幕間.消えた親友
──とある迷宮──
ここは世界が交わり、融合したことで、日本海の海上に出現した迷宮。カミラほどの危険性はないものの、この迷宮は魔獣が外に漏れ出てくる可能性があるため、カミラ以上に周囲の住人からは危険視されていた迷宮だ。
そんな迷宮の中ではこの日、激しい剣戟の音が鳴り響いていた。
「KORORORO……」
「せいっ!」
一方は、一体の魔獣。スケルトンソードファイターと呼ばれる個体だ。スケルトンとは、元は人間の白骨化した死体が、様々な要因によって魔獣化してしまうという珍しい性質を持つ魔獣だ。
通常スケルトンという魔獣は何の武器ももたず、それなりの腕力があれば一般人でも討伐が可能なため、あまり脅威だとは思われていない。
だが稀に、体に技能が染み付くまでにスキルを酷使した人間の死体から、そういった技能を残したまま魔獣化したスケルトンが生まれてしまう。今剣を振り回しているスケルトンも、例に漏れず歴戦の技能を有した個体だ。
そんな強敵相手に、もう一方の男は互角、いやそれ以上の剣技で、スケルトンの猛攻を難なくいなす。
白金色に輝く鎧と兜で全身を覆うその男の実力であれば、恐らくは目の前の強敵でさえも瞬時に討伐することが可能であろう。
だが男はそうすることなく、ひとすらスケルトンの剣技に注視しながら、時に躱し、時に剣で受け、まるで何かを待っているかのように、戦闘を長引かせている。
「KORO…」
「やっと本気を出す気になりましたか?」
永遠と続く戦闘に、先にしびれを切らしたのはスケルトンの方だ。一度大きく後退すると、まるで腰の鞘に剣をしまうような動作を取り始めた。
「居合切り…それがあなたの、生前の力なんですね」
「……」
「その技、学ばせてもらいます」
そんなスケルトンに対し、男は正道の構えを取る。スケルトンの必殺の一撃を、真正面から受けると伝えるかのように。
剣戟の音が止み、辺り一帯を刹那の静寂が包み込む。
「……!」
「せいっ───!」
次の瞬間、凄まじいスピードで交錯し、両者の立ち位置が入れ替わる。
「っ…受けきったと思ったんですがね」
男の左の篭手が甲高い音を上げて弾き跳び、左手からは一筋の赤い雫が流れる。
そして、スケルトンの方は、
「KARA……」
体はボロボロと灰化して崩れてゆき、そのまま魔石のみを残し、この世界から姿を消した。
「真正面、そして左右からの挟撃を剣1本で成し遂げる絶技、しかと拝見しました。ありがとうございました」
甲冑の男──竜胆俊は一度兜を外し、スケルトンに黙祷を捧げた。
♢ ♢ ♢
──side Shun──
「お待たせ、戻ったよ」
「おかえりー!どうだった?」
「予想通り、生前はかなりの手練れだったんだろうね。いい経験になったよ」
帰りを待っていてくれたなぎさに手を振りながら、僕は兜を外す。
ここは、僕達が迷宮内で設営したキャンプだ。今回の遠征は日を跨ぐ大規模な任務だったから、設備もそれなりものが揃っている。
「急に「コイツとはサシでやらしてくれ」だなんて言うんだもん、ビックリしちゃったよ」
「ごめんね。魔獣とはいえ相手は武人、秘めたものを持ってるんじゃないかと思ったんだよ」
当然だけど、迷宮の攻略は一人で行っているわけじゃない。なぎさと僕を含めた合計四人での任務だから、本当ならあのスケルトンとも一対一の勝負に持ち込む必要もなかった。
だけどあのスケルトンは、確かに武人特有の覇気を纏っていた。だから仲間たちに無理言って、先に帰ってもらった。面倒だけど、相手の技を吸収するためには必要な工程だから仕方ない。
あの居合切りが使えるかは…微妙なところだね。
「シュン様、お帰りなさいませ。お怪我は…あるようですね」
「ええ。ですがかすり傷ですし、このくらいは問題ありませんよ」
「いけませんわ、すぐに治療いたします」
テントから顔を出したのは、もう一人の仲間であるマリア様。職業は【
普段の任務では彼女の身分もあって護衛が付いてくることが多いんだけど、今回は彼女が押し切って置いてきたらしい。相変わらず大胆だね。
「『
「ありがとうございます」
「これが私の使命ですから。ところでシュン様?今夜は私も同じテントに…」
「だめですよ~、マリア様。というか、こんな場所でまで篭絡しようとするのはやめてくださいね~」
僕とマリア様の会話に割り込んできたのは、パーティーメンバーの一人であり、かつての僕達の教師、一ノ瀬
いつもは喜々として僕とマリア様をくっつけようとするんだけど、今回はお目付け役の護衛の人達がいないからか、ストッパーに回ってくれているらしい。そろそろ彼女を躱すのも面倒になっているし、正直助かります、先生。
「もう、いいではありませんか!護衛がいないこの任務が、シュン様の心を射止めるまたとないチャンスなんですの!」
「竜胆君の心を射止めるなら~、まずはお料理の勉強をしましょうね~」
「うぐ…わかりましたわ」
「というわけで~、私達は夕飯の準備に取り掛かりますね~」
「分かりました。じゃ、周辺警戒は僕となぎさで」
「りょうかーい!」
ここは袋小路になっている場所だから滅多に魔獣は来ないけど、それでも警戒を怠るわけにはいかない。
僕となぎさで辺りを警戒していると、ふとなぎさが若干の哀愁を表情に映しながら呟く。
「ねぇ、俊君」
「ん?」
「ここにもいなかったね」
「…そうだね」
言わずとも分かる。三年前のあの日以来、どこかへ消えてしまった僕達の共通の友人。なんの根拠もないけど、あいつはどこかで生きているとは思う。あいつがそう簡単に死ぬとは思えないしね。
だけど、
(なぁ
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