250.城への襲撃 前編

(……これ、どう対処するのが正解なんだ?)



 今にも剣を抜きそうな王子、恐らくだが普通に戦えば、勝てずとも離脱することくらいは容易い。だがそれが正しい選択なのか、俺に判断することはできない。



(俊は……ダメか)



 勇者は今も貴族達の対応に追われている。こちらに気付いていたとしても、助け舟は期待しない方がいいだろう。むしろ王子が更に怒りそうな気もするし。


 流石にこれだけの面々が集まっているこの状況は目立っているようで、周囲がかなりザワついているのが分かる。だがそんな喧騒の中で聞こえてくる一つの音を、俺は聞き逃さなかった。



「……二人とも!!」



 俺の意図を正しく読み取ってくれたシルヴィアとリーゼは即座に左右に離脱する。俺もキリユ様を抱え、飛来する風弾を躱した。



「何事だ!」

「王城に賊が!」



 その声に引き寄せられるかのように、入口から黒頭巾の集団がなだれ込んで来た。騎士団の参加者も突然の事態に、対応が遅れている。



「奴らの狙いは明白だ!王子達を守護しろッ!!」



 エルドリッドの怒号にも近しい迫力のある一声で、ようやく正気を取り戻した騎士団は、賊に斬り掛かるもの、王子達を守ろうとするもので分担する。特に指示がある訳でも無く二分するその様子から、彼らの日々の努力が窺える。



「……!コイツらッ!」

「相手は手練だ!油断するな!」



 洗練された無駄のない動作の騎士達は、あれだけのプライドに見合う実力を持っている。だが相手も負けじと、いやそれ以上の実力を有しているようで、数的な有利で拮抗しているものの、いつ均衡が崩れてもおかしくない。



「うお!?」

「コイツら、【魔術師マジシャン】まで混じってやがる!」



 それに加えて、魔術師達が繰り出す魔術の数々が絶えず王子達を狙っているため、中々突破口を見出せない。周囲の被害が大きい炎系統の魔術がないのは救いだ。



「──せいッ!」



 そんな状況を打破するものが一人。【勇者ブレイヴ】俊だ。どこから取り出しのか、いつの間にか聖剣を手にしていた俊は、王子達に迫り来る魔術を全て散らした。



「王子達は僕が、騎士の皆さんは賊の対処を」

「……よろしく頼みます!私も出る、さっさと一掃するぞ!!」

「「「了解!!」」」



 俊の言葉に少し逡巡したエルドリッドだったが、最終的には最低限の騎士だけを残し、自分も前線へと躍り出る。



「お前も賊の対処をすればよいだろう」

「コーラル、いい加減にしたまえ。勇者を人の争いに巻き込むなんて言語道断、しかも国の事情に巻き込んだとなれば、他国に示しがつかなくなる」

「何処にあるかも分からない他国に、何を怯えているんだか」



 ……コーラルが第二王子で本当に良かったと思う。こいつが長男だったら、俺も賊たちと一緒に行動していたかもしれない。



「……なら、お前が行け」

「……はい?」

「勇者が行けないのであれば、おまえが賊の退治に加われ」



 この人は何を言ってるんだろう。本当に理解ができない。



「わざわざ自分が行かなくても、もうじき対処されると思いますが」

「私がお前の実力を見たいと言っているのだ」

「……はぁ」



 呆れてものも言えないとはこのことか。これでも身分的には遙か上の存在なため、発言を無視するわけにもいかないのがタチが悪い。



「分かりましたよ、行ってきます」

「エイム君、君がコーラルの言葉に従う必要は……」

「分かってます。ですがこれ以上問答をするのも面倒なので」



 多分コーラルは、自分の目的が達成されるまでどうやっても諦めないタイプだ。当然実力の全てを開示するつもりはないが、隠していることを見破られない限りは満足してもらえるだろう。



「私達も……」

「いや、二人は残っていてくれ。王子の指名は俺だからな」



 この国に思うところがあるシルヴィアに、国のために剣を取れと言うのは酷な話だろう。リーゼの精霊術も、わざわざ人前で使わせる必要はない。シルヴィアに関してはそもそも剣がないし。



(って、俺も今は銃がないんだった)



 実はこっそりナイフを懐に忍ばせていたりするが、使うとそれはそれで面倒くさいことになりそうだ。まぁ、倒れている賊から剣を奪って使えば良いか。



「これを使って」

「あ、ありがとうございます」



 そう思っていると、キリユ様から一本の剣を手渡された。やや小柄なキリユ様でも振り回せる少し小ぶりなサイズだが、ないよりはずっと良い。



(なんだこれ……すごいな)



 剣を手にしただけで、その剣がかなりの逸品であることが理解できる。真っ黒なその剣はシルヴィアの黒剣と同じシャドウミスリル製にも見えるが、感触からして違う材料が使われているようだ。


 不思議と手に馴染むその剣を握りながら、一度体を脱力させ、戦闘のために思考を切り替える。



「……それじゃ、行ってくる」

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