死神となった青年は、荒廃した世界を生きる

阿斗 胡粉

死神の胎動

1.青年の日常 前編

―side Aim―



「ふわぁ…」



 少しみっともない声であくびをしながら、通学路を急ぎ足で進む。11月に入って寒くなってきたせいもあり、少し家を出るのが遅くなってしまった。暖かい布団の誘惑には勝てないからな、仕方ない。


 周りを見る限り、俺と同じような奴が何人かいるらしい。毎日学校に行くのが楽しくて仕方がないような奴は、この限りじゃないんだろうか。


 あくびを噛み殺しながら歩いていると、ふと何かの視線を感じて振り返る。



「……ナァオ」



 どうやら視線の正体は黒猫だったらしい。じっと俺のほうだけを見つめ、俺が移動すると視線もそれにつられて動いている。首を振っている姿は愛らしいが、なんだか少し不気味な感覚が……と、遊んでる場合じゃなかった、先を急がないと。




 俺、天崎英夢が通っている霞ヶ丘高校は、全国から受験者が集まる超有名進学校だ。


 某T大学への合格率はここ数年でトップに立ち、スポーツに関しても、数年前から数多の大会で結果を残している。『文武両道のモデルケース』としてここ最近一層人気と注目が集まっている高校だ。


 俺はなぜか推薦をもらえたのでこの高校に通えているが、そうでなければこの高校に入学することはできなかっただろう。勉強は苦手ではないが、流石にこんな場所に入れるほどの頭脳は持ち合わせていない。


 ちょうど二年前、この学校からの推薦が届いたときには心底驚いたもんだ。その半年後に校門をくぐるまで、何かの間違いじゃないかと思っていたし。




 ガラガラと音を立てて扉を開け、窓際にある自分の席へと向かうと、そこには俺の席に座る茶髪の女子生徒が一人、机に腰掛ける黒髪の男子生徒が一人。


 ちなみに、この高校は髪の色でとやかく言われたりはしない。この点は俺も純粋な黒髪とは言えないのでありがたい。



「おっはよー!英夢君!」

「おはよう、今日はいつもより遅いね?」

「ちょっと寝坊しちまってな……おはよ、なぎさ、俊」



 この二人は菊池なぎさと竜胆俊、二人とも俺の幼馴染だ。


 俊は現在、剣道部のキャプテンで、このクラスの委員長でもある。入学は推薦ではあるものの、勉学のほうもかなり優秀、更には整った顔立ちも相まって、まるで完璧の文字を擬人化したような男だ。


 家がその道だと有名らしい武術の家系で、俺も軽くではあるが稽古を受けさせてもらったことがある。勿論翌日には筋肉痛でもがき苦しんだ。



 なぎさは俺や俊と違い、自力で受験してこの学校に入ってきた人間なので、かなり頭はいい。はずなのだが、少々天然で、残念な発言が目立つ。


 この学校を選んだのも、「私だけ仲間はずれみたいじゃん!」とか言って、俺達についてきたみたいな形だったし。それでいいのかと問いたい。


 ……まぁ、そんな理由で合格してしまうのがこいつらしいんだけど。




 二人が同じ教室にいることからわかると思うが、三人とも同じクラスだ。こういうのは推薦組と受験組で分けられるものだと思っていたが、ここでは違うらしい。


 文武両道をスローガンに掲げる学校は数多の数あるだろうが、ここは本気度が違う。そのせいで俺は試験の度に二人にお世話になっているので何とも言えない気分だけどな。



「寝坊?あ~わかるなぁ、この時期になるとお布団から出たくなくなるよねー」

「それには同意するけど、そんなに寒いかな?」

「お前は鍛えているからわからんかも知れんが、もう冬だからな?」

「鍛えていても寒いものは寒いからね!?」



 こんな少し馬鹿らしい会話から、今日も一日がはじまる。




♢ ♢ ♢




 午前中の授業が終わり、昼休みの時間になった。なんやかんや三人とも学校では忙しいので毎日というわけではないが、それでもこの三人での昼食が一番多い。放課後はそれぞれ部活があるので、平日の数少ない雑談の時間だったりする。



「それにしても今日のニュース見た?また出たらしいよ」

「出たって、何がだ?」

「遺跡だよ遺跡!今度はアラブの方だってさー」

「あぁ、今回も突如現れたんだっけ?最近多くなってきたよね、この手の話」

「……確かに、今まで何もなかった場所に突然現れるなんて、変な話だよな」



 今日の話題は、最近の世界事情らしい。世界史のテストでは必ず時事問題が入っているので、俺も頭の片隅には入っている。



「いまんとこ無人地帯ばかりに出現して、特に家や既存の建物に被害はないって話だったが……」

「どうする?突然俊君の家の下から遺跡がせりあがってきたら!」

「いやいや、海外ならともかく日本じゃありえないでしょ。建てる前に地下は調査するんだから」

「むー、そりゃそうだけどさー」

「なぎさ、俊に架空の話をしても無駄だ。こいつは筋金入りのリアリストだからな」

「間違ってはないんだけど、何故か貶されているように感じるのは気のせいだよね?」

「当たり前だ、俺は事実を話しただけだからな」



 こうして他愛のない会話をしながら、俺達の昼食時間は過ぎていく。

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