120.日本人支援部隊VS死神 後編

(索敵系スキルか…厄介だな)



 俺の対抗できるスキルに『気配隠蔽』があるが、あれは「気付かれにくくなる」スキル。既に気付かれている場合では意味がない。


 それに、俺はまだ二つのスキルを併用するレベルまでは至れていない。二人は俺の場所が把握できているこの状況で、『危機察知』を解除するのは危険すぎる。



(『死圧』を解除したからか、二人の動きにもキレが見え始めた、これは悪手だったかもしれないな)



 複数の人間を相手取るのはこれが初めて、何なら人間相手も先日の菊川さんの戦闘が初めてだからこれで二度目。まだまだ学ぶことが多い。



「あんまりやりたくなかったが…無理矢理リセットだ!」

「な!?」

「そんな強引な…」



 俺はさっきよりもやや多く魔力を注ぎ込む、それを地面に撃つことによって小爆発を起こす。俺自身も少なからずダメージを負うことになるが、このままあの極光を喰らうよりは遥かにましだ。



 それにこれだけ地面を荒れさせれば、この二人もやりづらくなるはず。俺は地面が多少不安定でも狙いはブレない。



「流石にそれは看過できねーよ」

「ちっ……」



 俺はサイスの真横にラルを撃ち、技の準備を中断させる。


 土煙も晴れ、完全に仕切り直しとなった荒野に、突然の狂笑が響き渡る。



「ふふ…あはははは!」

「サ、サイス様…?」

「エイム?君、まだ決心が付いていないね?」

「へ…?」

「人殺しの勇気がないんだろう?君の戦いを見ていれば分かるよ」



 サイスは突然俺を見透かしたようなセリフを吐き、それはもう得意げな表情で滔々と語る。



「君の実力ならこの二人程度すぐに殺せただろうし、あの不意を突いたタイミングなら僕だって殺せたはず!」

「………」

「沈黙は肯定かい?怖いんだろう、人を殺すのが。所詮は君もそこらへんの日本人と変わらないんだねぇ。魔獣に怯え、人に怯え、生きるため、生活のためと心に言い訳をしながら、自分の武器を手に取る」



 …生きるために武器に手をかけるのは誰だってそうじゃねぇかな。



「ほら、撃ってきなよ!その子洒落た銃で僕のことを撃ってみろよおおおおお!」

「…兜越しに大声出すなよ、音が籠って気持ちわりー」



 元々お前の声を聴くだけで不快なんだから。



「おらおらどうした!その両手にある銃は飾りなのかあああ!?」

「お、おい…俺達も!」

「ああ!」

「性格変わりすぎだろ…」



 いや、多分これがサイスの素なんだろうな。そう思わせる行動や言動がこれまでに色々あった気がする。


 俺が人を殺せない、そう思ってるからか、サイスも他の二人も動きが雑。『死圧』で牽制してないにも拘わらず、三人を一斉に相手取ることが出来ているからそれは明らかだ。



「お前ら、大事なことを忘れてるぞ」

「ああ!?」

「この場にお前らを呼んだのは、誰なのかってことをだ」



 ドゥパァン!!



 一発の銃声が、荒野にやけに鮮明に鳴り響く。その銃弾は狙い違わず腰巾着の男の胸元に命中し、鎧も意味を為さず体を貫通する。



「あ……う…」

「な…貴様!?」

「さっきから俺の呼称ブレすぎだろ。さっきからバリバリに俺を殺そうとしてきたくせに、文句を言える立場じゃないだろ」



 俺が今まで直接こいつらを手にかけようとしなかったのは、俺が人を殺すことにどれだけの忌避感を持っているのかを自己分析するため。


 サイスに肉薄したとき、ラル=フェスカではなくサバイバルナイフを使ったのも、俺が人を切る感触を体験して不快感を感じるか確かめるため。



「人殺しをする機会なんて滅多にねーだろうからな。色々試させてもらったよ」

「…っひ!?」

「う、狼狽えるな!問題ない、まだ二対一、数は有利だ!」



 生き残った方の腰巾着は、先程までともに戦っていた仲間の成れの果てを見た途端、体を震わせ、見るからに怯え始めた。『死圧』は使っていない。



「お前らがさっきやろうとしてたことだろ。負ければそうなることは分かってたはずだぜ?」

「う、うるさい!」

「落ち着け、相手の言葉に惑わされるな…!」



 サイスは流石に怯えていない…かどうかは分からないが、少なくともその怯えを体にまで表面化してない。今までの有利が逆転したわけだから、マズイとは思ってるだろうけどな。



 ドゥパアン!バシュン!



「う!?」

「サ、サイス様!?」



 俺はサイスの両腕に銃弾をぶち込み、鎧ごと腕を吹き飛ばす。



「い、痛い!?イタイイタイイタ」

「うるせぇよ」

「なああああああ!?」



 両腕を失い、バランスを崩したサイスを見下しながら、両足にも銃弾を撃ち込んで完全に動きを封じる。



「お、お前ええええ…」

「気分はどうだ?四肢を失った感触は?」

「僕が、僕が何をしたって言うんだ!?何で僕がこんな目に…」

「…記憶飛んだのか?お前が何かしてなきゃ、俺はお前の目の前にいねーんだよ」



 そう、俺だって快楽殺人者じゃないんだから、理由もなく人を殺そうなんて思わない。



「この悪魔…いや、死神め!」

「ははっ…良い得て妙だな。そろそろ終わりにしよう、俺の成長の糧になってくれて、感謝するぜ」



 俺は心にもない言葉を語りかけながら、サイスの兜に銃弾を撃ち込んだ。

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