249.王族との邂逅

(一国の王子が自ら挨拶とは……)



 俺も随分大きくなったものだ、と若干現実逃避気味な感想を抱きながらも、無視するわけにもいかないので口を開く。



「エイム・テンザキです」

「アイリーゼ・ラルクウッド」



 いつも通り自然に対応しているように見えるリーゼだが、俺の腕を掴む力が少し強くなっている。緊張というよりは、王子たちを警戒しているようだ。



「私は第一王女、ステラ・アルスエイデンですわ」

「第三王女の、キリユ・アルスエイデン」

「……第二王子の、コーラル・アルスエイデンだ」



 ユリウス様以外の面々のうち、第一王女はにこやかに挨拶してくれたが、他二人は無表情だ。まぁ、普通なら歓迎されない立場なのは理解しているので不快ではない。



(というか、多過ぎだろ王族)



 ここに来た面々で全員だとしても、マリア様を加えて五人もきょうだいがいることになる。しかも五人きょうだいの割に年が近い、一番下の第三王女でも、十五より下には見えない。



「……ふむ。シュンから聞いていた通り、こうして話しかけてみると結構普通だね」

「……そりゃ、俺は特異な身分の生まれでもありませんし、【勇者ブレイヴ】みたいに特別な職業に就いてるわけでもありませんから」

「ただの一般人が、十王との戦いを二度も生き残るなんて冗談みたいな話だけど……ま、今はそういうことにしておこうか」



 確かにそろそろ「普通」とは言えない功績を積み上げてしまっているが、まだ大丈夫なはずだ、多分。



「……不思議な人」

「!?」



 どういうわけか、第三王女のキリユ様が俺の胸元まで近づき、上目遣いで俺を見つめて来る。



(どうやってこんな距離まで……)



 目の前にいるにもかかわらず、接近に全く気が付かなかった。普段シルヴィアの速度を見慣れているので、そうそう見失わないと思っているんだが……。


 王子たちを警戒していたリーゼも、困惑の表情を浮かべている。自分自身が神速に達しているシルヴィアも同様なところを見ると、恐らくは純粋な速度ではなく、別の要因で気付かなかったとみるべきだろう。



「ああごめんね、キリユはいつもそんな感じなんだよ。普段人前では普通にしているんだけど……」

「ふん、コイツのことを疑っているんじゃないか?」



 第二王子のコーラル様は、見るからにこちらに敵対的な感じだ。脳内呼びにまで様は付けなくても良いかな。



「コーラル、彼らは勇者を救ってくれた恩人であり、王国の恩人でもある。そういう態度はよしたまえ」

「そのどれもが勇者の言葉だろう。友人の株を上げるため、虚言を吐いている可能性もあるぞ?」

「その勇者には、我らの妹が付いているのだがね」

「男に惚れ込んだ女など、信用に値するものか」



 確かにマリア様は俊にかなり惚れ込んでいるように見えるが、身内に対して辛辣すぎる。流石にここまで嫌われている理由には心当たりがないので、元々日本人が嫌いなのかもしれない。



(別に気にしてないから、余計なことは言うなよ)

(……ん)

(流石にここで口を開くほど浅慮じゃないわよ)



 俺の腕を掴む手の力がどんどん強くなっているので、若干腕が痛い。怒ってくれるのは嬉しいが、相手が相手なので反論しない方が良いだろう。



(……ごめんね、コーラル兄様は勇者が嫌いなの)

(あ)



 そういえば、キリユ様が近くにいるのを忘れていた。コーラルに告げ口をする素振りがないのは救いだ。



「本当のところはどうなんだ?」

「……俊のやつがどう説明したのかは知りませんが、勇者を助けたというのは事実ですが、十王に関しては勇者が倒しましたよ。俺達はあくまでサポートしただけですね」



 それからも続くコーラルの追及を、俺は無難な言葉でやり過ごしていく。別にこの国での地位が欲しいわけでもないし、褒美が欲しいわけでもない。つまりは評価を上げる必要もないので、向こうが疑っているなら信じてもらえなくても良いのだ。むしろ好都合とさえ言える。



「ふん、面白みに欠ける男だ」

「コーラル、いい加減にしなさい」



 俺に対し嘲りを込めた笑みを浮かべるコーラルを、それまでは静観していたステラ様が諫めた。先ほどまでの微笑みは鳴りを潜め、迫力のある表情をしている。



「彼は恩人だと言ったはずです、国の品位を下げるような行動は慎みなさい」

「恩人……ふむ、本当に勇者を助けるだけの実力があるのか、この場で試してやっても良いのだがな」

「コーラル!!」



 だがそんな言葉も意に介さないコーラルは、腰の剣に手をかける。彼にどれだけの実力があるのかは分からないが、ラル=フェスカなしでどうにかなる相手ではなさそうだ。



(……あなたのお兄様、ちょっと短絡的過ぎません?)

(……ぐうの音も出ない)

(とりあえず、離れた方が良いですよ。なんか冗談では無さそうなんで)



 というか、キリユ様はいつまで俺の前に居るんだ。



 



 

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