149.エイムの望むもの

 つまるところ、今の一連の行動は、俺達から望む物を見つけ出すためのお膳立てだったわけか。予め葛城総司令と口裏を合わせていた…と言うわけではなさそうだな、葛城総司令も納得したような表情を浮かべている。



「そうですね。確かに、それが最良の選択だと思います。皆さんはどう判断いたしますか?」

「ああ。我々としてもそれで問題ない」

「こちらもです。やはり財政的な負担は、なるべくかけたくないですからね」



 まぁ、俺達が通常通り金銭を要求することもあるんだけどな。とはいえ、向こうが用意できないというなら、別の何かを考えるくらいの良心は残っている。



(つっても、この街で欲しいものか)

「二人は何かあるか?」

「私は特に」

「同じく」



 …そうだよな。俺達は名誉欲もないので、ここで地位を確立させるつもりはない。何なら現状でも十分好待遇だ。それ以外となると、ないことはないだろうが、危険な依頼と釣り合うだけの報酬となれば、中々候補は浮かび上がってこない。


 要求に少々こちらから手心を加えるのは構わないが、それで追加の依頼をされると面倒に面倒が重なる事態になる。


 何より桜先輩が折角誘導してくれたのだ、何か依頼と釣り合う物…人材?いや、流石にそれは倫理的に問題があるだろうし、何より俺達には特に必要な人材が思い浮かばない。


 金銭、地位、人材。そのどれもが必要ないとなると、あとは…



「あ」

「何か思い浮かんだかい?」

「はい」



 俺はすばやくシルヴィアとリーゼの二人に視線をやり、了解を得る。二人はそれに無言でうなずく。俺に任せる、ということだろう。



「この街に図書館、一部区域に立ち入りが禁止されている箇所がありますよね?」

「…ええ」

「そこへの立ち入り許可を貰うことは可能ですか」



 カツロ山の調査を行ってから、俺は一度トウキョウの図書館を訪れていた。建物のどこか懐かしさを感じさせる様相にしばし感傷に浸ったりなんかもしたが、気になる点が一つ。


 以前の図書館では考えられなかった、立ち入り禁止エリアがあった。


 時代が戻ったような街並みには似合わぬ、無機質な暗証番号付きの扉で厳重に管理されたエリア。受付の人に尋ねてみたところ、そのエリアには限られた人間しか入る事が許されておらず、その受付の人も扉が開かれた所を見たことはない、とのことだった。



「なるほど、そう来ましたか…」



 葛城総司令は即答しない。一度腕を組み、思考を巡らせているようだ。周りの人間の反応は様々。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるものもいれば、きょとんとした表情で総司令に視線を向けているものもいる。



(反応が分かりやすくて助かるな)



 今表情を変えている人達が、禁止エリアに立ち入りを許されている人間なんだろう。その顔から察するに、やはりあのエリアには何か後ろめたい事実が隠されている、ということか。


 この時点で交渉の成立にかかわらず、禁止エリアに侵入するのは確定事項となったわけだが、できれば穏便に正攻法で立ち入りたい。



 …ここはひとつ、譲歩してみるか。



「無論、そこで得た情報に関しては一切口外しないことをお約束します。マーティンに持ち帰って、軍の人間に漏洩させるつもりはありません」



 後ろに控えているシルヴィアの雰囲気が、わずかに揺れるのを感じる。それはそうだろう、俺達の任務には、この街の現状把握も含まれているのだ。


 それはつまり、この街でなるべく情報を持ち帰ってこい、ということ。具体的な指示はされていないから、積極的に情報を集める必要はないだろうが、得た情報を報告しないという俺の発言は、シルヴィアを動揺させるには十分だ。



 だが、任務を無視してでも、俺はあそこに確かめたいことがある。この街に入ってから、あることに関する情報が不自然なほど見つかっていない。抹消されずに情報が残されているとすれば、間違いなくそれはあそこにある。



 総司令は、ジッとこちらを見つめる。その雰囲気には俺達が初の邂逅を果たした時と似たようなものがあり、恐らくは俺達へ向け『威圧』を発動させているんだろう。


 だが、残念ながら俺にそれは無意味。ここで意趣返しに『死圧』を発動させてもいいが、無用なトラブルを招くつもりはない。葛城総司令はその程度で腹を立てる人間じゃないだろうが、周囲の幹部達はどうか分からないし。



「…はぁ、分かりましたよ。ただし、立ち入るときは許可を得た誰かしらが同行することとします。よろしいですね?」

「了解です。では、交渉成立ですね」

「はい。カツロ山の調査、よろしくお願いします」

「全力を尽くします」



 そこが決まってしまえば、会議はあれよあれよと進んでいき、数十分ほどで会議はお開きとなった。



「悪いな。勝手に進めちまって」

「構わないわよ、本当に欲しいものは無かったし…それにしても、なんか既視感があるわね」

「そうか?」

「ん。私達の森に来た時も、同じような感じだった」



 ああ、そういえば。ダークエルフの森でもシルヴィアに相談することなく依頼の受注を決定してしまったな。あの時は状況的に仕方なかったが、そう思うと何かしらの決断は、毎回俺が決めてしまっている気がする。



「嫌だったらちゃんと言うし、気にしなくていいよ」

「そうね。特に決めてなかったけど、このパーティーのリーダーは間違いなくエイムなんだし」

「まぁ、二人が構わないなら問題ないが…待て、俺がリーダー?」


 

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