230.再会

「とりあえず、一旦体を休めるか」

「そうだね。すぐにでも脱出したいところだけど、流石に体が許してくれなさそうだよ……」



 それはそうだろう、俺だってグリゴールと戦った時は、最終的に気を失ってしまっていたし。そういう意味で言えば、まだ俊はマシな状態なのかもしれない……いや、それは言い過ぎか。



 シルヴィア達やなぎさ達も丁度良く集まってきたので、俺達はそのまま腰を下ろす。


 地面は固く、先程まで激戦を繰り広げていたために荒れていて、お世辞にも体を休めるのに適した場所とは言えないが、ここを出れば魔獣と遭遇する可能性が出てくる。ここは妥協しておくべきだろう。



「それにしても……本当に、英夢なんだね」

「ああ。正真正銘、天崎英夢さんだ」



 俺の体にもたれかかりながら、俊は器用に俺の顔を覗き込む。三年も経っているのだから、顔つきも多少は変わっているだろうが、流石に別人に見間違えるほどの変化はないだろう。



「俊君、大丈夫なの?」

「しばらくは動けそうにないけどね。ひとまず命に別状はないと思うよ」

「魔力が回復したら、私が回復しますわね」

「うん、お願い」

「……なぎさ、お前魔力余ってるだろ。その人に渡せたり出来ないのか?」

「もうやったよー?でも失敗したー」



 なぎさの使う魔術の燃費は分からないが、俺からあれだけ奪い取ったのだから余ってるだろうと思って聞いてみたのだが、どうやら既に試した後らしい。



「多分だけど、英夢君とマリアちゃんの魔力性質が違い過ぎるんじゃないかなー」

「……性質に違いとかあるのか?」

「私も話に聞いただけだけどねー、相反する職業に就いてたりすると、魔力の性質が大きく異なるんだって。暗黒騎士と聖騎士とか」



 へー、それは初耳だ。そしてそれは俺の職業がバレる一因になりかねない気がする。ボロが出ないと良いが。



「色々と質問したいことはあるでしょうけど~、まずは自己紹介にしませんか~?お互いに知らない顔も多いでしょうし~」

「……へ!?」

「あら~?どうしたの?」

「い、いえ。何でもないです……」



 突然背後から現れた先生に、シルヴィアが驚きの声を上げる。『気配察知』が使えるシルヴィアの後ろを取るとは、すごいな先生。あいも変わらずゆるふわな雰囲気だが、勇者のパーティーに加入しているくらいだし、かなり強くなったんだろう。


 そして驚かされたシルヴィアはというと、先程からどこか気まずそうというか、落ち着かない様子だ。多分先生もそれに気付いていて、緊張をほぐす意味でやったんだと思う。わざわざシルヴィアの背後に回っているのを、視界の端に捉えていたし。



「じゃあ、まずはこちらからいかせてもらおうかな?僕は竜胆俊、職業は【勇者ブレイヴ】なんてものをやらせてもらってるよ。もう聞いてるかもしれないけど、英夢とは幼い頃からの親友なんだ」

「……幼馴染が勇者」

「エイムの化物エピソードがまた一つ増えたわね」

「いや、流石にこれは俺関係ないだろ」



 考えてみればピッタリな配役ではあるが、自分の親友が童話の世界に出てくるような存在になっているだなんて、誰が想像できるか。



「それを言うならエイムも……」

「おい、それはダメだろ。あと口に出してないんだから言ってない」



 心を読んだ上で口を滑らせかけるとか、いくら何でも質が悪すぎる。



「じゃあ次は私ねー!菊池なぎさです!職業は【賢者セージ】、大体の魔術は使えます!私も英夢君とは幼馴染なんだー」

「……幼馴染が賢者」

「もうそのボケはいいから。話には聞いていたが、未だに信じられねぇ。なぎさが賢者って……」



 確かに頭は良かったが、賢者ってのはもっと思慮深く、その上で叡智に富んだ人間のイメージがある。なぎさのイメージとは噛み合わない。



「次は私かしら~?一ノ瀬杏です、三年前までは天崎君の先生やってました~。職業は【忍者シノビ】~」

「……忍者?」

「信じられないかもしれないけど、本当だよ。以前のアルスエイデンには無かった職業だそうだけど」



 思わず二人に視線を送ってみるが、リーゼとシルヴィアもそんな職業があるとは知らなかったらしい。忍者という職業が世間一般のイメージとかけ離れた職業でないなら、さっきの隠密力にも頷けるが……、



(なぎさより似合ってない……いや、あれはあれで隠してたりするのか?)



 普段は色々と緩い雰囲気の人だが、あれでも視野が広く、それでいてしっかりとした人だ。実はあの普段の喋り方も、本人が意図してつくっているものなのかもしれない。



「元々、ご先祖様がその道じゃ有名な家系だったのよ~」



 詳しく聞いてみると、【忍者シノビ】は所謂斥候職に分類され、通常の斥候よりも戦闘能力に長けた職業らしい。どちらかと言うと魔獣戦よりも対人戦が主戦場だそうだが、このパーティーの一員になれているということは、最低限の実力はあるんだろうな。俊が足手纏いを危険地帯に連れていくとは思えないし。



「それじゃあ、次は私ですわね」



 俊のパーティー最後の一人、サラサラとした金髪をふわりとはためかせ、姿勢を整えた女性はゆっくりと口を開く。



「初めまして。私はアルスエイデン王国第二王女、マリア=アルスエイデンですわ」

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