247.突然の修羅場? 後編

「……真面目な表情をしているから、何か大事なことだと思っていたのですが」

「大真面目ですわよ」



 まだからかい気分が抜けていないのかと思っていたが、どうやら違うらしい。



「今回の宴、主役は勿論【勇者ブレイヴ】であるシュン様ですが、勇者を助けた貴方の噂もかなり広がっています。先ほどシルヴィアが申した通りこういった催しは出会いの場を兼ねていますから、独り身で赴いては狙われてしまいますわ」

「……こんな出自も分からない人間が?」

「肉食女性の攻撃力を、舐めない方がよろしいですわよ」



 後半の言葉の意味はよく分からなかったが、まぁ言わんとすることは分かる。女性が狙われるのは分かるが、まさか俺にまで矛先が向くとは思っていなかった。



「……やっぱり、欠席しようかな」

「大丈夫、私達がいる」



 するとリーゼが、するりともう一度腕を絡ませてきた。先ほどとは異なり体を密着させてくるので、少し心拍数が上がってしまう。



「ええ、そうやって女性をエスコートすれば、多少はましになります。少なくとも強引に誘われるようなことはなくなるかと」

「とは言っても、エスコートって具体的に何をすれば?」

「そこら辺は気にしなくて良いわよ」



 若干恥ずかし気なシルヴィアも、リーゼと反対の腕にピタリと張り付く。



「パーティーなんて経験ないでしょ、私がフォローするから大丈夫」

「……あーもう分かったから、別に今から腕絡ませる理由ないだろ」

「あー英夢君、顔赤くなってるー!」

「うるせえ」



 なぎさが露骨に揶揄ってきたし、俊や先生、それにガイさんとカルティさんもにやにやとした笑みを浮かべている。非常に居心地の悪い思いをしていたが、そのタイミングで部屋のノックが鳴った。どうやら宴の準備が整ったようだ。



「じゃ英夢、また後でね。僕達は別の場所から入るから」

「ん?そうなのか」

「一応主役ってことになってるからね」



 ひらひらと手を振りながら、俊達は部屋を出る。あんな細かい動作一つでも絵になるのだから羨ましい。俺達の入場はまだのようで、もう少しだけ待ってほしいと言われた。



「……で、どうしたんだ。さっきから変だぞ」



 パーティーということで舞い上がっているのかと思ったが、それにしても明らかに様子が変だ。いつもならこんな積極的なアプローチはしてこない。ガイさん達も似たようなことを思っていたようで、黙って見守ってくれている。


 リーゼは少し目線を下げながら、ゆっくりと口を開く。



「……エイムが、勇者に付いて行っちゃうんじゃないかって」

「は?」

「リーゼはエイムが、私達と別れて勇者達と行動を共にするつもりなんじゃないかって思ったのよ。最初の私達は、そういう約束だったでしょ?」

「……あー、そういえばそうだったな」



 シルヴィアは自分が心安らぐ場所を求めて、そして俺は行方の分からぬ親友、つまりは俊達を探すため、そんな互いの目的のためにチームを組んだ。そこにリーゼが加わり、いつの間にか一緒に過ごすのが当たり前になっていたが……、確かに俺の目的は、これで達成したことになる。



「……まぁ、私もその、ちょっとはそう思ったり」



 どうやらリーゼ程ではないものの、シルヴィアも似たような懸念をしていたらしい。そんな二人に、俺は苦笑いを浮かべてしまう。



「俺がそんな薄情な人間だと思ってたのか?」

「いや、思ってないけど……」

「ないよ、そういうことは」



 確かに俺は俊達の関係について、これからどうするかという答えを出せてはいない。だが今思い悩む選択のうち、二人と別れるという選択肢は入っていない。そう思うくらいの関係に、もうなっている。



「今回みたいにあいつらが危ないときは、可能な限り手を貸したいと思ってるけどな、だからと言ってずっと行動を共にするつもりはない。そもそもあいつらも誘って来ないだろうし」



 俊やなぎさが、俺の新しくできた仲間を引き裂くとは到底思えない。あって三人全員が誘われるくらいだろう。



(いや、それもないか)



 まだ二人には話していないが、俊には俺の職業がバレてしまっている。王国やマリア様に俺の職業がバレれば大惨事なのは言うまでもない。俊もそれを分かっているだろうから、積極的に誘おうとはしないだろう。個人的にも、そこまでのリスクを背負ってまで行動を共にしたいとは思わない。



「とにかく、二人を差し置いてまで、あいつらの元に行こうとは思っていないから」

「……ん」

「次からはちゃんとそういうことははっきり伝えてくれ。心臓に悪い」

「でもそれはそれとして、エスコートはよろしくね?」

「……了解だ」



 ……結局、心臓に悪いのは変わらないらしい。

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