154.苦楽を共にしてきた仲間
すぐそこまで迫っていた力の奔流は、上から生えてきた植物によってせき止められる。そして、上からやってきたのは植物だけじゃない。
「お待たせ」
「珍しいわね。というより、初めてじゃないかしら?エイムがここまでボロボロになっているのは」
「ん、強敵?」
ツタから滑り降りるようにして現れたのは、上にいたはずのシルヴィアとリーゼだ。あの高さから降りてくるのは無理だろうから、俺一人で戦うしかないと思ってたが…
「ああ。どうやら今回の相手は、神様だそうだ」
「…マジ?」
流石に予想外だったのか、リーゼがいつもなら絶対使わないであろう言葉で返答してきた。マジって。
「…確かに、神だと言われても信じられる存在感ね。グリゴールなんか比にならないわ」
「正直、今すぐ撤退したいところなんだが…」
「ツタを登れば脱出は可能だけど、それを許してくれるかな?あの神様」
まぁ、無理だろうな。今もなんで会話する余裕をくれてるのか分かんないくらいの威圧感が、前方からビシビシ来てるし。
「そもそも登れる?足とかちゃんと動いてるのが不思議な向きをしてるけど」
「ん?…無理かもしれない」
シルヴィアに指摘されて自分の足を見てみると、確かに右足のつまさきが前を向いていない。もう足の感覚が無くなって久しいから気が付かなかった。いざとなれば腕力だけで登ることも可能かもしれないが…ま、そもそも出来ないことを考えても仕方ないか。
「流石に神の端くれか、使徒は連れて来ていたようだな」
「…なんか私達、家来扱いされてない?」
「そっか、エイムも【
「さぁ?俺は気付いたらこの職業に就いていたからな、そこらへんの知識は何もない」
使徒…ヤツの言い方から察するに、神の下につく眷属のような存在か?俺とシルヴィア達はそんな関係じゃないが、アイツから見ればそう見えても不思議ではない。神に仲間がいるってのはなんか想像しにくいしな。
「つぅ…」
「大丈夫?」
シルヴィアに指摘されて気付いてしまったせいか、今更右足が痛みを訴え始めた。これだけボロボロなのに、痛覚はしっかりと機能しているらしい。我慢できないほどじゃないが、このままだと戦闘に支障が出るのは避けられない。
(マズイな…)
折角二人が来てくれたのに、このままだと屍が増えるだけになってしまう。せめて、二人だけでも何とか脱出できるように…
「なーに悲観的になってんのよ、三人で切り抜けないと私達が来た意味ないでしょうが」
「ん、意味ないよ」
…いつの間にかリーゼにまで心を詠まれるようになっている。そんなに俺は表情に出やすいか?
「今のは何となく分かった」
「まぁ、エイムがそこまで一方的にやられるような相手なら、私達が来ても結果は変わらないかもしれないけど…だからって、諦める理由にはならないわよ」
「………」
黒ゴブリンと対峙したとき、一方的にやられたシルヴィアは、完全に心を折られていた。今の俺は、気付かぬ内にあの時のシルヴィアと同じ状態になっていたかもしれない。
あの時は俺が手を差し伸べた、今度は俺が助けられることになっちまったみたいだな。
(そうだ、俺はまだ負けてない)
俺にとっての仲間は、リーゼやシルヴィアだけじゃない。すっかり忘れていたが、苦楽を共にしてきた仲間は他にもいる。
「魔力は…感覚的にはギリギリだが、やってみる価値はあるな」
もっと早く気が付くべきだった。俺はフェスカではなく、ラルに魔力を流し込む。もう空っぽも同然となっている俺の魔力だが、たしか発動のトリガー分の魔力さえ流し込めば大丈夫だったはず。
「『
無事成功した纏身は、ラルの銃身が碧色に、オーロラの如く輝き始める。俺はそれを【
「エイム?」
「大丈夫だ、見ておいてくれ」
突然の行動に困惑をよそに、ラルの銃口俺自身に向け、そのまま引き金を引く。しかし、銃弾は狙いが逸れ…なんてこともなく、しっかりと俺の体に着弾する。
俺の体に襲い掛かった、普段なら敵を爆散させる威力を持つ銃弾は、その威力を発揮させることなく、着弾地点から碧色のオーラを俺の体に拡散させ、徐々に体の傷を癒していく。
「…シルヴィア、頼めるか?」
「ええ、いいわよ」
言わずとも俺の頼みたいことを理解してくれたシルヴィアは、俺の右足を持ち上げ…
「いくわよ?」
「ああ、一思いに頼む」
グリっ
「ぐあっっっっっ!!!」
声にならない声を上げながら、右足から来るとてつもない痛みに何とか耐える。このまま傷が治ってしまえば、足が変な方向を向いたままになってしまうかもしれないからな。
もしかしたらそこらへんを含め完治してくれたかもしれないが、確信がない以上何もしない理由にはならない。俺が痛みに耐えれば良いだけの話だし。
俺が痛みに耐えている間にも、目に見える速度で傷は回復していき、瞬く間に傷跡はローブに染み付いた血液を残すのみとなった。
「さて。反撃開始…出来るかなぁ」
「そこは確信持ってよ」
緊迫した状況には似合わない、ちょっと腑抜けた会話。それは俺自身がいつも通りの調子を取り戻した、何よりの証拠だ。
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