202.死神の休息
「英夢君、入るわよ~」
ここはトウキョウにある病院の一室。聞き慣れた声が扉の向こうから聞こえたため、俺はベッドから体を起こす。
「あら、起きてたの」
「おはようございます」
「おはよう、調子はどう?」
「もうバッチリですよ、早く体を動かしたくて仕方ありません」
ドーベルコボルドの討伐に成功し、何とか無事に帰還することが出来た俺達は、そのことを軍に報告…する前に病院に連れていかれ、そのまま俺だけ緊急入院する運びとなってしまった。
まぁ実際、血を流しすぎて若干ふらついていたし、あの中で一番傷が深かったのは俺だったとは思うが、それにしても一週間もベッドに拘束されるハメになるとは思わなかったな。
「確か今日で退院なんでしょ?」
「ええ、この後の診察で問題が無ければ、晴れて解放です」
「解放って…まぁ、自由が効かない生活が辛いのはわかるけど。とりあえず、預かったものがいくつかあるから、ここに置いておくわね」
桜先輩が持ってきたのは、封筒がいくつかと、籠一杯に埋められた果物。ほんとに病人扱いをされてるみたいで、少しリアクションに困る。俺は既に健康体そのものだし。
「で、英夢君?」
「…はい」
「わざわざ私一人を指定したってことは…教えてくれるのよね、君の本当の実力について」
「………」
俺はドーベルコボルドとの戦闘の中で、様々な【
「ええ、勿論です。ただ、その前に…」
「今からの話は他言無用、でしょ?」
「はい、その通りです」
【
当然、シルヴィアとリーゼが一緒にいるのは全く問題ないが、菊川さんや正真さん、その他の人間にこの話を聞かれるわけにはいかない。出来ればこんな場所じゃなく、もっと防諜設備の整った場所で話したかったのだが、よくよく考えればそんな場所を知らないことに気付いた。
セキリティ面、プライバシー面で言えば桜先輩の家が一番だが、なんかあそこの家、盗聴されている気がするんだよな。
「安心して、人払いは済ませてるから。この部屋には誰も近付かないようにお願いしているわ」
「…助かります。じゃあ話しますね」
俺はそれから、俺が経験した本当の三年間のことについて、桜先輩に包み隠さず話していった。ゆっくり、本当にゆっくりと、途中で言葉を詰まらせながら、時間をかけ、全てを打ち明けた。
「なるほどねぇ…」
「その後はシルヴィアに迷宮に中で会って、外に連れ出してもらって…後は再会した時に話した通りって感じです」
…この話をする度に毎回思うが、本当によく脱出できたよなぁ。もう一度同じことをやれと言われても絶対に無理だ。何度も死にそうになったし、何度も心が折れそうになった。
「【
「ですね。なので、隠しておくのが無難かなと」
「まぁ、でしょうね」
この場所に訪れるまでは、「バレたらどうなるかは分からない」から隠していたが、この前の
「あー、そういえば…最初にトウキョウの軍が壊滅させられたアイツ、いたじゃないですか」
「…ええ、私は見たことないけど」
「どうやらそいつも神だったらしいです。狼の神、【
あの神様からは口止めされていたが、桜先輩は無宗教だろうし大丈夫だろう。もし先輩がエールス教の教徒だとしても、この人にそこまで深い信仰心が眠っているとは思えない。
「…神様って、実はそこら中にいるものなの?」
「いや、そんなことは無いと思いますよ?俺も今まで出会ったのは
「ふぅん…ま、これ以上は気にしても仕方ないか」
神なんてそうそう出会うことはないだろうし、それで良いと思う。
「ということなんで、何度も言いますけど、どうかこの話は内密に」
「勿論よ。話してくれてありがとね」
話し過ぎて喉が枯れてきたので、水分補給も兼ねて貰った果物に噛り付く。甘酸っぱいリンゴを堪能しながら、ついでに封筒の中身にも目を通していく。多くは軍人からの感謝の手紙で、それ自体は普通に嬉しいんだが、生憎ほとんど相手の名前を知らないんだよな。
「あ、そういえば…」
「ん?どうしたんですか?」
「その封筒、総司令から預かってきたの。私も内容は聞いていないんだけど…なるべく早く読んで欲しいって言ってたわ」
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