114.後悔しないために


「魔術を…?アンタは【銃士ガンナー】だろ?他の職業でも使える魔術はあるけど、エイムに必要があるようには思えないよ?」



 確かに、【銃士ガンナー】が使う魔術というのはイマイチ想像が付かない。本当の職業は【死神リーパー】だが、今の所「使える魔術」というのは分かっていない。



「ええ、今の所は必要ないです。ですが、もし使えるようなものが見つかった時に、自分は魔術のまの字も知りません。出来る限りのことはしておきたいんです」



 図書館で自分なりに色々調べてみたりもしたが、どうやら魔術は感覚的な所が多いらしく、そもそも資料数が少ない上、その数少ない資料も分かりにくいものばかり。


 まさかここに来て日本の、もっと言えば霞ヶ丘の教育レベルの高さを痛感するとは思わなかったな。



「それに…多分ですけど、魔術に関して学べば、魔力の扱いも上達しますよね?」

「ああ、それは保証する。だけど、それがどうかしたのかい?」

「自分の銃の片方…フェスカは、俺の魔力を吸収して銃弾を作り出します。普段は勝手に吸収するんですが、こちらから意図的に魔力を送り込めば、その分威力を引き上げることもできます」

「へぇ…変わった性能を持ってるね」

「だけど、俺はその速度があまりにも遅い。仲間のサポート無しだと、実践では使い物になりません」



 黒ゴブリンの時はシルヴィアの、グリゴールの時は二人のサポートがあったから撃てた一撃だ。



「シルヴィアはスピード、そして新メンバーのリーゼは幅広い対応力が武器です。今の俺達に足りないのは火力、その役割は、俺が担わなければいけません」

「坊主が戦ってるところは数回しか見てねぇが、あれ以上の一撃を繰り出せる人間はこの街にいないぜ?あれでまだ不満があるってのか?」

「はい。ガイさん達は、ダークエルフの森で出会った十王のことは聞いてますよね?」



 あれからシルヴィア達と公開した情報の擦り合わせを行った。どうやら森やダークエルフの森の場所以外はほとんど話したらしい。



「…ああ。雷王グリゴールのことだろ?」

「物語の十王、まさか実在する存在だったとはね…」

「アイツ相手にはラル=フェスカでもまるで歯が立ちませんでした。結果としてはアイツの逃走で幕を閉じましたが、間違いなくまだ余力がありましたし、もしアイツが最初から本気を出していたら、全滅していた可能性もある」

「………」

「後悔したくないんです。もしアイツに再び遭遇したときのために、出来ることはしておきたいんです」



 俺が死ぬならまだいい、それは俺の実力不足だ。だがもし、俺の目の前で誰かが…そう思うと、胸が張り裂けそうになる。



「…少なくともシルヴィアちゃんには、壁が無くなったってことなのかね」

「…どういうことですか?」

「いや、こっちの話だよ…話は分かった。確か東京への遠征任務に向かうんだったね?」

「はい、そうです」

「出発までの時間はどれくらいある?」

「調査団の仕事が終わり次第ということなので、はっきり決まっているわけではないんですが…」

「どれだけ早く進んでも一週間、多分二週間くらいはあると思います」



 桜先輩が会話に割り込み補足してくれた、長いようで短いな。



「なるほど、それなら魔術を教えるのはちょっと厳しいね、多分魔力の扱いを教えるのでギリギリになるよ」

「充分です。むしろ今の俺は、その基礎が抜け落ちてる状態ですから」



 俺の魔力の使用方法は当然ながら我流だ。しっかりと効率的な魔力運用を学べれば、それだけで戦力増強に繋がる可能性もある。



「分かった。明日はちょいと予定があるから、明後日にまたここに来ておくれ」

「分かりました」

「ガイも問題ないね?」

「ああ、俺は大丈夫だ…頑張れよ坊主、魔術の訓練ってのはとにかく面倒というか、自分の成長が分かりづらいから根気がいる。俺も昔訓練してみたことがあるが、三日で辞めた」

「あんたは根気が無さ過ぎだよ…だけど、ガイの言うことは事実だね。多くの【魔術師マジシャン】が躓くところなんだ」



 確かに、魔力って目視できないし、成長を感じづらいというのはなんとなく理解できる。



「おまけに訓練をするとしないとでは、【魔術師マジシャン】の地力がかなり変わってくるからねぇ…」

「そこまで重要なんですか」

「当たり前だよ。剣士だって剣の型だけ学んでも、それを扱えるだけの腕力がないと意味がないだろ?」



 そう言われると理解しやすいな。確かに俊の道場で受けた剣の稽古も、まずはひたすら剣を振るうところから始まっていた気がする。



「俺になにか出来ることはないか?カルティが任務に出ないなら暇だし、力になるぜ?」

「ありがとうございます。実は…いえ、」



 ガイさんにもお願いしたいことはあるが…今話すのはちょっとな。



「とりあえずは訓練に集中したいと思います。もし余力があれば、是非相談に乗っていただきたいです」

「…そうか。あまり抱え込むなよ?」

「…はい」



 ガイさんには流石に気付かれるか…こっちには気付かれていないようで良かった。



「では、また明後日に伺います」

「ああ、待ってるよ」

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