248.始まった宴

 それから少し時間が経ち、俊達にやや遅れて呼ばれた俺達。両腕に伝わる感触を意識しないように訪れた会場は、王城のどこにこんなスペースがあるのかと呆れるくらいに広く、人数もそれ相応の人数が参加しているようだ。



「宴というより、夜会?」

「確かに、ちょっとイメージは違うな」



 煌びやかな服装の男女、気品に溢れる恰幅の良い老人、和やかに談笑している貴婦人。正装を要求されている時点で何となく察していたが、少し格式の高い催しのようだ。急な開催なのに、よくもまぁここまで集まったものだと思う。


 貴族階級と思われる面々の他にも、全員ではないが騎士団の団員も参加しているようで、彼らだけは帯剣が許可されているようだ。因みにシルヴィアも今回は帯剣してきていない。


 まぁ、剣がない程度でどうにかなる彼女ではないが、敵が多いように見えるので注意しておこう。とはいえ俺もラル=フェスカを持ってきていないので、本当にヤバイときはリーゼ頼りになってしまうが。



「なんか、目立ってる?」

「今の坊主達は注目の的だろうからなぁ」

「連中にバレてるのはアンタのせいだと思うけどね」

「デカイですもんね、ガイさん」



 冗談はさておき、確かに尋常でない量の視線を感じる。これが全て悪意や軽蔑に塗れたものであれば対処のしようがあるが、中には純粋な好奇心で見つめるものもいるようなのでやりようがない。



「まぁ、こういうのは慣れだ。吹っ切れて料理を楽しむべきだと思うぞ」

「それはアンタが楽しみなだけだろう……」



 マーティンではちょっとした有名人のガイさん達は、こういったことにも慣れているのかもしれない。慣れと言われても、それはすぐにどうにかできるものないので、なるべく目立たない一角まで移動する。


 テーブルに並べられた料理は、立食形式を考慮してかどれも一口サイズになっており、ウチの大食い達には物足りないかもしれない。俺も適当に摘まんでみるが、思ったよりも緊張しているようで味がよく分からない。



「テーブルマナーとか全然分からないから、間違ってたら都度指摘してくれ」

「はいはい、今日はそこまで気にしなくても大丈夫だと思うけどね」



 そう言うシルヴィアだが、やはり俺やリーゼと比べると一つ一つの所作が美しい。一緒に食事をする機会はそれこそ数えきれないほどあったはずだが、今までは全然気付かなかったな。



「……あ」

「ん?」

「エイム、陛下の登場よ」



 そう言うとシルヴィアが平伏したので、俺もそれにならう。



「皆の者、面を上げよ」



 顔を上げると、壇上には国王と俊達がいる。



「今日は急な開催にかかわらず、集まってくれたことを嬉しく思う。我としても多忙なそなたたちを集めるのは心苦しかったが、今日ばかりはこの幸福を共有したくてな」



 朗らかな笑みを浮かべる国王だが、さっきの謁見で相まみえたときを思うと、少し胡散臭く見えてしまう。



「ここにいる面々には既に周知のことと思うが、先日、【勇者ブレイヴ】であるシュンが王国にとって積年の悩みであった海底迷宮を攻略した……だが我らが勇者が為した偉業は、それだけではない」



 初めから打ち合わせがあったのだろう、そのタイミングで先生がスキルを発動させ、自身の影からカナロアの魔石を取り出す。参加者達はその巨大過ぎる魔石に目を見張り、態勢を崩してしまうものまでいる。



「これはかの十王、海王の魔石。勇者は海底迷宮を攻略するだけでなく、歴史に名を遺す厄災の討伐にまで成功したのだ!」

「「「おおおお!!!」」」

「迷宮の攻略、そして勇者の偉業、これを祝わずには居られぬだろう!皆の衆、本日は無礼講だ!」



 軽快な音楽が会場に響き渡り、宴は本格的に開始した。壇上から下りた俊達の元には早速人だかりができ、俊はそれをにこやかに対応している。ああいう光景を見ると、学校での日々を思い出す。



「他人事みたいに思ってるとこ悪いけど、エイム達もあれやるのよ」

「いや、あれは無理だろ」

「ん、無理」



 意識しないようにしていたが、確かに俺達の方へも似たような雰囲気が漂っている。話しかけたいのは俺かシルヴィアか、それともリーゼか……多分全員なんだろうなぁ。


 俺達の人となりを知らないものがほとんどであるからか、それとも港での出来事が影響しているのか、話したがっている雰囲気は感じるが、誰も話しかけてこない。



 流石に居心地が悪くなったのか、ガイさん達はいつの間にか別の場所に移動して料理を楽しんでいた。裏切者め……。



「……エイム、来たよ」

「ん?……ああ、遂にか」



 そんな空気と、人だかりを割る集団が現れる。集団は周囲の華やかなドレスが霞んでしまうレベルの礼服を身に纏っており、それでいて服に負けることなく完璧に着こなしている。



「良いよ、今日は無礼講だと言っただろう?」



 平伏しようとするシルヴィアを止めた男は、これまた優雅な礼を見せ、にこやかな笑みを浮かべた。



「はじめまして、アルスエイデン王国第一王子、ユリウス・アルスエイデンだ」



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