251.城への襲撃 後編
賊たちは黒い頭巾で顔を隠している以外の共通点はなく、服装、扱っている武器も様々。だが決して有り合わせを揃えたという訳ではないようで、中にはチャクラムのような扱いづらい武器を使いこなしているものもいる。
ここまで侵入している時点で分かっていることではあるが、相手は相当な手練。油断をするわけにはいかない。
「……!」
「……っと!」
背後からの『危機察知』の反応を感知し、咄嗟にナイフを振るって急襲を対処する。いつの間に背後に回ってきたんだ。
やはりこういった乱戦時には、『危機察知』なしで戦うことは難しいな。『死圧』のような周囲に影響を及ぼすスキルも強力ではあるが、相手によっては効力を発揮しないので使い所が難しい。
「……!」
「どう考えてもただの賊じゃないよな、アンタら。ここまでの能力があるなら、賊に堕ちずとも稼ぎ口はあるはずだ」
次々に襲い来る攻撃を迎撃しながら、物は試しと賊に話しかけてみる。王城に襲撃しに来たのは明らかだが、その目的がイマイチ掴めずにいたからだ。
王族の殺害を目的としているなら、いくら何でも騎士達が集まるこのタイミングはないだろう。王城の警備は多少手薄になっていたかもしれないが、そもそもの目的が達成できなくては意味がない。
急な開催のために情報を掴んでいなかったとしても、それはそれで日を改めればいい、別に急がなければいけない目的でもないはずだ。
もうひとつ考えられるのは、実はこれが陽動で、王城に別の目的がある場合。例えば宝物庫の宝を盗むとか。だがこれも、金のためにこれだけの手練を揃えられるとは俺には思えなかった。
「……我々の目的は、既に達成している」
「……なに?」
俺に襲いかかる人数が増えてきたあたりで、最初に斬りかかってきた男が初めて口を開いた。既に目的は達成している、か。
「ならさっさと逃げればいいんじゃないか?別に俺は追わないぞ、面倒だし」
「これは蛇足だ、お前がどれだけの存在なのか、試したくなった」
その言葉と同時に、更に三人の賊が襲いかかってくる。成程、急に口を開き始めたのは、コイツらの接近を気づかせないためか。
ついに【
それに加え、賊の身体が邪魔をして直前まで魔術を視認することができない。一人一人の能力もそうだが、連携の練度も目を見張るものがある。
(こりゃ思ったよりも厳しそうだな)
そもそも俺は対人戦の経験値が少ない。単純な技量や手札の数では彼らに適わないだろう。
だからこそ、逆に力づくだ。
「……なに?」
振りかざされる剣を、俺は一度剣で受け止めた後、強引にかち上げる。そしてがら空きになった身体に向け、思い切り蹴りを放った。まずは一人。
更に蹴りを放った反動を利用し、横に跳躍して後ろからの追撃を躱すと、間髪入れずに体を捻り、剣で斬りつけた。これで二人。
「まだだ」
今度は攻撃の隙をつこうとする攻撃に対し、俺は一瞬だけ『死圧』を発動させ、剣先を鈍らせる。流石の判断で離脱しようとするが、足を払ってバランスを崩させる。そのまま宙に浮かぶ体を掴み、無防備となっていた【
「……手馴れているな」
「手札が少なくても、極めればやりようはある」
これは人間相手ではなく、カミラの魔獣相手に乱戦を挑むときによく使っていた戦法だ。『死圧』の効力が完全に発揮しない相手でも、使うタイミングを見極めれば、意表を突いたり、相手を警戒させるのに使える。
(あとはコイツだが……)
一人だけ言葉を発するこの男は、俺の『死圧』にも全く動じなかった。それだけ俺とコイツに実力差がないか、それとも。
「死ぬのが、怖くないのか」
「怖いさ、だがその恐怖を乗り越えても為さなければならないことがある。ただそれだけだ」
そう言って男は倒れ込んだ仲間の剣を拾い、二本の剣を巧みに操りながら再び攻撃を開始する。ただ二本の剣を使いこなすだけでなく、体術まで織り交ぜるこの男の猛撃は、一切の隙を作り出さず、俺の反撃の手口どころか、思考の暇さえ与えてくれない。この剣なしでは迎撃すらも難しかっただろう。
「ほう、流石だな」
「伊達に死線を潜り抜けて来たわけじゃないんでね……!」
正直言って、迎撃で手一杯だ。ラル=フェスカという切り札なしでは、まず間違いなくこのままいっても勝てない。
「いつまで遊んでいる!!」
「……腰巾着に用はない、控えろ」
背後から『危機察知』の反応があったので体を捻ると、エルドリッドがその肩書に見合う渾身の突きを放っていた。だが男はドスの効いた声と共に、その一撃を難なく受け止める。コイツ今、俺も一緒に刺そうとしやがったな。
「背中もろくに任せられんか、大変だなお前も」
「全くだ」
「くっ……!」
そのままエルドリッドは剣を掬い上げられ、隙が出来た体に蹴りを放つ。さっきの俺と同じような方法なのはわざとだろう。
「一つ聞きたい」
「……俺にか?」
「ああ」
左右の剣を下ろした男は、俺の方を向きながら、ゆっくりと語りかけて来た。頭巾に隠れて見えないはずの鋭い眼光が、不思議と感じ取れる。
「お前は、何のために剣を取る?」
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