261.王都の逃走劇 後編
「ああ、毒が塗られていた様子もない……『
念のため、回復用の纏身を使ったが、恐らく使わなくても大丈夫だったとは思う。
「……回復スキルの使える【
「ここにいる。まぁ、俺のスキルじゃなくて銃の能力だけど」
「じゃあ、さっきのこの人が叫び出したスキルは?」
「あまり詮索するようなら置いていくぞ」
キリユの前で、おおよそ【
俺自身や仲間の命が懸かっている状況ならともかく、俺だっていたずらに命を奪いたいわけじゃない。
「で、コイツはどうする?」
「……近くに詰所があるはずよ、そこに押し付けましょう。後は騎士団の仕事だから」
「騎士団ねぇ……護衛の行方も調べて貰わないとな」
今回俺達の監視についていたのは、直属でないものの騎士団が斡旋した人間だったはず。
「そうね……まったく、私達を見失ったら護衛の意味がないじゃない」
「まぁ、俺やお前が気付かぬうちに使われたスキルをあの連中が回避しろってのは無理な話だろ」
知らぬうちにスキルを行使された、ここまではいい。こういった幻覚系のスキルは、『危機察知』では対処しづらいのが通例であり強みでもある。
だが今回はそれに加え、こちらがスキルを行使されていることを自覚しても解除されることなく、術者が直接解除するまでそれが続いた。余程強力なスキルだったのだと予想できる。
「ちょっと、私まで貴方と同じ枠に当てはめないでくれるかしら?」
「俺の『威圧』を受けて平然としているような奴を、普通の人間と捉えることはできないな」
手加減抜きの全力の『死圧』をゼロ距離から受けたのにもかかわらず、キリユは変わらぬ様子で俺と話している。どう考えても、並の精神力じゃない。
「……何言ってるのよ、怖かったに決まってるじゃない」
「って、おい」
その顔を何かに耐えかねたような表情に変え、胸に飛び込んでくるキリユを、無造作ながらも受け止める。いつもなら避けるなり突き飛ばすなりするところだが、今回は俺にも原因があるので手荒な真似をする気にはなれなかった。
「お前が今抱き着いているのは、その元凶なんだが」
「怖かったけど、同時に安心もしたの。貴方なら、仮に私がどうなっても何とかしてくれる、そう思ったから」
「……さいですか」
♢ ♢ ♢
「お疲れ英夢、災難だったみたいね」
「全くだ」
王城の部屋に戻った俺は、ソファにどさりと腰かける。纏身によって体の傷は回復したが、失った血液などが元に戻るわけではないため、体の倦怠感は拭いきれていない。
部屋にはいつもの二人に加え、俊達勇者一行も来ていた。事件を耳にした後、ここまで来てくれたらしい。
「まぁ、エイムに責任が及ばなかったのは不幸中の幸いだったわね」
王城に戻り、俺とキリユはすぐに事件の概要を報告したのだが、特に俺に対してお咎めはなかった。こればかりは擁護してくれたキリユに感謝しなければならない。
「それにしても貴方、随分キリユに気に入られたみたいですわね」
「……そうですかね?」
「ええ。キリユは人見知りというわけではありませんが、あまり人との交流を好みませんから」
「私も何度か話しかけてるけど、嫌われてるんじゃないかってくらい素気ない返答ばっかりだったよー」
「……僕にも似たようなものかな、マリア様から彼女のことを聞いてなかったら、コーラル様みたいに勇者嫌いだと思っていたかもしれない」
どうやらキリユは、自分の本性を見せる相手をかなり絞っているらしい。その目的はよく分からないが、よくもまぁそこまで徹底するものだと思う。
「あの子の場合、それが普通なのですよ。昔から、人との距離感が掴みづらい子ではありましたけど……最近ではそれを自分でも理解し始めたのか、誰に対しても似たような感じでして」
「へぇ……」
「ですから貴方にいつもの態度で接していたのは少し意外でしたね。家族以外と積極的にコミュニケーションを取ろうとするのは、随分と久しいですわ」
(……どれが本当のキリユだ?)
今の話から推察するに、あのどこか怪しげな状態のキリユは、マリア様の前ですら見せたことが無いらしい。
俺は、俺といるキリユこそが、素のキリユなのだと思っていた。だがもし俺の予想通りであるなら、キリユは家族にすら素の姿を隠していたことになる。
分からない。キリユ・アルスエイデンという人間が。
「まぁ、それはともかくとして。今日は妹を守っていただき、ありがとうございました。今は色々と忙しくしているので後回しにはなるかと思いますが、父から褒美も与えられるかと」
「それは嬉しいですね」
「ええ、本日はゆっくりお休みになってください。それでは」
「じゃあね、おやすみ英夢君!」
「ああ、おやすみ」
褒美か。特に欲しいものはないが……いや、そうだ。
「俊、ちょっと待ってくれるか?」
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