246.突然の修羅場? 前編

「ほ~らシルヴィアさん、いつまで恥ずかしがってるんですか~?」

「だ、だって……ちょ、押さないでくださいよ!」

「度胸見せて~?」



 一ノ瀬先生に押されるような形で現れたのは、恥ずかしがそうな表情を隠そうともしないシルヴィアだ。ドレスは鮮やかな水色のロングスカートタイプで、マリア様やなぎさに比べれば色味は落ち着いているが、そのお陰で本人の美貌がしっかりと自己主張している。


 いつもは当然露出は少ないので、こうして肌を見せる姿は珍しいかもしれない。羞恥心で少し火照っているあの肌は、美しい銀色の髪も相まって、目を細めそうなくらいに眩しく映る。



「英夢く~ん?」

「え、ああ……綺麗だぞ、言葉が詰まるくらいに」

「あ、ありがとう。宴が決まった時には何とも思わなかったけど、なんだか恥ずかしいわね。こういう姿をエイムに見られるのは」



 シルヴィアのことは普段から美人だと思っているし、多少着飾ってだけでここまで動揺させられるとは思っていなかった。こういう姿を見ると、確かに貴族令嬢のシルヴィアもしっくりくる気がする。



「エイム、私も褒めて」

「直球だなお前も……って」



 先生の後ろからひょこりと顔を出したのは、見違えた姿のリーゼ。恐らく森をイメージしたであろう碧色に輝くドレスは、彼女の黒い肌にこの上なく似合っていた。髪の毛の真っ直ぐに下ろしているシルヴィアに対し、リーゼは軽く結わえているため、長い耳もはっきりと目にすることができる。


 普段からは考えないような変わり様に、思わず見惚れてしまった。そんな俺を見てリーゼは、にやりと笑みを浮かべる。



「してやったり」

「また随分と気合い入ってるな……反応で分かると思うが、とても綺麗だと思う」

「ん。エイムも、かっこよくなってるね。シルヴィもそう思うでしょ?」

「え、うん……その、スーツだっけ?派手さはないけど、引き締まってて素敵だと思うわ」

「ありがとな、ふたりとも」



 流石に俊に比べると見劣りしてしまうと自覚しているが、二人の誉め言葉は素直に嬉しいので受け取っておく。



「英夢く~ん、私綺麗~?」

「なんですか、その口裂け女みたいなセリフ。素敵ですよ、大人な先生らしいですね」



 先生のドレスは、きめ細やかな刺繍が施された紫色のドレスだ。他の面々と比べると少々地味だが、三年前にはそれほど感じなかった大人の魅力を醸し出している。



「ありがと~、流石に皆みたいなドレスは恥ずかしくてね~」

「確かに似合っていますけど、そんな色のドレスを着ていては既婚者と勘違いされてしまいますわよ」

「良いわよ~、ナンパとか煩わしいだけですし~」



 色によって何か意味があるんだろうか。



「色自体ってわけじゃなくて、未婚の女性は派手な色、既婚の女性は落ち着いた色を着るっていう風習みたいなものかしら。こういうパーティーは出会いの場も兼ねられているから」



 なるほど、確かにカルティさんも控えめな紺色のドレスだ。



「アンズ様だけではありませんが、シュン様達には是非ともこの国で相手を見つけて欲しいところなのですが……あ、シュン様は私が捕まえるので結構です」

「私も俊君に養ってもらう~!」

「なぎさはもう養ってもらう必要ないでしょ……」

「じゃあ私は英夢君に養ってもらおうかしら~」



 明らかにその場の雰囲気で口を開いた先生に、俺は苦笑いを浮かべる。が、それを真に受けたものが1人。



「だめ」

「……あらあら?」

「えーと、リーゼさん?」



 リーゼは俺に腕を絡ませ、先生を牽制するかのような視線を送る。対する先生はリーゼの反応が意外だったのか、軽い驚きの表情を浮かべていた。



「エイムは私のもの、シルヴィのものでもある」

「さらっと巻き込まないでくれるかしら!?」

「……俊、こういう時の対処法教えてくれ。慣れてるだろ」

「一度英夢には、僕に対してどういうイメージを抱いているのか問いたださないといけないね。まぁ良いじゃないか、愛されてるってことで」

「がっはっは!モテモテだな坊主!」



 くそっ。揃いも揃って他人事だと思って笑ってやがる……!



「いっその事、三人とも娶ってしまえば良いのではありません?」

「いやいや何言ってるんですか……あ、この国は重婚って大丈夫なんでしたっけ」



 確か日本とは違い、アルスエイデンでは重婚が認められていると本に書いてあった気がする。



「制度では可能と言っても、俺に複数人を支えられるような甲斐性はありませんよ」

「そうでしょうか?私にはそう見えませんけども」



 何故か引き下がろうとしないマリア様に、真面目に返答するのが面倒くさくなった俺は、リーゼの腕を振りほどいた。



「そろそろ宴の時間でしょう、はやく行きましょう」

「はぐらかしましたわね……あ、ダメですよ。待ってくださいまし」



 逃げるように部屋を出ていこうとした俺を、マリア様が呼び止める。先程までのからかいが隠しきれていない表情はなりを潜め、至って真面目な表情をしている。



「折角のパーティです、お二人のことをエスコートしては?」

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