119.日本人支援部隊VS死神 前編

「…君一人でかい?てっきりお仲間が隠れてるもんだと思っていたんだけど」

「あいつらと一緒ならこんなまどろっこしい真似はしないさ、あいつらはクロスボウの一件すら知らねーよ」



 今回は今後の憂いを断つという理由もあるが、一番は俺自身の成長のためだ。そうでないなら、この件は俺じゃなくて軍に動いてもらった方が良い。



「さて──いくぞ」

「「「!!!」」」



 『死圧』は問題なく効果を発揮させている。この時点で勝負は決まったようなものだが…



「…狼狽えるなぁ!!」

「……」

「彼の仲間がこの件を知らないなら、今ここで消してしまえばいいだけの話!こんな場所なら朝になれば死体も残るはずがない!」

「そ、そうですよね…!」

「やるしかねぇってのか…!」



 サイスは覚悟を決めたようだが、脇の二人の心にはまだ迷いがある。そりゃそうだ…こいつらは日本人、恐らく汚れ仕事をしてきても自分の手を汚したことはない。



「ま、それは俺も同じなんだけどな」

「うおおおらあああああああ!」



 絶叫を上げながら思い切りよく振り下ろす剣を、俺は危なげなく躱す。



「おいおい、闇夜で俺の姿が見えてないのか?随分お粗末な剣筋だな」

「うるせええええええ!」



 型も何もなく、それでいてとんでもなく鈍い。シルヴィアの美しい剣筋を日頃から見ているせいもあるかもしれないが、それにしても雑な剣だ。



「…は!」

「…【銃士ガンナー】のナイフに、一端の剣士が後れを取ってどうする」

「上から目線でちょこまかと…!」



 もう一人の剣士の方は攻撃が軽く、俺のサバイバルナイフで容易に対応することが出来ている。


 はっきり言って100%の力を出し切ったとしてもそれなりに捌ける自信があるが、やはり人に剣を向けることに対しての迷いがあるな。『死圧』のせいもあるとは思うが、それにしても鈍い剣だ。



「──今だ!」

「「……!」」

「お?」



 今まで剣を構えその場で立ち止まっていたサイスが声を上げると、二人は即座に左右から撤退する。


 サイスの剣は光り輝き、辺りを明るく照らしている。



「『聖極光芒セイント・ブーム』!!」

「な!はや…」



 俺が言葉を言い終える前に、白き巨大な極光が、俺の視界を埋め尽くす。


 大地は抉れ、刹那の間、闇夜が白に染まる。



「…おお、これが…」

「【聖戦士セイントウォリアー】の奥義、『聖極光芒セイント・ブーム』さ。あの男、情報がまるで見つからなかったからね、最初から決めに行かせてもらった」

「凄まじい威力ですね…」

「…さ、早くここから離れよう。深夜任務に出ている連中に見つかると面倒だ」

「そうですね。この暗さとはいえ、周囲にはさぞかし目立ったでしょうし」



 極光が通った跡はプスプスと煙を上げており、その威力の絶大さを悠然と物語っている。



「だけど、自分の視界まで潰しちまうのは玉に瑕だな」

「「!?」」

「な!?…っく…!」

「「サイス様!?」」



 ボロ布を脱ぎ捨てた俺は、サイスを後ろからサバイバルナイフでグサリと突き刺す。鎧の隙間を狙ったから致命傷にはなっていないだろうが、意表を突くにはこれで十分。



「どうやって…僕の『聖極光芒セイント・ブーム』を……」

「普通に受けただけだぜ?…流石に無傷とはいかなかったがな」



 俺の全身を覆っていたボロ布は跡形もなく消し飛んだし、肌もひりひりして痛い。


 だが、その程度。



(なるほど、魔力の扱いを修練しないとこうなるってわけか…)



 これはあくまで俺の予想だが、サイスは魔力の扱いに関する修行を行わなかったため、あのスキルの威力が不十分な状態になってしまったんじゃないかと思う。


 流石に光線だけあってその速度は凄まじく、予め注意していたにもかかわらず回避が間に合わなかった。一瞬しくじったかと思ったが、覚悟を決めて受けてみれば威力は見掛け倒し。


 俺の場合、きっとフェスカがその辺りをサポートしてくれていたんだろうな。



「案外、大したことなかったな…」

「…!貴様ぁ!!」

「サイス様…お、落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるか!ははっ…いい度胸だよ、本当にねぇ!」



 何かが切れたようで、サイスは仲間に頼ることなく一人特攻を始める。



(…剣の腕はそれなりだな。横の二人を相手するより断然きつい)



 全身を金属鎧で覆っているサイスだが、その速度は愚鈍さを感じさせない。剣技も中々にいやらしく、突きを多用することによって俺に回避ではなく受けることを強要してくる。剣に関しては流石リーダー様といった所だ。


 だが、



「”疾風の戦乙女”の背中を日頃から見てるんだ、お前程度の速度で、俺を翻弄できると思うなよ」



 いまだにあいつの背中は見失うことが多々あるけどな。



「くそ、ちょこまかと…お前らぁ!何をしている、早くこいつを止めろ!」

「「は、はい!」」

「流石に三人相手するのは御免だ!」



 俺はフェスカに少量の魔力を込め地面に放ち、土煙で相手の視界を塞ぐ。



「おい!あいつどこだ!」

「俺達で時間を稼ぎます、サイス様は下がってもう一度奥義の準備を…!」

「…良いだろう、任せたぞ」



(人選は悪くないみたいだな…)



 自分が冷静さを欠いたとき、自分を諫めてくれるような存在を隣に置くのは、一つの組織をまとめる人間としては正しい判断だと思う。


 俺も一度仕切り直すため、後ろに後退しようとするが…



「逃がさん!」

「ちっ…」



 二人がそれを許してくれない、土煙が立ち込め、さらに闇夜に紛れているため、視界はかなり悪いはずなんだが…



(索敵系スキルか…)



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