105.思わぬ再会 前編
翌日。いつもより少し長い睡眠をとった俺達は、寄り道することなく本部へ向かう。
「お待ちしておりました。もう案内しても大丈夫ですか?」
「ええ、問題ないわ」
「私も付いて行っていいの?」
「はい。後ほど総司令から異動が命じられると思います。その時に、地方開拓軍についての詳しい説明も行いますね」
「ん、分かった」
どうやらリーゼのパーティー登録も問題なさそうだな、良かった。
本部の奥へと進み、階段を登って上に上がる。確かに前にここに来た時より、明らかに戦闘慣れしていなさそうな人がちらほら見えるな。彼らが研究者か。
「念のため、会議に出席する人達は身分が高い方も一部いらっしゃいますので、その辺りは留意しておいてください」
「分かったわ」
「マナーとか全然知らないんですけど…大丈夫ですかね?」
「私も」
図書館にマナー本はあったが、優先度は低いと思ってまだ目を通してないんだよな。
「貴族というならともかく、一般人にそこまで格式ばったものは求められませんよ。普通にしていれば大丈夫です」
「そうですか、良かった」
「…ここが会議室になります」
由美子さんがノックすると、中から返事の声が聞こえた。
「誰だ?」
「地方開拓軍の方々をお連れしました」
「そうか、入ってくれ」
「…私はここまでです、どうぞ」
「ありがとう」
「失礼します…地方開拓軍所属、シルヴィア・アイゼンハイドです」
「同じく、エイム・テンザキです」
「アイリーゼ・ラルクウッド」
とりあえず何か粗相があってもいけないので、シルヴィアに先頭に立ってもらう。
会議室には見慣れない顔も多いが、総司令やガイさんとカルティさん、その他にも黒ゴブリン調査中に顔馴染みになった軍人がちらほら出席している。
会議室は円卓型のテーブルになっており、どうやら左側がマーティン軍所属の人間、右側からやってきた人達で固められているようだな。
実際、右側には知った顔が一人も──
「……英夢君?」
「ん?」
──いないはずの右側から、俺を呼ぶ女性の声が聞こえた。当然ながら迷宮を脱出してから東京には行っていないので、向こうに知り合いはいないはず。
「英夢君!!」
ガタリと椅子から立ちあがり、こちらに走ってくるその女性は…
「部長!?」
勢いが良すぎてこちらに飛び込んできた部長──桜先輩を、ポフンと受け止める。三年経って少し顔立ちは大人らしくなっているが、間違いなく弓道部主将、霞ヶ丘グループのご令嬢である先輩だ。
「えーと…その、お久しぶりです。部長」
「部長は君でしょ…て、そうじゃなくて!」
桜先輩は涙を必死に堪えながら、その視線は俺を捉えて離さない。
「今までどこで何してたのよ!心配、したんだからね…!」
♢ ♢ ♢
そのまま泣き出してしまった桜先輩を見て会議にならないと判断したのか、総司令は桜先輩を別室に移動させた。俺も色々と話したいことがあったので、会議はシルヴィア達に任せて一緒に移動させてもらった。
俺はあの資料に軽く目を通しただけだし、黒ゴブリンとの戦闘もほとんどシルヴィア一人で戦っていた。話すのはシルヴィア一人でも十分だろう。
「はい、水です」
「…あ、ありがとう。ごめんなさい、取り乱してしまって」
「いえ、再会出来てよかったです…もう二度と、会えないかもと思っていましたから」
どちらかが死んでしまっていた可能性だってあるし、生きていたとしても移動が困難になったしまったこの世界では、今生の別れになることは珍しくないだろう。こうして再会できたのは奇跡に等しい。
「ええ、そうね…今でも夢なんじゃないと思っているわ」
「頬でも抓りますか?」
「あはは…今の筋力で抓ったら引き千切れるかもしれないわね」
サラッと怖いことを言わないで欲しい。ってか別に、全力で抓る必要ないでしょう。
「それにしても、本当にどこにいたの?列島中の情報を集めていたのに…」
「そうですね、話すと長くなるんですが…一言で言うと、迷宮にいました」
「…へ?」
まぁ、そうなるよな。それから俺は、先輩に俺の三年間を簡潔に話していく。
「とまぁ、こんな感じです」
「………」
「…えーと、先輩?」
「昔から光るものがあったけど…英夢君、やっぱりあなた怪物ね」
「ええ…」
三年振りの再会の相手にそれはないでしょう、地味にショックだ。
「…まぁとにかく、会えて嬉しいわ。まさかあんな軽い別れ方から、こんなに再会に時間がかかるなんて思わなかったけどね」
「自分もですよ、地獄を見ました…地上も楽な暮らしではなかったみたいですけど」
「…ええ、大変だったわ。本当に」
ある日突然二つの世界が交わり、今まで戦いを知らなかった人間が、生きるため、戦うことを余儀なくされる。そんな状況が楽なはずがない。
「私の場合、弓道のお陰で職業を入手してからはすぐに活動できたから、比較的楽なほうではあったと思うわ」
「へぇ…職業は【
「その通りよ。そういう英夢君は…【
「ええ」
先輩になら話しても問題はなさそうだが、念のため【
「そっか。英夢君が、【
「…それが何か?」
「…いえ。やっぱり私の目に狂いは無かったんだなって思っただけ。今だから言うけどね、あなたを霞ヶ丘に推薦したのは私なのよ」
「…え?」
それは初耳だ。俺の推薦ってことは、桜先輩は高校一年生のはず。そんな年から学校の運営に関わっていたってことか?
「私が推薦枠を持ってたわけじゃなくて、直接お父さんにお願いしたのよ。あなたを弓道部に欲しいってね」
「なんでまた…そもそも自分のこと、どこで知ったんですか?」
そう、今まで弓に触れたことすらなかった人間を、一体どこで知ったというのか。そして何故、俺を弓道部に欲しいと思ったのか。
「実はね、私達は一度、高校入学前に会ったことがあるのよ」
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