58.現れた楔 後編
「待ってエイム!いくら何でも危険すぎるわ!」
「分かってる、だけどコイツの言ってることも間違ってるわけじゃない。別にコイツの背中を守るつもりなんて毛頭ないが、他の人達に信用されてないってのは連携時に支障をきたすかもしれない」
「だけど……!」
「随分余裕だね?君が【
「分かっててやったのかよ、やっぱ性格悪いな」
「君には負けるさ……まぁいい。現状の進行速度から考えて、討伐隊がされるのは二週間後と言ったところかな。それまでに、君の活躍が僕の耳に入るのを楽しみにしておくとしよう」
三下みたいな捨て台詞を吐き捨て、サイスは去っていった。
「大丈夫なのか?坊主」
「そうよ、アイツも言ってたけど、エイムの戦闘スタイルだと殲滅作戦とは相性が悪いじゃない。なのに……」
「大丈夫だって。策はある」
確かに俺の戦闘スタイルだと、ゴブリンのような群れを形成する魔獣相手だと相性は良くない。一度や二度ならともかく、何戦も継続するとなると弾丸や魔力の面ですぐにガス欠してしまう。
だが、それをカバーする策はある。でなければ、あの迷宮で生き残れるはずもない。あそこにだってその手の魔獣はいたんだから。
「それはそうと、カルティさんはどうしたんです?」
「今、件の巨大ゴブリンについての情報を集めてるところだ。今回のあいつは分からないことが多すぎる。もしかしたら古い文献なんかに情報があるかもしれないってんで、今はそこらへんを漁ってるところだ。」
「へぇ……軍にもそういった資料って残ってるものなんですか?」
「ああ。だがエイムにはまだ閲覧許可は下りないと思うぞ」
「……もしかして実績不足ってヤツですか?」
「こればっかりはな。中には軍からするとあまり見られたくないような書物も保管されてるし、相応の権限が必要なんだよ」
「ちなみに私にも許可は下りてないわ」
シルヴィアでも見れないのか。じゃあしばらくは無理そうだな。
「ちょっと脱線しちまったが、そろそろ受けてくるかな」
「ほんとに大丈夫?」
「だーいじょうぶだって。シルヴィアはどうする?」
「そうね……ガイさん、良ければまた一緒にお願いしてもいいですか?」
「勿論大丈夫だぜ。カルティが戻るまでちょっと待ってもらうが、構わないか?」
「はい」
ガイさん達と出てくれるなら安心だな。これで心置きなく自分に集中できる。
「じゃ、今日はここで一旦解散ってことで。終わったら家に帰るよ」
「ええ、鍵渡しておくわね。なくさないでよ?」
「分かってる」
シルヴィアから家の鍵を受け取り、一旦別れる。
「坊主」
「ん?なんですか?」
別れようとしたが、ガイさんが小声で話しかけてきた。
「気を付けろよ……敵は魔獣だけとは限らねぇ」
「……分かってます。ないとは思いたいですけどね、相手のためにも」
別に俺としては、相手に敵意があるなら魔獣だろうと人だろうと関係ない。マーティンの外なら何があってもバレないだろうし。
「……杞憂だったな。その返しができるなら問題はなさそうだ」
そう言い残し、ガイさんはシルヴィアと共に歩き出す。安心してもらえたようで良かった。
♢ ♢ ♢
「すいません、依頼の斡旋をお願いしたいんですが」
「はい、承ります……あら?あなたは昨日の」
「ん?ああ、ども」
受付のいたのは、昨日任務報告した人だった。なんか受付の人とどんどん知り合いになっているようだが、ここに通うようになれば、ほとんどの受付の人とは知り合いになる気がする。
「昨日の今日でまた依頼ですか?精が出ますね」
「色々と必要なものが多い状況なので。それに、どうやら休んでいる状況ではなさそうですし」
「そうですね、昨日話していたゴブリンの増殖の件も、例の巨大ゴブリンが関係している可能性が高いと軍でも予想しています。できればテンザキさんにもゴブリン掃討にご協力をお願いしたいのですが……」
「勿論です。むしろお願いします」
別の依頼を紹介されたらどうしようと思っていた。
「ありがとうございます。依頼内容はゴブリン掃討、現在は強化個体も増加傾向にありますので、もしそちらを討伐された際には追加で報酬をお支払いします」
「それはどうやって判断するんですか?」
「証明部位である耳の大きさで判断します。体の大きさが変わらない強化個体も存在しますが、そういった個体は判断できなのでご了承ください。代わりと言っては何ですが、報酬金は通常のゴブリン掃討より高めに設定されています」
確かに、依頼書に書かれている報酬金は昨日受けた依頼より少し高く設定されている。目の前に危機が差し迫っている状況で少し不謹慎かもしれないが、駆け出しの軍人にとっては絶好の機会と言えるかもしれない。
「それと、依頼は単独で遂行されるおつもりですか?昨日は二人での遂行だったようですが」
「ちょっと事情があって、別々に行動することになりました。なので単独ですね」
「そうですか。こちらとしてはあまり推奨したくありませんが、テンザキさんなら大丈夫そうですね。それではご武運を」
新人だからひと悶着あるかもと思っていたが、昨日成果を出していたお陰でスムーズに依頼を受けられた。
「さてと、人目を気にせず行動するのも随分久しぶりだな」
久々に暴れるとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます