死神の情動
163.帰還
「……では、今回のコボルドの異常増殖の原因は、あの巨大コボルドではないと?」
「はい。それとあれはコボルドではなく、別の魔獣でしょう。通常のコボルドとは、戦闘方法、体骨格に大きな違いがありました。あれを同じ生物だと考えるのは無理があります」
まだ疲れが癒えきらない体に鞭を打ち、トウキョウに帰還した俺達三人は、そのままカツロ山でのことを葛城総司令に報告、内容の重要性から、直ちに緊急会議が開かれる流れとなった。
因みに、俺達がカツロ山を出るころには、調査開始から二日が経過してしまっていた。つまりは調査に一日使い、俺が落下してから山を出るまでにもう一日かかったということになる。あの状況じゃコボルドも油断ならない相手だったため、かなり帰還に時間がかかってしまった。
「原因が別にある。当初は考慮していた可能性ですが、考えうる限りの原因は潰したはずなのですがね」
「こちらもその原因についてはまだ調査が完了していませんが、確かな情報です。1週間もすれば分かるでしょう」
情報の根拠を提示出来ないのが歯痒いが、俺達があの地下空間を出ていく直前、
「すまぬが、人族に我のことは秘匿してもらいたい」
と、
トウキョウは日本人が多いし、無宗教の人間も多いと思うが、それでも報告すれば情報は共有されていく。別にお願いを守る義理もないと言えばないが、今あの神と敵対関係になるのはごめんだ。
「では、件の巨大魔獣は?」
「撃退には成功しました。討伐には至りませんでしたが、もうカツロ山にはいないはずです」
「そうですか……最大の脅威が去ったのは嬉しい報告ですが、根本的な問題は振出しに戻ってしまいましたね」
「ですが、あの魔獣が居なくなったとなれば、調査を彼らだけに頼る必要も無くなります。解決に向けて、調査速度は間違いなく上がりますよ」
コボルドの脅威が去ったわけではないから、まだ採掘作業の再会は難しいだろうが、それでもアイツが居なくなったのは大きな進展だろう……そうでなきゃ、俺達の苦労が報われない。
「ひとまず、三人ともお疲れでしょう。しばらくはこちらで調査を行いますので、ゆっくり休んでください」
「ありがとうございます。何かあればすぐに駆け付けますので」
カツロ山から帰還してそのままここまでやってきたため、俺のローブには乾いた血液がそこかしこに付着している。ローブ自体もボロボロになってしまったし、どこかで新調しないとな。
「私は英夢君達を送っていきます」
「分かりました」
「会議の内容に関しましては、後ほど私の方から報告致しますね」
「ええ、お願いね。菊川さん」
送ってくれると言う桜先輩を先頭に、俺達は一足先に会議室を後にした。正直疲労も限界だったのでありがたい。
「はぁ……急に呼び出されたと思ったら、みんなボロボロで英夢君は血だらけなんだもの、ビックリしちゃったわよ」
「あはは、驚かせちゃってすみません」
俺の姿を見たときの先輩の反応、申し訳ないけどちょっと面白かったな。三年振りの再会を果たしたときとは、また違った慌てっぷりだった。
「そんなに強かったの?巨大コボルド……じゃないんだっけ、その巨大魔獣は」
「戦闘自体が突発的だったのもありますけど、例え準備を万全に行ったとしても討伐は不可能だったと思います。確か一度大規模調査を行った時、死者は出なかったんでしたよね?」
「ええ、そう聞いているわ」
「それが本当だとしたら、奇跡に等しい出来事だと思います。運が良かったですね」
実際のところは、
「その魔獣はどこへ行ったの?」
「分かりません、
そういえばアイツ、どこからカツロ山を出るんだろう。現在は警戒状態ということもあり、出入口は二十四時間監視の目がある。あの不法侵入に使われていた場所が今どんな処置をされているのかは知らないが、あのサイズでは
……ま、何とかするだろ、神だし。
「どんなに事態が進展しても、二・三日は休暇になると思うわ。まずはゆっくり休んでね?」
「ええ。そうさせてもらいます」
心配をかけたくないので表情には出さないようにしているが、今は歩くのさえ苦痛に感じる状態だ。休暇中にはやりたいこともあるが、とりあえず今日はお言葉に甘えさせてもらおう。
それから俺達三人は食事を摂るともなく、丸一日眠りについた。
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