201.連鎖する死憶
霧から逃れたことにより、スキルを使えるようになった私は、地に足を付けて構えを取る。
「はああああああああああああ!!」
私は『剣の世界』を発動、コボルドの体を切り刻みにかかる。コボルドは当然のように、斥力場を展開して防ごうとするけど、そんな小さい斥力場じゃ防ぎきることは出来ない。
「あああああああああ!!」
魔力を纏わせた『剣の世界』は、目の前の全て切り裂いていく。槍を、体を、そして霧を。全てを切り裂き、視界が良好になったタイミングで、コボルドの背後に張り付く死神に向かって、私は叫ぶ。
「エイムーーーーー!!」
「『
♢ ♢ ♢
─side Aim─
「エイムーーーーー!!」
「『
ドーベルコボルドの背後に周り、じっと時を待っていた俺は、今まで気配を消すために遮断していた魔力を一気に解放し、ドーベルコボルドに飛びかかって頭を掴んで、俺の棚に仕舞われていたスキルを発動する。
『
対象者にとって最も身近な存在の、死の恐怖の記憶を呼び起こす。
スキルの説明が短すぎて、最初は全くその効果の内容が分からなかった。自分に使うことは出来なかったし、魔獣相手だと効果が効きづらい奴も多かったので、スキルの実証にはかなり苦労させられたな。
「WO…WAAAAAAAAA!!」
その苦労が、今ようやく報われる。頭を掴まれた状態のドーベルコボルドは、この時生まれて初めて絶叫を経験した。
このスキルの「対象者にとって最も身近な存在の、死の恐怖の記憶」というのは、自身の肉親や兄弟等、自身が目にしてきた中で最も辛いと感じた死の瞬間を脳内で再生する、というスキルだ。もし俺がこのスキルを喰らえば、恐らくは俺が母親の死体を発見した瞬間が映し出されることになるだろう。
だから、死を目にしてきたことが無いような人間にこのスキルを当てても効力はないし、それが本人にとって悲惨なものでなければ映し出されても特に意味が無い。仲間意識の低い魔獣に使っても意味が無く、相手に直接触れられる距離まで近づかなければいけないこともあり、使いどころが非常に難しいスキルだ。
「WAU…WA、WAUWAAAAAAA!!」
しかし、この場面においてスキルの効果は絶大。こいつにとっての「最も身近な存在」は、己を構成しているコボルド達、その全員。恐らくはその全ての光景が、今こいつの脳内には映し出されているはず。
銃で、剣で、弓で、魔術で。様々な方法で殺されるその光景の壮絶さは、俺では想像もつかない。
これまで散っていった数多のコボルド達から学習しており、尚且つ仲間意識もあるなど、スキルが有効だと判断する材料は幾つかあったが、それでもスキルが有効かどうかは、使うまで不安半分だった。そもそもこいつに、恐怖という感情が備わっていない可能性だってあった。
だが、俺達は懸けに勝った。
「WA!!WA!!」
「離すかよ…!」
頭をぶんぶんと振り、俺を引き剥がそうとするが、このスキルは俺が触れてる間しか効力を発揮しない。つまり、離すわけにはいかない。
暴れるだけでは俺を引き剥がすことが出来ないと判断したドーベルコボルドは、痛みに呻きながら、拳を後ろに回して俺を殴り始めた。拳は頭に命中し、俺の頭にも痛みが走り始める。だが、離さない、絶対に。
「やめなさいよ!!」
そんな状況を見たシルヴィアが、加勢に入る。槍もなく、想像も絶するような恐怖に襲われてるドーベルコボルドには、シルヴィアの剣を防ぐことは出来ず、『剣の世界』によって体中に刻まれていた切り傷が、更に深いものになっていく。
だがそんな状態になってもドーベルコボルドは、まるで攻撃に気付いていないかのように、俺への攻撃を止めない。脳内に浮かび上がる恐怖の感情が大き過ぎて、シルヴィアの攻撃の痛みを感じていないのかもしれない。
「WAAAAA!!WAOU!!」
「ぐっ……がっ……」
俺の頭からは血が流れ、意識が朦朧とし始めた、だが、集中を切らせばスキルの発動が解除されてしまう。俺は意地で意識を保ちつつ、ラルのグリップに手を掛ける。
「いい加減、くたばりやがれえ!!」
「WUAAAAAAA!!」
銃口を頭に直接当て、ゼロ距離で引き金を引く。さっきは銃弾を受けても意に介さなかったドーベルコボルドは、その体を大きくぐらつかせる。そしてそのタイミングを見逃さなかった者が、一人。
「英夢君!!しゃがんで!!」
その声に応え、俺は頭から手を離さずに、体だけ姿勢を下げる。
「はああああ!!」
その瞬間、ドーベルコボルドの頭を、一本の稲妻が貫いた。俺の手を貫くことは無かったものの、若干痺れを感じて反射的に手を離しそうになるが、ぐっと堪える。
「WA……WOU…」
稲妻、もとい桜先輩の矢を受けたドーベルコボルドは、そのままガクンとその場に倒れ込んだ。俺は脈を確認し、手を離す。
「…俺の手に当たったらどうするつもりですか、先輩?」
「当てるわけがないでしょ、私を誰だと思ってるの?」
ニヤリと笑う先輩に対し、俺は苦笑いを返した。
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