65.死神という存在
「ふーん、【
帰りの道中、俺はシルヴィアに本当の職業について話す。正直どういう反応をされるか不安だったので、大分ビビりながらというか、躊躇いがちに話していたと思う。
「どういう扱いを受けるか分からなかったからな。それが分かるまでは話さないでおこうと思ってたんだ」
ヤバイ職業だと分かっても、シルヴィアには話すつもりだったけどな。一人くらいは信頼できる協力者を作りたかったし。
「『十王が敗れしとき、反逆の死神は牙を剥く』」
「……なんだそれ?」
「『勇者の冒険』っていう、アルスエイデン、いや私達の世界で有名な絵本の一文よ。出版元はエールスハイトね」
「エールスハイト……確かそっちの世界で唯一の宗教国家だっけ?」
エールスハイト神国、絶対神エールスを信仰するエールス教を国教とする宗教国家で、『混沌の一日』以前はかなりの大国だったという。
それ以降の情報は俺の調べた限りでは見つからなかったが、宗教というのは人の心を強く固めるものだ。余程のことが無い限り、世界が変わっても健在なのではないかと思っている。
「正確に言えば小国は他にもあったと思うけど、そういった国は『混沌の一日』で崩壊しているでしょうからね……今はそうなっていると思う」
「で、その大国から出ている絵本に、死神がいたと」
「いえ、本の内容は勇者が魔王を倒すまで過程を描く、こういっちゃなんだけどありきたりな物語よ。さっきの一文は、絵本の最後に書かれてる文言ね」
「それ、明らかに続編フラグじゃないか……?」
十の王という存在がどういったものなのかは知らないが、物語に登場していない人物の存在を仄めかすのは、明らかにそういった意図があると思う。
「十王というのは、絶対神への抵抗が可能と言われる十の存在のことを指しているらしいわ。勇者が倒す魔王も、その一人とされているわね」
「なるほど……文脈から推察すると、死神はそいつらが全員敗れた後に登場するラスボス的な立ち位置にいるわけか」
「そうね。で、続編についてなんだけど」
「ああ」
やっぱ続編があるのか。俺はシルヴィアの話に、耳を傾ける。
「死神と勇者が戦って、死神が勝っちゃうのよ」
「……勇者が主人公の物語だよな?」
「ええ。だけど瀕死の勇者は最後の力を振り絞って、絶対神エールス様へと祈りを捧げるの。エールス様はその祈りに応えて、他の神々を従えて死神を打ち倒して、物語はそこで終わるわ」
「それはまた……ハッピーエンドと言っていいのか微妙な所だな」
最後の敵は倒せたが、主人公は死んでしまったわけか。人によって判断が分かれる話だな。
「……ちょっと脱線しちゃったけど、要するに【死神】はそれだけ危険な存在として認知されているわ」
「でも、それは俺とは別人じゃないか?そこまで化物染みた実力はないぞ」
流石に、神と戦えるような実力があると思うほど自惚れてはいない。
「それが他人に通じるとでも?実際どうなのかは分からないけど、エイムが【死神】だと分かったら、敵と判断して殺しに来る勢力は出てくるでしょうね。エールス教は、私達の世界のほとんどの人間が信仰する宗教だったし」
「やっぱ公開するのはやめといた方がいいか」
「それが賢明だと思うわ。かくいう私も、一応だけどエールス教徒よ」
「!?」
「……だからって剣を向けたりしないわよ」
それを聞いて心底安心する。シルヴィアと戦うことになるのは流石に堪えそうだし。
「だけど、信仰深い教徒ほどそういった存在に対しては敵対的になると思うわ。一部には同じ教徒の人達から狂信者と揶揄されるような人達も存在するし」
「やっぱいるのか。これは転職を真面目に考えないとな」
ガイさんの話によると、転職をするのはそれなりに金銭的な負担がかかるらしいが、それで命の危険が無くなるなら躊躇う理由はない。
「……残念だけど、それは難しいと思うわ」
「……なんで?」
「
「終わった」
万事休すとはこのことだ。どうやら【死神】から逃げるという選択は取れないらしい。一生職業を騙って生きていくのはほぼ確定事項だな、ボロが出なけりゃいいが。
「ま、私も協力するし、うまくやっていきましょ。もしバレちゃったときは……」
「ときは?」
「……どこかに逃げましょう。こうなった世界なら、人の住んでいない場所なんてたくさんあるでしょ」
「そんな場所での生活は、できれば遠慮したいな」
「それは私も同感、でもエイムは慣れてるんじゃない?」
「悲しいことに、確かに慣れてる」
なんせ三年ほど経験がある、だが同じことを経験したいかと聞かれれば、当然ながら答えはNOだ。協力者もできたことだし、何としてでも隠し通そうと心に誓った。
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