150.調査開始

「組もうって言ったのはエイムでしょ?」

「そりゃそうだけど」



 あの時はまだリーゼがいなくて二人だけだったし、誰かをパーティーに加える予定もなかった。それから半ば強引にリーゼが加入して、今の今までやってきた。俺の記憶が間違っていなければ、誰がリーダーかなんて決めたことはなかったはずだ。



「決めてたわけじゃなかったの?勝手にそうだと思ってた」

「…なんでだ?」

「…なんとなく?」



 疑問に疑問で返されても困る。



「普通にその認識でいたけど…最近はエイムを中心にパーティーが回っている気がするし、そうしてた方が面倒事が減ると思うわよ」

「うーん…」



 確かにそう言われるとそんな気もするが、それはかつての日本の首都であるトウキョウにいるからだ。向こうも日本人が相手の方が話しやすいだろうということで、ここでは俺が前に出ることが多い。



「今までと何か変わるわけじゃないし、良いんじゃない?」

「…面倒事押し付けたりしないか?」

「お偉いさん相手は任せたわよ」

「おい」



 その気満々じゃねぇか。目上の相手にはそれ相応の態度で接しているつもりだが、礼儀作法とか全然知らないんだよな…。



「冗談よ、形だけ形だけ」

「…まぁ、何でも良いけどよ、逆に二人は嫌なのか?」

「嫌」

「柄じゃないわ」



 …何故かは分からないが、二人ともリーダーは嫌らしい。リーゼは場所によっちゃ人前に出ない方が良い場面もあるだろうから、まだ分からんでもない。だがシルヴィアはむしろ、俺達の中じゃ一番似合ってると思うんだけどな。


 とはいえ、嫌がってるなら別に押し付ける気はない。特に嫌というわけでもないし、俺達の中で何かが変わるわけでもない。俺は気にせずに話を受け入れ、一応この話は終わった。





♢ ♢ ♢




「さて、それじゃもう一度確認するぞ」

「ん」

「了解よ」



 翌日、昨日のうちに依頼のための準備を整えた俺達は、再びカツロ山までやってきていた。門番をしていたのは先日とは別の人間だったが、どうやら話は通っていたらしく、今回は余計な問答をせずに済んだ。


 今は山に入る前に、依頼内容の再確認を行っているところだ。



「今回の依頼はあくまで調査、討伐する必要はない。まだ姿を見てないから、もう既にここにいない可能性もあるが、まぁどっかにいるだろうな」

「ん」

「今回は前と違って、横道も含め全ての道を網羅していく。必然的に時間もかかるから、恐らくはどこかで野宿することになる」

「ええ」



 勿論、今回の物資はそれを考慮した上で補給してきた。そのため俺達にしては珍しく、かなりの大荷物になっている。


 荷物は大部分を俺とリーゼで担当し、最悪捨てても構わないようなものはリーゼが持っている。シルヴィアは戦闘時に一番荷物が邪魔になるからな。



「もし遭遇した場合、逃げられる状況なら選択は撤退一択だ。無理なら…戦うしかない」



 だからと言って、恐れる理由にはなり得ない。もとよりそのつもりでこの場所に来たわけだしな。



「そしてもし今回の調査で目標を発見できなかった場合、軍はこの場所から撤退したと判断し、この山での採掘作業を再開するそうだ。つまり、今回俺達がヤツを見逃してしまった場合は…まぁ、これは言うまでもないか」



 そんな重要な依頼を外の人間に任せるなと言いたいが、遭遇したときの危険性を考えると、実力的に信頼できる人間に任せたいという考えは分からなくもない。トウキョウの実力者として名高い葛城総司令は、色々と忙しい身だろうし。



「…とにかく、依頼の難易度的にはそこまでだが、重要度は極めて高い。今更言うことじゃないが、気を引き締めていこう」

「ん!」

「ええ!」



 そういって俺は、カツロ山へと足を踏み入れる。



「………!」

「大丈夫?」



 最初に足を踏み入れた時と同じ感覚が、俺の全身に襲い掛かる。だが、衝撃のレベルとしては弱く、我慢できないほどじゃなくなっている。俺が予め身構えていたのもあるだろうが、それにしても前回よりは衝撃が薄い。



「ああ、問題ない」

「その悪寒の正体も、今回の調査で分かると良いわね」

「そうだな、いつまでも未知ってのも気色が悪い」



 これに関しては本当に一切情報が無い。念のため総司令にも確認してみたが、山に入った時に悪寒を感じたという報告は上がっていないらしい。



「隊列はいつも通り、私が先頭で良いわよね?」

「ああ、後ろは俺だな」






♢ ♢ ♢



(…む、この感覚は)



 英夢達がカツロ山に足を踏み入れた時、暗闇で一匹の生物が体を捩らせる。



(あの時と同じ…大人しく、帰ってくれたものだと思っていたが)



 その生物は眠そうに目を擦ると、おもむろに立ち上がる。



(ここは楽園だと思っていたのだがな…流石に、動くか)







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