55.任務報告と波乱の香り
「換金をお願いするわ」
「はい、承りま……はい?」
初の任務としてゴブリン討伐に赴き、一度休憩を挟んだ後、再びゴブリンを殲滅していった俺達は、頃合いになったので軍の本部に戻ってきた。
「こ、この中全てですか……?」
「そうよ」
受付の反応が鈍いのも仕方ない。なんせ机の上にドサリと置いたのは、俺が背負っていったリュックサック。その中一杯にゴブリンの右耳を詰めて帰ってきたのだから。まだ時間的には狩れないこともなかったが、これ以上狩っても持ち帰れないから戻ってきたわけだ。
「か、確認に少々時間をいただいても?」
「ええ、問題ないわ」
「ありがとうございます。この机では確認しきれなので、コチラにおいでください」
そうして俺達は、奥の部屋に案内される。そこには机以外に何もない、一体どういう意図で用意された部屋なんだろう。
「ミーティングなんかで使う部屋ね、防音がしっかりしてるから、人に聞かれたくない話をするときに良く利用するわ」
「……へぇ」
もう思考を読まれても特に反応しなくなってきた。良くない兆候だな。
「ユミコー!ちょっと手伝ってー!」
「はいはい、便利屋ユミコさんですよー……ん?」
受付が呼んだ応援の人が、俺の方を見て固まる。俺の顔に何かついてるか?
「あ、思い出した!昨日試験を受けた人ですね?」
「はい、そうですけど……あ、受付の人」
「そうです。一度の試験で合格されたんですね、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
どうやら試験受付で色々説明してくれたあの人だったらしい、制服じゃなかったから全然分からなかった。
「知り合い?」
「昨日担当した人よ。で、どうしたの?」
「ちょっとこれの確認作業を手伝ってほしいの。私一人だと時間がかかりすぎて受付がパンクしちゃいそうだから」
「……これは何ですか?」
「ゴブリンの右耳です、今日討伐任務に行ったんですよ」
「……これが全て?」
「ええ」
さっきシルヴィアも似たようなやり取りをしていた気がするな。
「ね、私一人じゃ厳しいでしょ?」
「なるほどね。分かったわ、分担しましょう」
受付の二人は協力して証明部位の確認を始める。多分左耳が入ってないかとかそんな感じの確認だろう。人の耳と違って裏表の区別がちょっとわかりづらいから、二人でも時間がかかりそうだな。
「初任務でこれだけの討伐数ですか……協力者がいたとはいえ、良くこれだけの数を倒しましたね」
「まぁ、制限がないとのことだったので」
「だとしても非常識すぎます。あ、魔石の換金も一度に行いますか?」
「あ、お願いできる?一応持ってきているのだけど」
「ええ。これだけの数ですから、纏めてお渡しした方が楽でしょう」
とのことだったので、シルヴィアが持っていたリュックも机の上に置く。ゴブリンの魔石は非常に小さいので、俺のリュックよりはしぼんでいる。石だから重量的にはそこまで変わらないと思うけどな。
「はい、お預かりします」
「お願いするわ。これだけ狩れば流石にゴブリン相手でも実績を積んだと言えるわよね?」
「それは勿論、初任務でこれだけの成果ともなれば、しっかりと反映させていただきますよ」
「良かった」
これだけ狩れば別だろうが、ゴブリンは一匹当たりの報酬は雀の涙だ。だから今回の目的はどちらかと言えば実績を積む意味合いの方が大きい。無駄にならなくて良かった。
「ん?証明部位に比べて魔石が少ないですね、何かあったのですか?」
「あー、それは」
「彼が吹き飛ばして、捜索不可能になったの」
「……それもありますけど、こちらでもちょっと使用用途があるので」
「吹き飛ばす?一体どんな討伐方法を?」
「ノーコメントで」
真実は俺が狙い所をミスって、魔石ごと体を吹き飛ばしてしまっただけのこと。後半は集中力も切れてたから許してほしい。魔力消費もあって大分疲れてたんだよ。
「ふぅ、ひとまず確認終了。全部問題ないわ」
「こっちも、あとは数の確認ね」
「私は魔石の鑑定に移るから、それはお願いできる?」
図書館で得た知識によると、魔石は大きさと純度によってその価値が変動するらしい。純度というのはその魔石の鮮やかさによって判断されるらしいのだが、俺には違いが分からん。
♢ ♢ ♢
「はい、総数526匹分。ノルマ分を引いて506匹ですね」
「魔石は丁度300ね、等級は全部規格内よ」
「報酬金は……ユミコ、持ってきてもらえる?」
「分かった、ちょっと待ってて」
ユミコさんが部屋を出て、報酬金を用意しに行っている間、もう一つの任務内容だった調査報告をする。俺にやれることはないけどな。
「これだけの数から分かってもらえると思うけど、ゴブリンが増殖しているのは間違いない、多分例に見ないレベルだと思う」
「なるほど……原因についてなにか手がかりは?」
「それについては全く」
「そうですか。これはまだ調査依頼を継続する必要がありそうですね」
「任務を受けるかどうかは分からないけど、何かあれば報告するわ」
「助かります」
ほとんど中身のない報告を終えたタイミングで、ユミコさんが戻ってきたので、俺達は報酬を受け取って部屋を出る。
「お疲れ様、どっか寄り道する所とかある?」
「いや、特に思いつかない」
「じゃ、今日は真っすぐ帰りましょうか」
「ああ」
「総司令はいるか!?報告したいことがある!!」
本部エントランスに、聞き覚えのある声が鳴り響く。
「……サイス?」
声の主は、日本人支援部隊リーダーのサイス。あの強そうな装備がボロボロで、取り巻き二人に至っては痛々しい生傷が見えている。
昨日は結構侮るような発言をしたが、あいつが弱いとは決して思わない。むしろ装備だけ見れば軍では上位に入ると思う……そんなあいつがあそこまで消耗しているとは、一体何があったんだろう。
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