233.帰路での語らい 後編
「そういえば貴方、他の十王とも接触したような口振りじゃありませんでした?」
「ああ、一度遭遇しましたよ。前回は歯が立ちませんでしたけど」
前回の十王、雷王グリゴールとの戦いは、結果的に見ればグリゴールの撤退という形だったものの、戦闘全体を見れば俺達が敗北していたのは言うまでもない。あのまま戦っていたとしても、精々誰かが差し違えられたかどうか、と言ったところだろう。
だが前回のあの敗北を糧に、俺達は強くなり、今回の戦いでその成果を遺憾なく発揮した。そう捉えるならば、あの敗北にも意味はあったのだと思う。
「雷王グリゴール……なるほど、貴方が”藍髪の銃士”ですわね」
「うぐっ」
「”藍髪の銃士”?」
「何それー!マリアちゃん、詳しく!!」
好奇心を隠そうともしないなぎさの様子を見て、すぐさま止めに入ろうとしたが、一歩遅かった。
「そうですわね、私も部下からの報告しか知りませんけども──」
……どうやら王国側も、列島の重大事件の情報は集めているようだ。黒の魔獣や十王の出現、さらに先日の古代遺跡の情報まで王女様は掴んでいた。そしてその話の中心には、常に同じ軍人のパーティーがいたことも。
「──私に報告がきている所だと、こんなところですわね」
「……えーと、英夢?実際のところは?」
「……多少脚色はされてるが、大筋は話通りだ」
「英夢君、勇者パーティーの私達より活躍してない?」
できることなら、そんな活躍は遠慮したいところではある。奇跡的に俊達と再開するまで生き延びることが出来たが、その道のりはいつ命を落としてもおかしくなかった。
「なんというか……思ったよりも逞しく生きてるみたいで安心したよ」
「逞しくならなきゃ、あの迷宮では生き残れなかったからなぁ」
「昔の英夢君もかなり逞しかったけどねー、高校生で一人暮らしって、ウチじゃ珍しかったし」
「生活費を稼いでいたわけじゃないから、そこまでじゃないけどな」
霞ヶ丘学園は多数の設備が充実した私立高校ということもあり、かなり金銭的な負担は大きかった。俺や俊のように推薦で入学すれば別だが、あの高校に入学している時点で、かなり恵まれていると言える。
「………」
「……なんだ、リーゼ」
「……私達の知らないことばかり」
「まぁ、三年以上前のことはほとんど話してないし……」
家族のこととか、体の傷については話したが、学校でのことはほとんど話してない。これは嫌だったとかそういうわけではなく、ただ単純にそういう機会が無かっただけだ。特にリーゼが加わってからは、時間的に余裕のない生活が続いていたし。
「知りたい」
「ま、そのうちな……と、そろそろ出口か」
迷宮の主を討伐した(討伐したのは俊達ではなくカナロアらしいが)ためか、魔獣は全く出てこなかった。シルヴィアによると魔獣の反応はちょくちょくあるらしいので、本能的に俺達を避けているのかもしれない。
「良かった、この機能はまだ残っているみたいだね」
「これがなくなると、俺達はたちまち溺死だからな」
ここは海底の迷宮、当然ながらその出入口も海の底に存在しており、そして扉の類は存在していない。カミラの迷宮のように、転移盤によって出入口が繋がれているわけでもない。
なら何故この迷宮が水没していないのかというと、出入口にあたる部分に、魔術的防壁、膜のようなものが貼られていて、それが海水の侵入を防いでくれている。逆に言うと水以外の侵入は何も防がないので、俺達は自由に出入りできるし、ここで生まれた魔獣も主の海竜以外は外へと出放題、両国にとって悩みの種だったのも頷ける。
「因みに聞くが、俊達はどうやって入ったんだ?」
「うん?……ああ、先生の影に装備を一旦仕舞ってもらって、普通に泳いできた」
「……何が普通だ、滅茶苦茶危険だろそれ」
装備を脱いで泳ぐということは、迷宮の周囲に蔓延る魔獣に対して無防備を晒すということ。水中で動きを制御されているし、もし襲われれば抵抗の余地がない。
「全員隠密系のスキルは習得しているし、そこまで無謀というわけではないよ」
「怖いのはそうだけど、それ以外にどうしようもないしねー」
「逆に~、天崎君達はどうやってきたの~?」
俺達には先生みたいな収納系?のスキルを持った人間がいないし、シルヴィアの鎧は全身鎧ではないとはいえ金属があしらわれている。とても泳ぎに向いた装備ではない。
そして森育ちのリーゼはそもそも海を泳げないらしい。俺も、海の底まで潜水できるかと聞かれるといまいち自信がない。今の体ならなんとかなりそうではあるが。
というわけで、俺達がこんな海の底まで普通に泳ぐのは無理に等しい。その問題を解決してくれたのが、俺達の頼もしい精霊使いだ。
「リーゼ、頼む」
「ん、頼まれた」
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