112.決着、そしてはじまり
「ええ、存じています」
俺はこの状況を作り出すために、初めから行動していたのだから。
「──それまで!勝者、エイム・テンザキ!」
「な…それは!」
珍しく驚愕の表情に顔を染めた菊川さんの胸元には、ラルの銃口が突きつけられている。
まず、菊川さんは俺のサバイバルナイフを見て、接近されることを警戒すると予測した。懐に潜り込まれてしまえば、いかにトリッキーな動きを出来るとはいえほとんど決着してしまう。
だが、菊川さんは戦闘の中で俺に対して実力差を実感した。それによって、俺に対して潜り込まれた場合の対処も考えた。
だから俺はさらにそれを対処するため、戦闘の中で一度も銃を見せず、俺がもう一つの武器を持っているという可能性を菊川さんの頭から排除させた。いくら何でも、大剣を振り下ろすより銃を抜く方が早い。
(ま、リーゼから俺の昔話は盗み聞きしてないって聞いてたからこそ思い付いた戦法だけどな)
そう、菊川さんが俺の職業に関する話を聞いていれば、俺はとんでもないピエロを演じていたことになっている。向こうに割れてる情報を隠し続けていることになっていたからな。
「はぁ…なんとなくそのナイフはダミーな気がしていましたが、まさか銃とは思いませんでしたよ」
「流石にこれ撃つわけにはいかないんで、決め手に使わせてもらいました」
間違えて誤射してしまおうものなら大惨事だ。少なくとも本当の殺し合い以外で、こいつらの引き金を引く気はない。
「ということは、職業は【
「…ええ。そういう菊川さんは?多分【
「はい、【
「【
…言われてみれば、戦闘用のスキルを使用された覚えはないな。それであの強さなのか…。
「…とにかく、天崎さんの実力をこの目でしっかりと拝見致しました。これでお父様も安心してお嬢様を預けられるでしょう」
「…冗談は勘弁してください。俺では不釣り合いですよ」
【
「お疲れ様、収穫はあった?」
「ああ、いい訓練になったよ」
発端はどうあれ、俺にとっては実りのある決闘になったな。俺は銃を使うとはいえ、近距離戦闘に持ち込むことも多いし、今回の先の読み合いはいい勉強になった。
「団長殿、いかがですかな?我が軍の最高戦力は」
「…ああ。確かにあれだけの実力があれば問題ないな。誠に遺憾だが、計画は手はず通りといこう」
「分かりました…まだ何か?」
「いや…」
英夢を取り囲む輪を見ながら、調査団長、霞ヶ丘正真は思考の海に沈む。
(恐らく、あれはまだ実力の半分も出していないだろう。仮に菊川が本来の力を出して戦っていたとしても、結果は変わらないだろうな)
英夢にとっても攻撃が制限される状況の決闘だったが、それは菊岡も同様。だがそれを加味しても、結果に変動はないだろうと予想した。
(うちの最高戦力を、戦術の読み合いだけで敗北に追い込むか。一体どんな地獄で研鑽を積めば…)
♢ ♢ ♢
「…さて、少し良いかな?」
「あれ、総司令。戻ってなかったんですか?」
「それはひどくないかい?…まぁ、すぐにでも戻らないと秘書に怒られてしまうのだけどね」
「…なら戻った方が良いのでは?」
そもそも何故来たんだ。審判なんて極論誰でも良いでしょ。
「そんなことを言わないでおくれよ。折角サボリに来たんだから、ギリギリまでさぼ…冗談だ、冗談だよ。君達に伝達しなければならないことがあるからね。内容的に、他の者に任せるのも少し憚られる内容だったし」
シルヴィアのジト目に観念したのか、総司令が本当の理由を白状した。
「まず、アイリーゼ君」
「ん?」
「部隊異動のための正式な書類を作っておいたから、後で地方開拓軍の窓口に寄ってくれ」
「分かった」
「それと、これは君達のパーティーへの通達だ」
総司令は一度言葉を切り、その眼差しを真剣なものに切り替える。
「地方開拓軍の三人への新しい任務だ。彼らトウキョウ所属の調査団に同行し、現状の把握、そしてトウキョウ近辺に出現した魔獣の討伐に協力してくれ」
「「……!」」
ついに来たか…!今までは周辺開拓軍と大して変わりない任務内容だったが、これは紛れもない地方開拓軍専用の任務だろう。
「エイム君にとっては、帰郷になるのかな?」
「…似たようなもの、ですかね。桜先輩の話だと、俺の故郷はもうないみたいなので」
カミラの迷宮の周辺が虚無になっていた時点で察していたが、もうあの街の姿は完全に姿を消してしまったらしい。
大して愛着があったけでもないが、それでも今まで普通にあったものが無くなってしまうのは少し悲しいな。
「今回の決闘はね、君の実力を団長殿に把握してもらう目的だったんだよ。一時的とはいえ、彼の団に加わる形になるからね」
「…あれ、私達は良いの?」
「良いんじゃないかい?リーダーの実力さえ知れれば、後は別に良いって言ってたし」
「……」
…多分それ、でっち上げの理由だと思います、総司令。
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