221.海王竜の息吹
聖剣を思い切り振りかざして射出した蒼白の斬撃は、カナロアが幾重にも展開した激流の壁によって容易に相殺された。
今度は展開された魔術を全て切り裂き、聖剣で直接カナロアに襲い掛かる。だけどやつの右手にある海王の槍によって受け止められ、怒涛の魔術によって後退を余儀なくされる。
「はっ……くっ……!」
マリア様の法術も、なぎさの魔術も、先生の急襲も、そのどれもが達人に域に達した攻撃なのに、カナロアには届かない。
「ごめん俊君、そろそろ魔力が……」
「私もですわ……」
なぎさもマリア様も、そろそろ限界が見えてきている。一ノ瀬先生も弱音こそ吐いてないけど、危険な役回りを任せてしまっているからこれ以上無理はさせられない。
(そういう僕も、他人の心配をしている余裕はない、か)
そろそろ『聖剣解放』の制限時間だ。無理をすればもう少し維持し続けられるけど、もし討伐出来なかった時に動けなくなってしまう。僕は魔力を練りあげるのを止め、スキルを解除する。
「ふぅ……凄まじい攻撃でしたよ、流石に苦戦しました」
「……余裕ですね。まだ戦いは終わっていませんよ?」
正直に言えば、勝敗は見えきっている。向こうも多少息が切れているのが見て取れるけど、所詮はその程度。それに対してこちらは、持てる手札はほぼ出し尽くしたようなもの。
だけど、ここで諦めるわけにはいかない。
「まだ折れませんか、勇者様は頑丈ですね」
「勇者だとか、そういう肩書は関係ありません。ここで死ぬわけにはいかない、ただそれだけです」
結局修学旅行は中止になって、あの日最後に交わした約束は果たせなくなったけど。それでもあいつと再会するまで、僕達は人生を終わらせるわけにはいかない。
「……その克己心があるからこそ、愚神はあなたを【
何かを諦めるかのような口ぶりで、それでいてどこか楽しそうなカナロアは、懐から小さなペンダントを取り出した。見た目、なんの変哲もない金属製のペンダントなのに、僕の中の何かがあれに対して警鐘を鳴らしている。
カナロアはそのペンダントに魔力を注ぎ込み、大きく掲げる。
「『
「───UWOOOOOOOOO!!」
ズンッと突如として地面が揺れたかと思いきや、先程まではただの屍であり、僕達とカナロアの戦闘に巻き込まれ、見るも無残な姿となっていた海竜が、体を起こして雄叫びを上げた。
「他の王から借り受けた力など使いたくなかったのですがねぇ……ですが私の力だけでは、あなたを下すことはできても、心を折ることはできないでしょうし」
「UWOOOOOOOOOO!!」
「やりなさい、リヴァイアサン」
「くっ……」
今の仲間達に、あの海竜を相手するだけの余力を残ってない。だからあいつの相手は僕だ。だけど……
「
「!!」
カナロアがそれを許すはずもない。元々一人相手するだけでも精一杯だった僕は、たちまち窮地に立たされる。向かってくる魔術に対処していると、横から海竜の尻尾が僕を体に叩きつけられた。
「俊君!?」
「
マリア様が回復してくれるけど、もうどうにもならないくらいに僕の体はボロボロだ。立ち上がらなければならない、分かっているはずなのに、僕の体は動かない。
そんな僕の前に、毅然とした表情を浮かべる先生が立った。何をしようとしているのかは明白だ。
「先生……ダメです……」
「何言ってるのよ。私は教師、生徒を守る役目がある。ここであなたを見捨てたら、それはもう私じゃないわ」
先生は僕を守る立ち位置で、短刀を構えた。
「
「
なぎさとマリア様が、それぞれ防御スキルを発動させ、僕を守るような形で展開する。
「私は勇者様を、シュン様をお守りするためにここにいます。決してシュン様に守られるために、立っているわけではありませんわ」
「俊君には小さい頃から助けられてばかりだったからね!」
「皆……」
二人とも、もう魔力は限界に近いはず。だがその僅かな魔力を惜しむことなく、最大級の防御スキルを発動させた。
「素晴らしい友情ですねぇ。それを打ち破って見せれば、私の目的は果たせるでしょうか」
「ふんだ!やれるもんならやってみるといいよ!」
「私達を舐めない方がよろしくてよ」
虚勢だ。確かに二人が万全の状態なら海王と海竜の同時攻撃だって、しばらくの間耐えることは難しくはないだろう。だけど、今の二人は満身創痍。スキルを維持し続けるだけで辛いはず。
「大丈夫よ、いざとなれば私がいるから」
先生に防御スキルはほとんどない。本来はこうして矢面に立つような職業じゃないからだ。この状況で誰かを守ろうと行動すること自体、無謀としか言いようがない。
「なら、防ぎきってみてください……リヴァイアサン!!」
「UWOOOOOOOO!!」
海竜は口を大きく開き、そこに凄まじい量の魔力を充填し始めた。あれはおそらくブレス攻撃。竜種のブレスは、文字通りで必殺の一撃。今の僕達がまともに受ければ、ブレスの通った跡には何も残らないだろう。
「『
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