102.いつもと違うマーティン
「ここらへんがいいか」
「そうね。キーペ、下ろしてもらえる?」
「PI!!」
翌日。俺達三人は特にアクシデントもなく、街の付近までやってくることが出来た。このまま進めば、歩いて10分程でマーティンに到着するだろう。
キーペの種族であるフォートディアは、この付近では目にすることのない魔獣。このまま街まで付いて来てしまうと、余計な注目を浴びることになってしまう。
「ありがとな、キーペ」
「助かったわ、帰りは気を付けてね?」
「PIPIー!!」
「わっ」
「おっと。ははっ、少しは懐いてくれたみたいだな」
「ん」
キーペは別れの挨拶をするかのように、体を擦り付けてきた。別に今までも避けられていたわけじゃないが、こうして行動で示してくれると嬉しいものがあるな。
「PIPI!!」
「ん。元気でね」
キーペは後ろを向くと、凄まじいスピードで来た道を戻っていった。改めて客観視してみると、やはり頭がおかしい速度だ。あれで走っている間にも普通に会話が出来るってんだから、『悪路走行』の異常性がよく分かる。
「じゃ、俺達も行こう」
「そうしましょうか」
「ん」
俺達はキーペを見送った後、マーティンへと足を進めた。
♢ ♢ ♢
「なんか、いつもより混んでないか?」
「…ええ」
マーティンの巨大な壁が見え始めたころ、時を同じくして長蛇の列も姿を現した。列が長いのはいつものことだが、それにしても今日は一段と長い気がする。
「これ、何とか省略できないの?」
「無理ね。他の拠点からの連絡部隊でも来てるのかしら」
…他の拠点か。そういえば俺、他の街には行ったことが無いんだよな。
ま、考えてみればカミラの迷宮を脱出してからまだ2か月も経っていない。
生活基盤を安定させるのに必死だったし、他の街にいく余裕なんて無かった。
「とりあえず、黙って並ぶしかないか…」
「仕方ない」
俺達三人は適当に暇を潰しつつ、列が進むのを待つ。
列に並んでいるのはほとんどが軍の人間と思しき人達だが、いつもより明らかに戦闘慣れしていなそうな人達の姿が多い。シルヴィアがさっき言っていた連絡部隊か?
「ちょっと違うわ、あれは連絡部隊に便乗してきた商人達ね」
「便乗?」
「ええ。街から街へ移動するときは大抵、それなりの大部隊が編成されるわけだけど、そうすると人員も多くなるでしょ?だから物資もそれだけ必要になる。それで商人に食料なんかを融通してもらうかわりに、ついでに護衛を請け負うってわけ」
「ほへー、よく考えられてんな」
部隊からすれば物資の代金やそれを運ぶ人員を節約できて、商人からすれば護衛を雇う代金が節約できるわけか。商人はこっちでも稼ぐことが出来るし、持ちつ持たれつな関係ってことだな。
「でもそのせいで、列が長くなってる。いい迷惑」
「…いやまぁ、俺達からすればそりゃそうなんだけどよ」
中々辛辣だな、リーゼ。余程並ぶのが嫌らしい。
それから俺達はあくびを噛み殺しながら待ち続け、体感約一時間後、ようやく俺達の番が回ってきた。
「次!…軍の人間か?」
「そうです」
「そうか、身分確認証の提示を頼む」
「はい」
「うむ、確認した…む?テンザキにアイゼンハイド?すまん、少し待ってくれ」
「…?はい、分かりました」
流れ作業のように確認していた門番の手が止まり、手元にあった書類を確認し始めた。
(一体何かしら…?)
(さぁ…)
「ああ、やっぱりだ。二人はエイム・テンザキ、シルヴィア・アイゼンハイドだな?」
「ええ、そうよ」「はい」
「二人に軍から召集がかかっている。速やかに本部に向かってくれ」
「…分かりました」
「何かあったんですか?」
「さぁ?最近他の拠点からの部隊が多く入って来ているから、それ関連じゃないか?」
門番も詳しいことは分からないらしい。とりあえず本部に行ってみるしかなさそうだな。
「まぁ、とりあえず連絡は受け取りました」
「ああ、いつもより街も混んでるから気を付けてな」
「はい」
街に入ると、確かにいつもより人通りが多い。門前は普段から他の場所に比べ人の動きは激しいが、それにしてもこんな光景は初めて見る。
俺が初めてマーティンに来た時も、街の宿が埋まっていたくらいだから相当人は多かったはずなんだけどな。今目の前に映っている光景はその時以上だ。
「どうする?とりあえず荷物を置きに一旦家に行くか?」
「…いえ、先に本部に行きましょう。緊急性はなさそうだけど、かなり長期間街を空けていたから、待たせているかもしれないわ」
「確かに。それじゃ、リーゼは…どうする?」
今回召集がかかっているのは俺とシルヴィアの二人だけ。リーゼは呼ばれていない。
「私も行く…他に行くところもないし」
「鍵は渡すから、家で休んでいても良いのよ?」
「家までの道、覚えてると思う?」
「…それもそうね、次いでにパーティーの件についても聞いてみましょうか」
「ん」
本音を言えば今日はゆっくりしたいところだが、残念ながらそういうわけにはいかないらしい。厄介事ではないことを祈りながら、俺達三人は本部に向かった。
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