203.戻りゆくかつての首都

 葛城総司令から…?一体なんだろう、諸々の報告は先輩やシルヴィア達に任せているし、わざわざ俺を指定しなければいけないようなことなんてあるのか?


とりあえず俺は指さされた封筒を開け、中の手紙に目を通す。



「何て書いてあった?」

「…いや、詳しいことは何も書かれてないですね。とりあえず退院して落ち着いたら、一度本部に顔を出してほしいそうです」

「ふーん…」



 わざわざ呼び出されなくても、一度くらいは顔を出すつもりだったが、この感じだとなるべく早く行った方が良さそうか…?


 そんな風に悩んでいると、病室の扉がコンコンと叩かれる。



「すみません、そろそろ診察のお時間なのですが…」

「ああ、もうそんな時間なのね」

「意外と話し込んじゃってたみたいですね」



 実を言うと、定期診断の時間はとっくに過ぎている。向こうの人達が気を遣ってくれたんだろうな。



「この診察で退院?」

「はい。何もなければ」

「分かった。それじゃ、外で待っておくわね」





♢ ♢ ♢




「お待たせしました」



 最後の診察も無事に終了し、いつもの黒ローブを身に纏った俺は、病院の前で待つ桜先輩の元へと向かう。



「問題は無かった?」

「はい、無事に退院です」

「おーい、エイムー!」



 タイミング良く、シルヴィアとリーゼも合流する。これまでもちょくちょく見舞いには来てくれていたが、こうしていつもの感じで会うのは随分と久しぶりだ。



「どう?久々の外の気分は?」

「とりあえず、軽くで良いから体を動かしたい気分だな」



 病院内でも軽いストレッチは行っていたが、どうしても普段の運動量と比較してしまうとな。確実に体は鈍っているだろうし、またリハビリ任務を受けないといけない。



「じゃ、何か軍で依頼でも受ける?」

「…それなんだが」



 俺は二人に、葛城総司令から手紙が送られていた件を伝える。特別隠さないといけないような内容でもなかったし、向こうも二人に伝えられることは織り込み済みのはずだ。



「…ふーん。なんでしょうね、わざわざ呼び出しなんて」

「二人には?」

「来てない」

「まぁ、報告なんかでちょくちょく顔は出していたけど…」



 ってことは、やっぱり俺個人に何か用があるってことだよな。



「…気になったまま放置するのも気持ち悪いし、一旦総司令の所に顔を出そうと思う」

「それがいいでしょうね、すぐに会えるかどうかは分からないけど」

「ん、りょーかい」

「私も行くわ。なんだか気になるし」



 ということで、俺、シルヴィア、リーゼ、桜先輩は四人で、そのまま本部へと足を運ぶ。街を眺めながらぶらぶらと進んでいるうちに、俺はある変化に気付く。



「先輩」

「どうしたの?」

「何か祭りでもやるんですか?俺の勘違いじゃなきゃ、普段より活気がある気がするんですけど」



 現在が日中ということもあるかもしれないが、いつもよりも街全体の雰囲気が明るい気がする。交通人の顔にも笑顔が多く、やる気に満ち溢れているような表情が見える。



「…何言ってるのよ」

「へ?」

「カツロ山の件が一段落したからに決まってるじゃない。鉱山の採掘作業も再開されて、そのうち財政難も少しはましになるでしょうから」

「あー」



 一週間経ってるせいで、完全にその件が頭から抜け落ちていた。そうだよな、半年以上悩まされていた事案が、一応とはいえ解消したんだ。そりゃあ雰囲気も変わるか。


 俺達がコルネラの繭(から生まれたコボルド)を破壊してから、徐々にコボルドはその数を減らしつつあるらしい。まだ転移についての謎とか、色々と分かっていないこともあるが、それも時間が解決してくれるはずだ。



「変わったというより、戻ったっていうべきかもね。以前のトウキョウに」

「なるほど…」



 マーティンに比べれば、きっと楽な暮らしじゃない。それでも、日本人達はこの地で強く生きている。その事実を、今この時はっきりと実感できた気がする。



「私達のこともそれなりに広まっちゃったみたいで、ちょくちょく声を掛けられることもあるわよ」

「へぇ」

「軍の方から情報を提供してるわけではないんだけど、人の口に戸は立てられぬって言うからね」



 実際に俺達が戦う光景を見た人間は極少数、というかいないはずなんだが…ま、どうでも良いか。特に害があるわけでもないし。



「そういえば、あの任務に参加してた人達は無事だったんですか?」

「ええ。あのコボルドの波に呑まれた部隊もあったみたいだけど、幸いなことに死者は一人も出なかったわ」



 あの波を生き延びた部隊がいたのか…。あの場所に集められたのがエリート部隊で本当に良かった。別に軍の人達とのかかわりが深かったわけでもないが、自分の起こしたことが原因で死人が出るのは、後味が悪いからな。



「怪我人はそれなりに出たけど、一週間以上の入院を余儀なくされたのは英夢君くらいよ」



 本当は一週間も入院する必要なかったんですけどね。



そのままぶらぶらと雑談も交えながら歩いているうちに、軍本部まで辿り着いた。やっぱ街事態が広いから、歩いて向かうとそれなりに時間がかかるな。



「…到着したね」

「街は明るくなったが、ここは特に変わりないな」



 以前からのイメージもあって、国会議事堂が建て替えられたこの軍本部には、どうしても物々しい雰囲気を感じてしまう。



(さと、と…すぐに面会できると良いけど)


 




 

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