじゃない。だがこの場所にはしがらみがなく、面倒なものはこちらから切り捨てることができた。


 だが今度はそういうわけにはいかない。正真さんはぶっちゃけどうでも良いが、三年振りに再会した桜先輩との関係は断ち切りたくないし、断ち切れない。そんな状況で、俺の中には何とも言い難い感情が渦巻いている。



「…着きました」

「…ここが?」

「はい。自分がとてもお世話になった、ガイさんとカルティさんの自宅です」



 しばらく内心で愚痴りながらマーティンを歩いていた俺は、目的地に辿り着いて足を止める。


 任務概要の説明を受けた後、俺・シルヴィア・リーゼの三人は、一旦別行動をとることにした。


 調査団の人達もこの街でやるべきことがあるため、東京に出発するまではまだ時間があるが、それはゆっくりしていて良いという話ではない。


 初となる正式な遠征任務、色々準備が必要だし、出発までの時間を有効活用するための別行動というわけだ。



「任務には出てないという話だったので、多分いると思うんですが…」



 因みに、桜先輩はただの付き添いだ。先輩の調査団での役割は道中の護衛が主で、街では基本的に自由行動が許されているらしい。



「はーい…おや、エイム」

「お久しぶりです」

「ああ、久しぶりだね…そっちは調査団の娘かい?」

「サクラ・カスミガオカと申します」



 令嬢らしい優雅な先輩のお辞儀に、カルティさんは少々呆気に取られているようだ。



「今日はお二人、特にカルティさんにお願いしたいことがあって。少しお時間を頂けませんか?」

「…あ、ああ。今日は特に用もないから構わないよ、それはそこのサクラちゃんにも関係があるのかい?」

「いえ、私はただの付き添いです」

「そうかい…エイム、ちょっと耳貸しな」

「はい…?」



(アンタ、この娘とどういう関係だい?まさか彼女だったりしないだろうね?)

(…違いますよ。『混沌の一日』以前に通っていた学校の一つ上の先輩です)



 まさかカルティさんにまでその質問をされるとは。異性と歩いていただけで敏感すぎる。



(シルヴィアちゃんはどうしたんだい?会議にいたあの新しいメンバーの子も)

(一旦別行動です。新しい任務を受けたので、出発までに色々と準備が必要ですから)



「…ま、とりあえずそれで納得しておくとしよう。立ち話もなんだし上がりな。サクラちゃんも」

「…よろしいのですか?お邪魔であれば退散しますが…」

「いや、あんまり綺麗な所作を見せるもんだから、実は貴族なんじゃないかと思ったんだよ。流石に、貴族相手にこの口調を続けるわけにはいかないからね」



 どう考えてもそういった類の質問じゃなかったが、まぁいいか。



「おう、坊主!久しぶりだな!」

「お久しぶりです」



 ガイさんも変わりなさそうだな。相変わらず年齢を感じさせないエネルギーを持った人だ。



「と…そこの嬢ちゃんは?」

「初めまして。サクラ・カスミガオカと申します」

「あー、団長さんとこの娘さんか…ん?ってことは、会議を退出したのは嬢ちゃんだったのか」



 ガイさんは桜先輩のことを覚えていたらしい。いや、そういえばあんだけ目立ったのにカルティさんは覚えていなかったのか。



「顔は見てなかったし、あの大胆さとさっきの振る舞いを見て同一人物だとは思わないよ」

「そ、そのことは出来れば忘れていただけると…」

「ガッハッハ!良いじゃねぇか、死んでたかもしれねぇダチと再会したんだ。感極まるのは当然だ。というか、坊主が化物でなきゃ十中八九死んでた」

「いい加減その扱いやめてくださいよ。普通に傷つきますからね?それ」



 カルティさんは何やら懸念があったみたいだが、ガイさんにその様子はなさそうだな、何度もあのやり取りをするのは面倒だし助かる。



「そういえば私らは自己紹介してなかったね。カルティ・ローレンガーだよ」

「俺はガイ・ローレンガーだ、よろしくな」

「よろしくお願いします」

「とりあえずそこに座りな。今お茶を淹れてくるよ」



 カルティさんはそう言って、台所へと姿を消した。



「この二人とは、どういった関係なの?」

「シルヴィアの以前のパーティーメンバー、ですかね。この街に着いてから、色々と助けてもらったんです」

「ガッハッハ!しっかり金は返してもらったけどな!」



 とんでもない額だったな、あの借金。その点には色々と言いたいことはあるが、この二人にお世話になったのは事実だ。



「はい、どうぞ」

「「ありがとうございます」」

「それで、私にお願いっていうのは?」

「はい、実は…」






「自分に、魔術を教えていただきたいんです」

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