132.定例会議 後編
「な!?正気ですか?」
「なりません!!トウキョウがどれだけカツロ山の資源に依存しているか、あなたなら分かっているでしょう!!」
今まで静かだった会議が一気に騒ぎたち、主に幹部側から批難が殺到する。
「だが、総司令の意見も一考の余地がある。もしマーティンの彼が言った話が本当なら、目的は資源の奪還からこの街の防衛に変わるぞ」
「だがカツロ山の資源を失えば、それこそ防衛機能は失われるぞ。満足に武器の調達すら出来ない状態になりかねん」
どうやら山を崩すことに関しては賛否両論で、この街の経済的な面を管理しているであろう幹部側と、前線で戦う人間とで意見が割れているように見える。
そしてこの状況を作り出した葛城総司令はというと、先程とは打って変わって落ち着いた表情を見せながら、目の前の議論を静観している。
「ねぇ、英夢君」
「ん?どうしました?」
「英夢君はどう思う?葛城総司令の案」
…うーん。実際、どっちの意見も分かるんだよな。
「そもそも、山を崩すことなんて可能なんですか?」
「大変なのには違いないけど、出来るでしょうね。あの壁を作ったときに王国から派遣してもらった【
「へぇ…」
流石に【
「まぁ、どっちの意見も分かりますけど…俺個人としては、否定派ですね」
「あら、そうなの?あれだけ危険性を説いてたから、てっきり総司令の意見に賛同するものだと思っていたのだけれど」
「賛同してますよ。だからこそ、です」
「……?」
総司令や前線に出張る人達の、危機管理能力には賛同できる。俺も現場の人間だし。
「ただ…あくまでもし、巨大化が悪魔の手によって行われていて、黒の魔獣にまで進化していた場合…生き埋め程度で死んでくれるとは思えないんですよね」
「そうね。あの黒ゴブリンなら、まず間違いなく生き残ったでしょうし」
黒ゴブリンが使用した地面を媒介とした不可視の攻撃、『グランド・ノイズ』。あれを使えば生き残ることは容易だったに違いない。あれはあのゴブリンの固有スキル的なものだろうけど。
それともう一つ、ヤツが体に纏った半永久的な復活を可能にした黒い霧。あれは多分、あのゴブリンの固有能力じゃなく、黒の魔獣に共通する能力な気がするんだよな…根拠は何もないが、なんとなくそう予想している。
もしそれらが無かったとしても、今回はゴブリンよりも知能が高いコボルドの上位個体。何らかの手段を用いて生き残る可能性は高いだろう。
「皆さん、一度静粛に…今ここで決定するつもりはありません。二日後、もう一度会議を開催します。その時に多数決を取りましょう」
「…まぁ、それが良いだろうな」
「ああ。事態は急を要するが、一時的な感情に流されて決定していい案でもない」
「……」
葛城総司令は優秀な人物みたいだが、ちょっと危機感が足りてない。総司令という席に着いているからこそ、強引な決定は下せないというのもあるだろうが…
「本日の定例会議はこれで終了としましょう。各自、今回の案に関しては熟考するように。ここにいるメンバー同士で相談するのは自由ですが、まだ外部には漏らさないようにお願いします」
総司令の一言で、出席していたメンバーはぞろぞろと会議室を後にする。
そして残ったのは、総司令と俺、シルヴィア、リーゼ、桜先輩と菊川さんの6人となる。因みに菊川さんは定例会議開始時にはいなかったが、いつの間にか先輩の後ろに控えていた。最早ここまで来ると怖い。
「ふぅ…」
「お疲れ様です、総司令」
「ありがとうございます。地方開拓軍の皆さんも、わざわざ出席していただいてありがとうございます」
「いえ…それにしても、結構ヤバイ状況みたいですね」
「ええ…本当に」
葛城総司令は表情こそ変えていないものの、瞳の奥には底知れぬ恐怖が見て取れる。
当然だろう。自分の決定で、多くの資源や人を失うことになるかもしれないんだ。その椅子に纏わりつく責任は、あまりにも重い。
「多数決には桜さんも出席をお願いします」
「分かりました」
「それと申し訳ありませんが、地方開拓軍の方々は…」
「分かってます、俺達は外の人間ですから」
この街の命運を分けることになる大事な選択だ。外部の人間である俺達が出しゃばっていい場面じゃない。
「ご理解いただき、ありがとうございます」
「ですが、決定の会議には参加させていただきたいですね。場合によっては俺達の仕事も増えるかもしれないですし」
「ええ、それには関しては問題ありません…私も指令室に戻りますね」
葛城総司令はそう言うと、足早に会議室を出ていく。やっぱどこの街でも、総司令は多忙なんだな。
「私達も行きましょうか」
「了解です」
(さて、どうなることやら…)
俺はこの街に行く末に小さな不安を覚えながら、桜先輩の後を追った。
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