死神の鳴動
101.帰路での一幕
「良い所だったわね、ダークエルフの里」
「ああ。機会があればまた行こう。今度は任務じゃなくて普通に観光で」
「ん。大歓迎」
里を出て森を抜け、現在は何もない荒野を走っているところだ。走っているのは俺達じゃなくてキーペだけどな。
「そういえば、ガイさん達には何も言わずに来ちゃったわね」
「そうだな、軍には伝えているから心配されては無いと思うが…街に着いたら、顔を出すか」
「ええ、そうしましょう…ところで私、一つ疑問に思っていることがあるんだけど」
「…奇遇だな。実は俺もだ」
「ん?」
「なんで付いて来てるんだ」「なんで付いて来てるの?」
俺とシルヴィアは揃って、いつの間にか後ろに乗っていたリーゼの方に顔を向ける。
リーゼがマーティンの街にやってきたのは、ダラビエトレントの討伐に協力してくれる人間を探すことが目的であり、仕事を求めてやってきていたわけではない。
そのダラビエトレントも何とか討伐に成功したため、リーゼがもう一度街に向かう必要はないはずだ。キーペも帰りは一人で勝手に帰るって里長が言っていたし。
「…あれ、言っていなかったっけ?」
「言ってないな」
「そっか。実は、エイム達に付いて行くことにした」
「なんで決定事項なのかしら…」
ほんとにな。なんとなくおっとりとしたイメージは持っていたが、ここまでとは思っていなかった。
「つまり、俺達と行動を共にしたいと?」
「ん、お父さんからは許可貰ってるよ。「娘をよろしく」だって」
「勝手によろしくされても困るぞ」
「…ダメ?」
リーゼはキラキラとした目で、こちらの心情に訴えかけてくる。何故だろう、向こうの方が圧倒的に年上のはずなのに、こうして接していると子供を相手にしているような気分になる。
「私達は大歓迎なんだけどね」
「俺達には、部署の問題があるからな…」
もう俺の職業もバレてしまっているし、多彩な魔術が使えるリーゼは、俺達の足りない部分を埋めてくれるという意味でも申し分ない存在だ。
だが俺達の扱う任務は、形式上ではあるものの、周辺開拓軍の人間とは合同で受けられないようになっている。
「まぁ、それは街についてから総司令に相談してみるか…だけど、良いのか?」
「何が?」
「このまま里を後にしちまってだよ。もう二度と、里に帰れなくなる可能性だってあるんだぞ?」
俺達もリーゼも、少なくともマーティンではかなりの手練れの部類に入ると思う。そう簡単にやられはしないだろう。
だが、当然ながら世界は広い。俺達を超える化物なんてたくさんいる。先日そんな化物に遭遇したばかりだ。勿論里にいてもそういった存在に遭遇する確率はゼロではないが、それでも俺達と行動するよりはましだろう。
「確かに、それは怖いし寂しい。だけど、また同じような事態があった時に、自分の無力を嘆くのはもっと怖い」
「リーゼ…」
「多分だけど、私はあのまま里にいてもこれ以上は強くなれない。もっと世界を見ることが、私には必要」
リーゼは長年あの里で過ごし、あの森で成長してきた。確かにあのまま里で生活を続けていても、今以上の力は手に入らないかもしれない。
「それに、私の精霊は暗霊に変わっちゃった。あのまま里に居続けたら、森に悪影響が出るかもしれない」
「そうなのか?」
「真実かどうかは分からないけど、伝承ではそういった記述がある。今の森には体力がない、万全を期すべき」
「それはそうかもしれないが…」
本当にリーゼはそれでいいのだろうか。リーゼのやろうとしていることは、家族や里の人達を守るため、自分を犠牲にしているに等しい。
「大丈夫、妖精族の寿命は長い。エイム達と生涯を共にしても、まだ人生は余りまくる」
「余りまくるって…」
「生涯を共にするは意味合いが変わってくるわよ」
「ツッコむ所そこか?」
それはともかくとして、どうやらリーゼの意思は固いらしい。まぁ、ここまで言って折れないなら、もう何を言っても無駄だろう。
「私も同感。ま、いいんじゃない?まだ家にも部屋は余ってるわけだし」
「…そうだな」
実際、リーゼがパーティーに加わってくれるならありがたいことこの上ない。
「じゃ、そろそろ一旦休みましょう。丁度良さげな場所にも着いたし」
シルヴィアはこの先の瓦礫を指さす。確かにあの場所なら、少し片づければキャンプ設営には丁度良さそうだ。
「キーペ、頼む」
「PI!!」
♢ ♢ ♢
「こんな感じでいいか」
「ん、完璧」
瓦礫を片付け、テントを二つ設営し、若干額に浮かんだ汗を拭う。普段から動いているとはいえ、こういった純粋な力仕事はしないから結構動いた感じがするな。
「調子はどう?」
「今終わった所だ。そっちは?」
「こっちも出来たわよ」
俺とリーゼでテントの設営をしている間、シルヴィアには今日の夕飯を作ってもらっていた。
それとこれは後から聞いた話だが、どうやらリーゼはあまり料理が得意ではないらしい。リーゼの母親であるミルアーゼさんは料理上手だったからちょっと意外だ。
「じゃ、飯にするか」
「ええ。里から貰った食材を使ってみたの、感想を聞かせて欲しいわ」
「ん、楽しみ」
俺達は新たな仲間を迎え、焚火を囲みながらシルヴィアの作った夕飯に舌鼓を打った。
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