204.任務報告
「流石にそれは……はい、どなたでしょう?」
「総司令、天崎様がお見えになられました」
「ああ、天崎さん!どうぞ入ってください!」
今まで聞いたことのないくらい明るい声色の葛城総司令から許可が下りたので、俺は総司令室へと足を踏み入れる。
本部入口で受付に取り次ぎをお願いした俺達一行は、そのまま速やかに総司令室まで案内された。
「待っていましたよ、もう体は大丈夫なのですか?」
「ええ、健康そのものです」
「そうですか、退院おめでとうございます」
そういう葛城総司令も、以前より顔が明るくなったように見える。別に今まで暗い印象を抱いていたわけではなかったんだが、今の状態を見る限り、やはり相当思い詰めていたんだろうな。
「私からも、おめでとうと言わせてくれ」
「…正真さん、ありがとうございます」
どうやら正真さんも同席していたらしい、後ろには菊川さんも付いている。何やら話し込んでいたみたいだが、俺達が入ってしまって良かったんだろうか?
「立ち話もなんですから、少し掛けて下さい」
そう言う葛城総司令に対して、正真さんは以前と変わらぬ表情で何も言わない。大丈夫、ということなんだろう。お言葉に甘えるとするか。
「天崎さんをお呼びした理由は2つ、まずは今回の任務の顛末を、私の方から報告しておこうと思いまして」
簡潔な報告はシルヴィアや桜先輩から聞いているが、一応聞いておいた方が良いか。
「まず、報告に上がっていたコルネラの繭についてですが、あれから再度調査を行った結果、完全に破損していることが判明しました。王国出身の【
コボルドを産み出し、更には強化まで行う旧時代の遺産、コルネラの繭。コボルド達を制御出来るのであれば、トウキョウにとってかなりの戦力になっただろうが、残念ながらそれは叶わぬ夢となったらしい。
まぁ、そのコボルド達を制御するってのが、そもそもの問題なんだけどな。魔獣を御する職業はいくつかあるらしいが、繭から産み出された魔石を持たないコボルドも制御できるかは微妙な所だ。
「ですが、収穫が無かったわけではありません」
「…情報、ですね」
「その通りです。リーゼさんに解読して貰ったあの資料があれば、コルネラの繭を復元出来ずとも、何らかの形で転用できる可能性は決して低くありません」
現物はなくなってしまったが、情報は残された。リーゼの方に視線を向けると、若干ゲンナリしたような表情している。
今この街にあの文字の解読が可能な人物はリーゼただ一人。つまり資料の解読はリーゼ一人で行ったことになる。どうやら正式に軍の方から解読の依頼があったそうで、そのせいで俺と同じくあまり体を動かせていないらしい。
(今度労ってやらないとな)
あの『
「それに、僅かではありますが魔導具も見つかったようです。ほとんどは破損してしまっているようですが、王国の魔術師によれば、いくつかは修復できるそうですよ」
どうやら物理的な成果も多少はあったらしい。俺達の調査中にはあまりそういったものを探している余裕はなかったから、どんなものが見つかったか後で見せて貰いたいな。
「総括して、今回は予想以上の成果を上げることが出来た、と言って良いでしょう。一連の騒動で被った被害は決して小さいものではありませんが、それでも他の街に比べ様々な意味で出遅れていたこの街にとって、得たものは非常に大きい」
『混沌の一日』以降、変わってしまった世界で、トウキョウという日本の街をここまで世界に適応させるために、きっとこの場にいる人達は多大な犠牲と、惜しみない努力を重ねて来たんだと思う。
だがそれでも、シルヴィア達が元いた世界から存続している街に比べてしまうと、発展の度合いでは劣っていた。今回得た『情報』というカードは、その差を直接埋める要因にはなり得ないかもしれないが、今後の交渉において大いに役立つはず。
「──ですが、まだ足りません」
「……?」
「私はこの街を守るため、トウキョウという街を強くしていかなくてはいけません。魔獣の脅威は勿論のこと、今現在は友好的な関係を築けている他の街との関係も、未来はどうなるか分かりませんから」
部屋の雰囲気が、少し硬くなったのを肌で感じた。葛城総司令の声色が変わったのもそうだが、総司令と正真さんの二人が、少しピリピリしているように感じる。
「そこで、天崎さんに相談があるのです」
「この件が終われば、街を出るとお話したはずですが」
「分かっています。私が相談したいことは、その後の話。次の目的地は伺っていませんが、その一件が終わってからで構いません」
…俺がこの街を出た後にもう一度戻って、ということか?話の全容は見えないが、ひとまず緊急性のある話ではなそうだ。それなら、一旦話を聞くぐらいは別に良いか。
そう思ったのも束の間、次の総司令の言葉に、俺は体を強張らせる。
「天崎さん、この街に所属しませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます