262.グリードハイド邸へ 前編
「エイム、準備はいい?」
「ああ、問題ない」
王都での王女襲撃事件から二日経ち、いよいよシルヴィアの実家であるグリードハイド家に行く日がやって来た。
別に戦いに行くわけではないが、今日の俺達は全員が完全武装だ。向こうでどういった展開が待ち受けているのか分からない、というのもあるが、シルヴィアが公爵家の令嬢としてではなく、一人の軍人として招待を受けたという意思表示も兼ねている。
「やあ。おはようエイム、行くのかい?」
「おはよ。ああ、行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい。シルヴィアさんも気を付けて」
「ありがとう、わざわざごめんなさいね」
俊はわざわざ見送りに来てくれていたらしい。俺にとっては幼馴染だが、今の彼は【
「いえいえ、今日の僕はただの護衛なので」
「……護衛?」
「うん」
「やほ」
「……キ、キリユ様?」
俊の後ろからひょこりと顔を出したのは、第三王女であるキリユ・アルスエイデンだ。あの日以降、外出は控えるように言われていたらしいが、【
「今日はあの日の直接のお礼を言いたかったのと、もう一つ」
キリユが耳を貸すよう要求してきたので、少し屈んで彼女の身長に合わせる。
「もしどうしようもなくなったら、その時は思い切りやりなさい。後のことは私がどうにかしてあげる」
「……分かりました、ありがとうございます」
何が起こるか分からない以上、彼女のこの言葉はとてもありがたく感じた。
♢ ♢ ♢
「「おかえりなさいませ、お嬢様」」
「……わぁ、大きい家だね」
リーゼの言葉通り、グリードハイド邸は呆れてしまうくらいに大きい。規模がデカすぎて比較できないが、敷地面積では王城と大差ないように思う。
「ただ見栄を張るために大きくしてるだけなんだけどね……今日の話は聞いているかしら?」
「はい、伺っております。お連れ様がいらっしゃった場合も、入れて構わないと」
「……ふぅん、そう。なら行きましょうか」
「ああ、お待ちを。すぐに案内のものを呼んできますので」
俺達が来ることも考慮していた?いや、もしかしたらクーネさんが事前に報告していたのかもしれない。
「お帰りなさいませ、お待ちしておりました」
「そう。じゃあ、案内をお願い」
随分と表情の硬いメイドに案内され、無駄としか思えないほどだだっ広い豪邸の庭を歩く。騎士としての訓練も想定されているからか、華奢な装飾が施されているわけではなく、踏み均されたような地面も見える。庭というよりは、公園のようなイメージの方がしっくりくるかもしれない。
「おおう……」
「……眩しい」
「はぁ……ここも昔のままなのね」
屋敷に入ると、朝日以上に眩しいその内部に、思わず目を細めてしまう。煌びやかな装飾は見せ物としては良いかもしれないが、実際に住むことを考えると煩わしいのではないかと思ってしまう。
「お連れ様は、ここまでとなります」
「何ですって?」
「ここから先は、お嬢様のみを通せと言われておりますので」
立ち止まったのは、その豪華な装飾の中でも一際目立つ、細部にまで意匠が凝らされた大扉の前だ。こういった扉を目にするとどうしても迷宮の扉を連想してしまうが、流石にいくら半ば敵対関係にあるとはいっても、それは失礼だと理解しているので口には出さないでおこう。
「公爵家の現当主が、招待されてない人間とは会えないってわけか」
「それならなんで中に入れたのって話だけどね」
招待されたのは、あくまでシルヴィアただ一人。だから俺とリーゼが謁見できないというのは理解できるが、心配が消えるわけではない。
「まぁ、ならここまでね。また後で」
「ああ、気を付けてな」
「二人もね」
だが、だからと言ってこれ以上はどうにもならないことも事実。ここは大人しく従っておくことにした。
「では、お二人は客間の方にご案内いたします」
さらに屋敷の中を歩き、案内されたのは屋敷の最奥。奥には裏庭のような場所もある。
「ここで武器をお預かりします」
「え?」
「ここで?」
突然の申し出に、俺達は揃って困惑する。武器を預かることはこの家の格式を考えれば普通のことだと思うし、それ自体に不満はない。
だがそれなら、入り口の時点で預からなければならないのではないかと思う。もし俺達が何かしら悪意を持ってこの場所にやって来た場合、武器を持ったまま屋敷に入れている時点でアウトだろう。そのちぐはぐな対応は、いまいち理解しかねる。
「武器を、お預かりします」
「……はいはい、分かったよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます