104.害意への対処
「…うん、こればっかりは仕方ない」
シルヴィア達と別れ、久々に一人夜の街を歩く。街道にはたくさんの露店が立ち並び、そこかしこから非常に良い匂いが立ち込めているが、今日は食欲より疲労の方が勝利してしまっているようで、まるで惹かれない。
(女性との買い物、特に服は厳しいものがある…)
これは姉やなぎさで学習済み、しかも今回に関してはリーゼの買い物だ。俺達からすれば見慣れたデザインでも、リーゼにとっては真新しいものばかり。絶対に時間がかかる。
シルヴィアには申し訳ないが、俺は逃げさせて貰う。
「代わりに夕飯は作るから許してくれ…っと、着いたな」
この家に帰るのも久しぶりだな。ホームシックになるほどこの家に住んでいるわけではないが、それでも何だか懐かしく感じる。
「食材は何が残ってたっけなぁ…あん?」
ドアノブに手を取ると、右側から『危機察知』に反応があった。すぐにドアノブから手を離し、後ろに後退する。
──ヒュンっ!
先ほどまで俺のいた位置に、一本の矢が通過する。
「…いたずらにしちゃ随分悪質だな」
近くの木に刺さった矢を確認してみると、
家の周りを調べてみると、足元のあたりにピアノ線のようなものがあった。どうやらこれに足を引っかけてしまったらしい。その線の先には矢が装填されていないクロスボウがあるし、間違いないだろう。
(俺達がいない間に仕掛けたのか?)
そりゃぁ二週間も家を空けていたし、ここら辺は人通りもそれほど多い場所じゃない。時間帯を選べば、侵入は容易だろう。問題は俺とシルヴィア、どちらを狙った犯行なんだってことだが…まぁ、なんとなくわかる。
とりあえずクロスボウを撤去して、家の中に入る。鍵はしっかりと閉まっていたから中にまで侵入はされてないと思うが、スキルという概念がある以上油断はできない。念のため中も確認しておくか。
部屋を一通り歩いて回り、『危機察知』に反応がないか確かめる。…大丈夫そうだな。
(…二人には内緒にしておくか)
知らせておいた方が安全だとは思うが、多分二人なら問題ない。過剰に警戒させる必要もないだろう。向こうもそこまで露骨には行動してこないだろうし。
「…さて、作るか」
思わぬアクシデントがあったが、迷宮生活時代に比べればこの程度はなんら問題ない。俺は特に気にした様子も見せず、何事もなかったかのように夕食の準備に取り掛かった。
♢ ♢ ♢
「ただいまー」
「ただいま」
「おう、おかえり」
俺がこのセリフを言うのも珍しい。ほとんどシルヴィアと一緒に戻るか、シルヴィアが先に帰っていることが多かったからな。
…因みに、買い物は一時間程かかったようだ。これを長いと思うか、短いと思うかは意見が分かれそうだな。
「…良い匂い」
「時間も食材も無かったから、そんな凝ったものは作ってないぞ…とりあえず荷物置いてこい」
「リーゼの部屋はどうしましょうか…一旦荷物は私の部屋に置きましょう」
「ん」
俺とシルヴィアの部屋以外は、基本的に簡単な掃除しかしてない。二週間近く家を空けているし、この後掃除しないとな。
それと、この机も三人だとちょっと手狭に感じるかもしれない。色々とまた必要になりそうだ。
「戻ったよ」
「おう。って…」
廊下から顔を出したリーゼは、その姿を一変させていた。
白のスウェットに、ゆったりとしたカーキのロングスカート、これから普通に出かけるのにも問題ないくらいだ。もう今日は寝るだけなんだけどな。
「シルヴィに選んでもらった、どう?」
「良いんじゃないか?リーゼの褐色肌に良く似合ってる」
「…ありがと」
こういうのはただ褒めるだけでなく、良いと思った所を一つ言っておくものだ。と、俊から教わった。女性の扱いに関しては、あいつの言葉に従っておけばまず間違いない。
「なんか、私の時と反応が違くない?」
「…シルヴィアの服装は反応に困るんだよ」
「…わぁ、セクシーだね」
シルヴィアの家での服装、やけに露出が多いんだよなぁ…今も白のネグリジュ1枚だけ。少しは男がいるってことを気にして欲しい。
「セクシーって…まぁいいわ。今日は何にしたの?」
「ハンバーグにした。マジで何も凝ったことはしてないぞ」
「はんばーぐ?」
「あー…細かくした肉を、玉ねぎや卵なんかと合わせて丸めて焼いた料理だな」
「元はエイムの世界の料理なのよね。お肉が柔らかくって食べやすいから、一時期とても話題になった記憶があるわ」
「へぇ…楽しみ」
あんまり過度に期待されても困るんだがな、卵少なめだし。
俺達はそれからハンバーグに舌鼓を打った後、明日のためにも早めに就寝することになった。リーゼにはひとまず俺のベッドで寝てもらって、俺はリビングのソファで寝ることにした。
リーゼは遠慮していたが、ここは強行させてもらった。明日すぐに任務に出向くということはないだろうが、慣れない地での睡眠だ。なるべくいい環境で休んだ方が良いだろう。俺は眠れるだけで十分だし。
因みにハンバーグは割と好評だった、今度はちゃんと時間をかけて作りたいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます