56.魔導具
「どうなされました?」
「ここで話せる内容じゃない、会議室を使わせてほしい」
「かしこまりました、手配いたします。総司令もそこに向かうと思いますが、少々時間がかかるかと……」
「分かった、だが場合によっては緊急性を要することになる内容だ。できるだけ急ぐように伝えてくれ」
「って感じだな」
「ふーん。ってか、どんな聴力してんのよ」
「迷宮で三年くらい生活すれば自然と身に着くぞ」
「それを自然とは言わないわ」
盗み聞きしたサイスと受付との会話内容をシルヴィアに伝える。とはいえ具体的ない内容は何一つなかったから、伝えた意味があるのかは微妙な所だな。
「ま、そんな大きな情報ならそのうち軍の人間には伝達されるでしょ。今は気にしなくていいと思うわよ」
「そんなもんか」
「ええ」
若干気になりはするが、まさか会議に参加させてくれなんて言えるはずもないし、今の俺達に情報を得る方法は皆無だ。つまり気にしてもしょうがない。
「それよりも、私は魔石の使い道の方が気になるんだけど。一つ二つならともかく、100個以上の魔石なんて何に使うの?」
「ああ、ラルの弾丸だよ。そろそろ弾切れが近くてな」
「……ラルって、そっちの実弾銃よね?」
「そうだが?」
「魔石を弾丸に使う銃なんて聞いたことないんだけど」
「正確にはちょっと違うんだがな。折角の機会だし、家に着いたら実演するよ」
「……ますます気になってきたわ、早く帰りましょう」
♢ ♢ ♢
「さ、早速実演してよ」
「……そんなジロジロみられると変に緊張するなぁ」
そんなに期待されても別に特別なことをするわけじゃない。ラルをホルスターから抜いて、魔石を持つ。ゴブリンの魔石は小さいから、一度にたくさん持てるな。
ラルを抜いた途端、魔石からオーラが流れ始め、オーロラのように頭上を漂い始めた。そのまましばらく漂ったあと、オーラはラルへと集まって消え、魔石はただの石にその姿を変えた。
「こんな感じだな」
「……綺麗。ねぇ、もっとやってよ」
「……そんな気に入ったか?まぁ、言われなくてもやるけどさ」
シルヴィアの要望通り、続けてどんどん魔石をただの石に変えていく。今思えば俺も最初はシルヴィアと同じように、このオーラを綺麗だと見惚れていた気がする。迷宮の中は薄暗かったから尚更そう感じたな。
「迷宮の中で弾丸補給とかどうしてたのかなって思ってたけど、そんなカラクリがあったなんてね」
「こういう形でエネルギーを補給するのって、珍しいもんなのか?」
「魔石を燃料とする魔法武器や魔法道具、総じて魔導具って言ったりするけど、そういう道具は少なくないわ。だけど、必ずどこかに魔石を入れ込む場所があるのが普通ね。補給が終わったらそんな感じでただの石に変わるけど、補給の過程を見れる武器は見たことないわ」
「へぇ。よし、補給完了っと」
どうやら補給される弾丸の量は魔石の質に左右されるらしく、ゴブリン100匹分の魔石だと今日の消費量をカバーしきれていない。これは魔石の購入も検討しないといけないかもしれない、軍で売ってたりしないかな。
「石は明日にでも適当な場所に捨てていきましょうか、明日も任務に行くでしょ?」
「ああ……あ、だけど早めに切り上げてもいいか?」
「いいけど、何か用事でもあるの?」
「今日の報酬で身の回りのものを揃えたいのと、あとは時間に余裕があれば図書館にも行きたいと思ってな」
いい加減ここに住むなら布団やベッドの類は購入したいし、まだまだ知識不足感も否めない。現状の経済状況から考えるとガンガン依頼も受けていきたいが、他にもやるべきことがありすぎて忙しいとかいうレベルじゃない。体が3つくらいほしい。
あと知識についてだが、俺の職業である【
「……どうしたの?」
「うん?」
「いや、なんか悲しそうというか、寂しそうな顔をしてたから」
「……そんな顔してたか?」
「ええ」
……マジか。いつの間にか、自分でも分からない内に、シルヴィアとのパーティーを気に入っていたらしい。確かに本音を言えば、解消するような事態は訪れてほしくない。
それにも驚いたが、相変わらずシルヴィアの思考を読み取る能力には驚かされるな。もしかしたら、何かしらそういったスキルを持っているのかもしれない。
「ちょっと考え事をな」
「ふーん。ま、そういうことなら分かったわ。明日は早めに出て早めに切り上げましょう」
「悪いな」
「気にしないで。明日に響いてもあれだし、夕飯を食べてさっさと寝ましょうか」
「手伝うよ」
明日のざっくりとした計画を立てた俺達は、ひとしきり雑談に興じながら夕飯を食べた後、速やかに眠りにつく。
──おやすみなさい。
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