100.纏身


纏身てんしん…?」



 名前からして、俺の体に何か纏わせるような能力か?



「フェスカはエイムが実力を伸ばす度に、その力を増大させていく。それは何となく分かってるでしょ?」

「ああ」



 増大させていくというよりは、使いやすくなっていくイメージだが。俺の体内の魔力が増えていくほど、放てる弾の数が増え、その威力を増大させることも可能になった。



「私も、エイムが成長するほどその力を増大させていく武器なんだー。というか、私達みたいな意思を持ってる武器はみんなそうなんだけどね」

「へぇ…お前みたいなヤツが、まだ他にもいるのか」

「数は少ないけどねー」



 それはなんとなく分かる。俺の交流が少ないのもあるが、それでも一度も見たことがないということは、それだけ希少な武器ということなんだと思う。



「で、『纏身』の詳しい能力なんだけど…知りたい?」

「そりゃ勿論」

「んー、どうしよっかなー?」

「なんなんだ…」



 ここで勿体ぶる必要ないだろ。



「じゃー話すね!『纏身』はエイムが討伐した魔獣の能力、その力を私の体に纏わせて、銃弾に付加する力だよ!」

「俺が討伐した魔獣の能力を…?」

「うん!あ、でも全部ってわけじゃないんだー」



 ラルは右手の先を銃に変えながら、話を続ける。…そんなことまで出来るのね。



「条件は色々あるけどー、これだけは絶対!って条件は、魔獣が意思を持ってることかな」

「意思のない魔獣なんているのか?」

「知能と意思は別物だよ。知能を持った魔獣はいくらでもいるけど、意思を持つものは少数、そしてそういう魔獣は、基本的に厄介なヤツばかり。強さはピンキリだけどねー」

「…なるほど。で、今このタイミングで呼び出してそれを説明したってことは」

「ご明察、ダレビエトレントがその条件に当てはまったんだ。ほんとはあの黒ゴブリンも合致してたんだけどなー」



 ラルは若干批難するような視線で俺を見つめる。確かに、あいつは明確に意思を持っていたな。


 そういえばあいつの魔石、軍の方に提出しちまってたか。勿体ないことをしてしまったかもしれない。



「悪かったよ」

「今から取り戻せたりしない?」

「…無理だろうな。ほとんど強制徴収だったが、それでも形式的には換金という形だ。こちらも対価を貰ってる以上、不可能だと思う」

「そっかー」



 惜しいことをしたとは思うが、もうどうしようもない。



「ま、仕方ないね、私も説明してなかったし。でも、これから自分で討伐した魔石はお金に換えないことをおすすめするよ」

「そうだな、次からはそうしよう」

「うん!じゃ、今から今回得た能力について説明するね──」



 俺はそれからしばらく、ラルの説明に耳を傾けた。かなり話の構成がグチャグチャで、解読するのに頭を使ったが、何とか理解は出来たと思う。ここでは銃がないから、実践できないのが歯痒いな。



「──こんな感じかなー。何か質問は?」

「いや、大丈夫だ。これ以上は実際に試してみないとな」

「もしかしたら、私も知らない能力があったりするかもしれないしねー」



 その能力を使用するのはラルだが、力の起源はダラビエトレント、そういうこともあるだろう。



「エイムが望んでいたものとはちょっと違ったかもしれないけどー…ま、戦力増強にはなったでしょ?」

「ああ、そうだな」



 ダラビエトレントから受け継いだ能力は、今までの俺やシルヴィアにはできなかったこと。これで戦略の幅が広がることは間違いない。



「これで用件は全部か?」

「うん、これで終わりだよー」

「そうか…そういや、どうやってここから出ればいいんだ?」

「私が出せるよー、もう行くの?」

「まぁ、特に用は無いし…それに、俺にとって自分の記憶ってのは、あまり気分の良いもんでもないしな」



 今の生活は悪くないし、俊やなぎさと過ごした日々は大切な宝物だ。だが言い換えれば、それ以外は……。



「…うーん、気持ちは分からなくもないけど、エイムはもう克服してるんじゃない?」

「自分ではそう思ってるが、それでも思い出したくないものはたくさんあるんだよ」

「ふーん、そういうものかー」

「そういうものだ」

「そっか。じゃ、またいつか呼び出すと思うからー」

「ああ、分かった。フェスカにもよろしく言っといてくれ」

「うん、次は会えるといいねー」



 ラルが軽く指を振ると、俺の体が光を帯びながら徐々に薄れていく。



「またな」

「うん、またねー!」





♢ ♢ ♢




「…エイム?」

「うん?」



 気が付くと、俺は里長の家に戻っていた。いや、正確に言えば移動していたのは俺の精神だったから、ずっとこの場所にいたのか…なんかややこしいな。



「ほんとに大丈夫なの?」

「ああ。ほら、いつも通り吸収も終わったろ?」

「どう見ても前見た時とは違ったけど…」



 魔石から出ていた大量のオーラは、既にその姿を消している。これで吸収は完了した、ということだろう。



「なるほど、その武器は魔導具じゃったか」

「随分珍しい魔力吸収方法ねぇ」

「ええ。貴重な魔石を譲っていただき、ありがとうございました」

「その顔…何か収穫があったようじゃな。精霊様の言葉に従って良かったわい」

「ん、良かった」




 その日の夜、まるで宴の続きを行うかのような、盛大な送別会が行われた。


 始めはどうなるかと思った里の人達との関係も、最終的には良好なものとなり、本当に良かったと思う。嫌われても気にしないが、良好である方が良いに決まっているしな。


 そして、翌日。



「お世話になりました」

「何を言っとる、感謝したいのはこちらの方じゃよ」

「そうだぜ、村を救ってくれてありがとな!」

「もし機会があればいつでも戻ってきてください、歓迎しますから」



 俺達は多くのダークエルフに囲まれていた。始めの邂逅も同じような状況だったが、その場を支配している空気感は、最早真逆と言って良いだろう。



「キーペ、頼んだぞ」

「PI!!」



 道中の移動も、キーペを貸してもらえることになった。帰りは自分で勝手に帰るらしい。



「それでは、またいつかお会いしましょう!」

「「「人族の少年少女に、森の祝福があらんことを!」」」



 俺達はダークエルフ達に見送られながら、里を出発した。

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