252.戦う理由
(何のために、か……)
恐らく、この男は俺に対し、戦いの理由を求めているのだろう。
正直言って、そこまで俺自身は戦いに理由や目的というものを見出していない。軍人として生活のため、もしくは時々の目的のために戦うことはあるが、きっとそんな解答は向こうも求めていないはず。
だから、敢えて理由を答えるとすれば。
「自分自身のため、だな」
「ほう」
「自分の望んだもののため、自分の周囲を守るため。その過程に弊害があるなら、きっと俺は戦うだろうさ。可能な限り避けるけどな」
だが避けられないなら、俺は戦う。カミラの頃から何も変わっていない。
「お望みの解答だったかな?」
「……ああ、予想以上の収穫だった。そう言っておこう」
男は足元に拳大の玉を投げつけると、たちまち周囲は煙に包まれる。
「次に出会うときは、もう少し穏便な形であることを期待している」
煙が晴れたころには、賊は一人残らず姿を消していた。
「……ふぅ」
「お疲れ英夢、強かったよ」
「……迷宮での戦闘に比べれば全然だろ」
「そうじゃなくて、戦い方が上手くなったって言ったら良いのかな?」
「最初は銃に頼るわけにもいかなかったし、色々工夫しないと生き残れなかったからな。そういう経験が生きているのかもしれん」
昔は俊の道場でボコボコにされたからなぁ……確かにそういう意味でも強くなったと言えるかもしれない。
「……碌に賊の一人も捕らえられんか」
最早露骨に嫌味を言い出しているコーラルだが、その言葉は騎士団にも刺さっているということに気付いた方が良い。エルドリッドなんか苦々しい表情を隠しきれてないぞ。
「お疲れ様。すまないね、こちらの事情に巻き込んでしまって」
「いえ」
「君の活躍を肴に、料理を楽しみたいところなんだけど……流石にパーティーは中断かな。色々こちらで調査もしないといけないから、悪いけど部屋に戻っておいてくれるかな?」
♢ ♢ ♢
「お疲れ」
「強かったね、あの頭巾の人」
俊達とは別の部屋をあてがわれた俺達は、驚くほど体が沈むソファーに腰掛けながら、久方ぶりの休息を取っていた。ガイさん達も別の部屋をあてがわれたようで、きっと俺達のように休んでいることだろう。
体はすぐにでも眠りたいはずで、その気になればすぐにでも眠れるだろうが、その前に少し気になることがある。
「結局何だったんだアイツらは、ただの賊というには強すぎるだろ」
「……あれは革命軍よ」
「革命軍?」
「ええ。自分達でそう名乗っているの、この国の貴族制度改定のために活動しているの」
「つまり、法改正のためにあんなことを?」
いくら何でもやりすぎだろとは思うが、命が軽い世界ならあり得るのかもしれない。平和だったころの日本であれば絶対なかっただろうけど。
「『混沌の一日』以前からも存在自体はしていたんだけど……あの日以降、かなり活動が活発になってきていたの、最近の事情は知らないけどね」
「へぇ。やっぱり日本の制度を目にしてしまったから?」
「いえ……それもあるでしょうけど、一番大きな理由は、貴族がそれまでの役割を果たせなくなてしまったからよ」
「それまでの役割?」
「うん。王は国を治めるのが役割よね、じゃあ貴族の役割って何だと思う?」
貴族の役割……そう言われてもあまりピンとこないな。
「日本の創作の世界じゃ、王の代理で国土の統治をやってたりしていたな」
「それで間違っていないわ。じゃあ次の質問、代わりに統治していた土地、今はどこにあるの?」
「……あ」
そういうことか、今は『混沌の一日』によってそれまでの地形が大きく変化し、その役割を果たせなくなっている。確かマーティンの軍本拠地も、元は貴族の城だと言っていた覚えがある。
「それに加えて、丁度『混沌の一日』の時期は統一会議でほとんどの貴族が王都に居る状態だったの。それで本来収めていた土地もどこにあるのか分からない、それなのに特権階級は残ったまま……その階級にいた私が言うのも何だけど、彼らの要求は真っ当なものだと思うわ」
確かに、平和だったころの日本にいた身として、その手法には賛同できないが、彼らの要求は真っ当なもののように見える。
「正直、王族も貴族の存在は悩みの種になっているはずよ」
「なら、貴族制度なんて廃止すればいいんじゃない?」
「そんな簡単な話でもないのよ、貴族が結託すれば、その力は王を超えるから」
制度廃止が下されれば、今は異なる意見の貴族達が結託し、自分達に牙を剥く可能性がある。確かに悩みが多い王にとって、その可能性は排除しておきたいだろう。
「それに今回のこともあって、尚更要求を呑むわけにはいかなくなったでしょうね。王が武力に屈した前例を作ることになる」
「……自分達で首絞めてないか?アイツら」
「結果的に、そうなってるわ」
何とも間抜けな話だ、だが……。
(他の奴らはともかく、アイツがこの結果を考慮しない。そんなことあるのか?)
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