54.初任務
「それじゃ、やっていきましょうか」
「おう」
次の日、俺達は朝早くに起床したあと、軍の本部に向かいパーティー登録をした次いでに依頼を一件受けて、マーティンの外までやってきた。依頼内容は『ゴブリン討伐並びに調査』だ。ゴブリン討伐は言葉の意味そのままだが、調査とは一体どういうことかというと、どうやら最近マーティン周辺でゴブリンが増殖傾向にあるらしい。その原因を調査してほしい、とのこと。
とはいえ調査と言っても何か具体的なことをしてほしいわけでなく、違和感があれば報告するくらいで良いらしい。俺は初任務だから違和感も何もないけどな。つまり増えたゴブリンの駆除が主目的だそうで、ノルマは一人10匹、それ以上は討伐数に応じて追加で報酬がもらえる。
「どうする?さっさと終わらせて次受けるか?」
「それもありだけど……」
正直言って、俺達には簡単過ぎるような依頼だ。何故こんな依頼を受けているのかというと、単純に俺の実績不足のせいだ。要するに俺に信用がないため、難易度の高い依頼は紹介してもらえなかった。だから速攻で終わらせて依頼をどんどん受けて、実績を積んでいった方が良いと思って提案したんだが…
「いや、むしろゴブリンを狩りつくす勢いで行きましょう。一々戻るのも面倒だわ」
「了解。じゃ、ゆっくりやっていこうかな」
「あんまり油断しないでよ……左に反応があるわ、数は6」
シルヴィアの『気配察知』が、魔獣らしき反応を捉える。俺の『危機察知』は索敵には使えないから少し羨ましい。
反応の先に向かってみると、そこいたのは標的のゴブリン。休憩中なのか、各々が好きな態勢で寛いでいる。
「先手は俺が行くよ」
「分かった、やりすぎないでよ?」
「そういわれてもな……証明部位は右耳だったよな?」
「ええ」
ゴブリンは脆すぎて、狙いどころを間違えると爆散して証明部位の原型が無くなってしまう。止まってる奴相手にそんなミスはしないけどな。
ドゥパアン!
ラルの引き金を引き、一発の銃弾で二匹の呼吸を停止させる。腹の下部を打ち抜けばうまい具合に貫通してくれることは、マーティンに訪れる前に実証済みだ。
「うし」
「じゃ、あとはなるように」
「了解」
二人で同時にゴブリン達の元へ飛び出す。発砲音で既に気付かれているので、隠れる意味もない。
「GIGI!!」
「GYAGYA!!GYAGYA!!」
ナイフを片手に、一番近いゴブリンに肉薄する。昨日のことを反省し、銃を使えないケースも想定して一本サバイバルナイフを購入しておいた。金銭的な理由で安物だが、元々錆かけのナイフを使っていたので不便さはない。
「GYAGYA!!」
振り下ろされたこん棒を、ナイフではじいて迎撃する。俺の半分くらいの身長しかないので逆に難しい。
「──よっ!」
はじいた勢いそのままに、体を回してゴブリンの首元にナイフを刺し入れる。安物とはいえ新品のナイフ、特に抵抗を感じることも綺麗に刺さる。
「GYA!……GI…GI」
ゴブリンは堪らず暴れようとするが、俺は既に引き抜いて後ろに退散している。そのままゴブリンは後ろに倒れ、その生を終えた。
「お疲れ……と言いたいところだけど、証明部位だけ取ったら移動ね。また反応があったわ」
「了解、いつもこんな感じか?」
「いいえ。まだ断定はできないけど、増殖しているのは間違いなさそうね」
俺が一匹討伐している間に、シルヴィアは三匹討伐していた。相変わらずだな。
普段どのくらいの頻度で出現するのかは分からないが、どうやら増殖しているのは本当らしい。
「どんどん行きましょう」
「おーけい。だけど、俺はガス欠が怖いから抑えていくぞ?」
ラル=フェスカはどちらも燃費が良くない。こういう殲滅作戦みたいなのとはちょっと相性が悪いな。
♢ ♢ ♢
「一旦休憩しましょうか」
「ああ、そうしよう。疲れた」
あれから一体どのくらいの時間が経過したか。ほとんど休むことなくゴブリンを狩り続け、その数は三桁を超えている。もう正確な数は分からん。丁度開けた場所に着いた俺達は、そこで一旦休憩することにした。
「ゴブリンの増殖は定期的に話題に上がるけど、この数はちょっと異常ね。軍が調査を要請するのも納得だわ」
「……ちょっと疑問に思ってたんだが、ゴブリンってどこまで行こうと軍の人間にとっては雑魚だろ?一般人はそもそも街の外に用はないだろうし、放置してもそこまで問題ないと思うんだが」
軍の試験を受けた限り、あれに合格できるならゴブリンは瞬殺だろう。勿論将来的に見れば生存圏を広げるためにも討伐しなければいけないだろうが、現状はもっと優先すべきことがあるんじゃないかと思う。
「ゴブリンに限らずだけど、魔獣は長く生きる程強力になるの。体が大きくなったり、新しいスキルを取得したりね。そしてその個体から生まれる個体も、ある程度その能力が引き継がれる。それはマズイから、定期的に駆除しなきゃいけないのよ」
「……シルヴィアが前に話してくれたアイツみたいにか?」
話を聞いて、アイナさんを殺したという件の化物が浮かんだが、
「……いいえ。どれだけ巨大化しても元々の倍が良いとこだし、言葉を話す魔獣なんて聞いたことがない。あれは例外でしょうね」
「ふーん……」
「……そろそろ再開しましょうか、ちょっと遠いけどまた反応があったわ」
「まだ全然休めてないが、しゃーねぇか」
「そろそろ証明部位も集められなくなるし、頃合いを見て帰りましょう」
「了解」
結局増殖原因は分かりそうにないが、シルヴィアはともかく俺の頭にあるわずかな知識で分かるはずもない。せめて討伐数で貢献すべく、俺達は殲滅を再開した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます