231.王女で聖者

「王女!?」

「……びっくり」



 何となく口調や仕草から高貴な雰囲気は感じ取っていたが、まさかこの国の王女だったとは。勇者に賢者に王女……先生の忍者も相当珍しいはずなのに、周りが濃すぎて霞んで見える。忍者としては正しい姿なのかもしれないけど。



「……」



 そして俺達側で唯一、驚いた様子を見せないシルヴィア。シルヴィアは王国出身の人間だし、以前に彼女の姿を見たことがあったのかもしれない。



「職業は先日転職しまして、今は【聖者セイント】に就いていますわ。このパーティーでは回復担当ですわね」

「マリアちゃんはすごいんだよー?私達のパーティーに加入したいって言って、前の職業を捨てて【回復魔術師ヒールマジシャン】に就いて、3年で【聖者セイント】まで上り詰めたんだから」

「その【聖者セイント】ってのは?」

「【回復魔術師ヒールマジシャン】系統の最上位職だよ。王国の話だと、新しく【聖者セイント】が生まれたのは50年ぶりらしいね」



 肩書きだけじゃなく、職業までとんでもない人だった。そしてそれなら俺と魔力の性質が違うのも頷ける。死神と聖者ならほとんど正反対みたいなものだろう。



「マリアさんの家族は勿論だけど~、教会の人達も大騒ぎだったわね~」

「私としては煩わしいことこの上なかったですわよ」

「50年ぶりの【聖者セイント】が教会の司祭ではなく、それも王家の人間でしたから。そうなってしまうのも仕方ありませんよ」

「私はただ、シュン様に付いて行きたい一心でここまで来たのですもの。教会の椅子が欲しくて努力したのではありませんのに」



 マリア様はそう言いつつ、俊の方へと体を寄せる。魔力が回復したのかと思ったが、それを先生がさりげなく間に入って接近を止めた。



「マリアさーん。竜胆君は今重症だから、抱き着こうとするのはやめましょうね~」

「くっ……分かりましたわ」

「……ああ、なるほど」



(この人も、俊に惚れたクチか)



 どうやら俊の魅力は、異世界人にも効力を発揮するらしい。王族の女性なら引く手あまただろうに、その手を振り払って俊を選ぶということは、かなり本気で惚れ込んでいるようだ。



「次はそっち側の自己紹介を頼むよ」

「ああ、了解だ……まずは改めて、天崎英夢です。職業は【銃士ガンマン】」



 この場に俺のことを知らない人間はマリア様しかいないので、意図して口調を丁寧にしながら自己紹介を行う。相手が王族、それも【聖者セイント】とかいう宗教色が色濃い職業だと分かった以上、当然ながら【死神リーパー】のことを話すわけにはいかない。



「……【銃士ガンマン】?」

「……何か?」

「【勇者ブレイヴ】であるシュン様の補助という形とはいえ、十王相手にあそこまで渡り合った人間が、ただの戦闘職というのは無理がありますわよ」



 ……どうやら疑われているらしい。まぁ海王との戦闘で殆ど手の内を晒してしまったし、そう思うのも無理はない。だが、それに対する解答も考えてある。



「それはこの銃のお陰ですよ。カミラの迷宮から出土した逸品で、魔力を馬鹿みたいに消費するかわりに、さっきみたいな威力の一撃が放てるんです」

「カミラの迷宮ですって!?貴方、あそこに潜ったんですの?」

「……潜ったというか、住んでました」



 丁度良いので、俺の三年間を良い具合にカモフラージュを加えながら話していく。



「……思い出した。確かマリア様に止められて、攻略を断念した迷宮だったような」

「今のシュン様や私達ならともかく、当時の状態であの迷宮に挑むなんて自殺行為に等しかったですから……」

「ああいえ、責めているわけではないですよ。僕も納得した上で断念しましたから」

「ですがそれなら納得ですわ。カミラの迷宮を単独で攻略してしまうような人間を、普通の【銃士ガンマン】と比較するのは失礼ですわね」



 とりあえず納得してくれたようだ。話している感じ、【聖者セイント】という職業の割にそこまで熱心な信仰心を抱いているわけではなさそうだが、用心しておくに越したことは無い。



「『混沌の一日』以前の天崎君も相当波乱万丈だったけど……相変わらずの人生送ってるわね~」

「……まぁ、俺の話はもういいでしょう。後でいくらでもできますし」



 あまり長々と自分のことを話してボロが出てしまっても困るので、やや強引に話を切って二人の自己紹介を促す。



「……シルヴィア、アイゼンハイド。職業は【剣士ソードファイター】」

「アイリーゼ・ラルクウッド、【精霊術師ソーサラー】のダークエルフ」



 緊張しているのか少し表情が硬いシルヴィアと、いつも通りのリーゼが対照的……いや、二人とも表情が読めなくなって結果的に似たり寄ったりの雰囲気になっているな。だがリーゼも相手が相手だと理解しているからか、フードを脱いで自己紹介をしている。


 王女様はまだ分からないが、それ以外の三人には差別意識なんてないと断言できるし、問題は無いと思う。



「ダークエルフ?初めて見た~!さっき使ってた魔術、私も知らないんだけど、どうやって使うの~?」

「……精霊の助けが必要だから、多分使えないんじゃないかな」

「アイゼンハイドさんも『迅速果敢クイック・レゾルト』を使った僕と同じくらいの速度で動いていたし……二人とも相当な実力者ですね」

「私としては、その重そうな鎧を纏いながらあのスピードを出せる勇者さんにビックリなんだけど」



 とりあえずファーストコンタクトは問題なさそうだ。全員が全員中々に濃いメンツだが、是非とも仲良くなって欲しいと思う。

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