223.悲願の再会
──side Aim──
「英夢君?……本当に?」
「先に行っておくけど、頬を抓っても無駄だぞ。現実だから」
間一髪、あと数秒でも到着が遅ければ、俺はわざわざ海を越えた目的を喪失してしまうところだった。
三年で少しガッシリとした体つきを獲得しているものの、今はボロボロの俊。疲労困憊といった様子を隠しきれていないなぎさ。二人とも無事とはとても言い難い状態だが、とりあえずは死んでない。
他にも二人ほど、仲間がいるようだ。死んで数を減らしていないことを祈る。一人は恐らく【
「先生?」
俺の目の前に映る光景が幻想でなければ、最後の仲間はかつての担任、一ノ瀬杏先生に見える。先生まで付いて来てたのか……。
「っと!!」
『危機察知』に反応があったので、俺はその場から跳び退る。次の瞬間、俺の元いた場所に水の矢が降り注いだ。
「何者だ、と聞いているのです」
「人に名前を聞く時はまず自分から名乗れよ、礼儀だろ」
考察は後だな、まずは目の前の脅威を排除しないといけない。どうやら敵は二体いるようだが、どっちが迷宮の主だ?脅威度で言えば確実に悪魔の方が上、だがこの広間の広さから考えると、巨大海竜が主の方がしっくりくる。
「……まぁ良いでしょう、私はカナロア。十王の一席、海王カナロアです」
「……なーるほどねぇ。俺はエイム・テンザキだ」
ってことは、恐らくだがやはり巨大海竜の方が主だな。んでカナロアは、海竜を黒化しようとこの場にやって来た、ってとこか?
相手があの十王、雷王グリゴールと肩を並べる存在だと言うのならば、ここまで俊達が一方的なのも頷ける。あいつが【
「ふむ、反応が薄いですね……普通は十王だと聞けば、多少なりとも怖気づくものなのですが」
「生憎、初めてじゃないものでな」
「ほう?我々に出会って生きているとは、随分と幸運に恵まれているようです。まぁそれもここまでのようですが、
「
「……む?」
カナロアが放とうとした何かの魔術は、突如として周囲に生成された黒い霧によって妨害された。
「エイム」
「おう、遅いぞ」
「……エイムが速すぎる、シルヴィより速いとか前代未聞」
術の正体は、俺の後を追うようにして迷宮を攻略していたリーゼの精霊術だ。当然シルヴィアも一緒にいる。妙な胸騒ぎがしたから、俺だけ強引に魔獣達を蹴散らして先行させてもらったが、直感に従って本当に良かった。
「次から次へと……!」
「しばらくそこでもがいててくれ」
どうやらカナロアは強引に霧の外へと飛び出すのではなく、霧自体を何とかしようとしているらしい。霧を放置して飛び出してくれた方が後々楽だったんだが、意外と冷静だな。だがそのお陰で、色々と話す時間が出来た。
「シルヴィア、リーゼ。あの竜を頼めるか?」
「ん」
「任せなさい。エイムこそ、一人で大丈夫?」
言葉とは裏腹にさして心配もしてなさそうな様子のシルヴィア。俺はその信頼に応えるように、全身から魔力を放出する。
「ああ、問題ない。俺は一人じゃないからな」
「おいおい、まさかこんなになってる僕をまだ働かせようって気じゃないだろうね?」
確かに体はボロボロで、身に纏う鎧なんて見るも無残な状態だ。唯一手に持っている聖剣だけが、美しい輝きを放っている。
「別に寝てても良いんだぞ?一人でも何とかなるとは思うからな」
「……残念ながら、そういうわけにはいかない」
だけど、俺は知っている。この竜胆俊という男は、絶対に友を一人で死地に赴かせたりはしない。例え自分が足手纏いにしかならないとしても付いてくる。コイツはそういう男だ。
「……それにしても、まさか英夢が銃を握ってるなんてね」
「成り行きでな……話したいこと、聞きたいことは山のようにあるが」
「うん。まずは、王と竜を倒さないとかな」
「私もやる!!」
そう言い放ったのは、これまたぼろぼろのなぎさだ。俊に比べればかなりましだが、とても今から戦えるほどの様子には見えない。
「いやお前、【
「ない!!」
「……おい」
「だから英夢君の分、貰うね!!」
そう言うとなぎさは俺の右手を手に取り、
「『
俺の魔力が、なぎさの方へと流れていくのを感じる。なるほど、リーゼの吸収と同じようスキルがあるのか。なぎさには全く似合ってないスキル名だな。
「これでよし!」
「よし、じゃねぇ。先に許可を得ろ許可を……人から魔力を奪ったんだ、それ相応の働きをしろよ」
「任せて!!」
そろそろカナロアもあの霧を抜けるだろう、軽口を叩くのはここまでだ。
「シルヴィア、リーゼ」
「ええ、海竜は私達に任せなさい」
「どっちが先に倒せるか、勝負ね」
「俊、なぎさ」
「うん、行こうか」
「その勝負乗った!絶対先に倒すよ!!」
それぞれが各々の武器を構え、俺達は走り出した。
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