12.成長した死神

「SYURORORORO……」



 篝火すら存在しない薄暗い場所で大量の涎を垂らすのは、目算で全長5メートルを超える大蛇。涎には融解性の毒が含まれているらしく、石の床がジュワッと音を立てている。



「SYAAA!!」



 大蛇は得物を丸のみしようと、大きく口を開いて目の前の対象へと飛びかかる。



 ガチン!



 おおよそ生物が口を閉じる音とは思えない轟音を立てるが…



「こっちだ」


「……SYU?」



 その攻撃は空を切り、先ほどまで目の前にいた得物は後ろ側へと回っていた。いつの間に?と思う大蛇だが、一度外した所でやることは変わらない。大蛇は今度こそ確実に得物を喰らうべく、その長い身体で得物を締め付けんとする。



「なるほど、身体がデカイとそういうこともできるわけか」



 得物は一切の抵抗を見せず、同じ場所で立ち止まっている。大蛇は内心でほくそ笑む。最近は何故か得物が少なくなっており、大蛇は空腹だったのだ。久しぶりの食事を前に、ダラダラと涎が零れ落ちる。



「涎垂らしてるとこ悪いけど、おとなしく食料になるつもりはねぇよっと!」



 そういうと、得物は大きく跳躍する。そのままくるくると宙を舞い、丁度大蛇の頭上に到着すると、



ドゥパァァン!



 己の脳天を正確に狙いすました銃口、それが大蛇の瞳に写った最後の光景となった。


 その銃口から発射された銃弾は、大蛇の体を一直線に貫き



バシャァァァァン!



 そのまま大蛇の体を爆散させた。周りには大蛇の血肉がびしゃびしゃと飛び散る。



「うえ、外皮はもっと硬いと思ってたんだけどな…まぁコイツ毒持ってたみたいだし、食えそうじゃなかったからいいか」



 血肉を大量に浴びて辟易とした表情を浮かべながら、天崎英夢はそう呟いた。






♢ ♢ ♢



 ─side Aim─



  突然この牢獄に閉じ込められたあの日から、一体どれだけの年月が経ったのか。最初の方は眠った回数で日数を計算していたが、自分の体内時計が狂っていることに気が付いて止めた。


 だが少なくともここにいる期間が一年で済まないことは確かだ、どれだけ広いんだろうなここは。あれから少しずつではあるが上への道を進み、体感ではもう富士山くらいなら登頂していそうなレベルには上っている。



「そろそろ出してくれてもいいと思うんだけどな……」



 こう思うのももう何度目か。一人だとすっかり喋る機会も減り、最近では敵に話しかけるようにしている。そうでもしないとおかしくなりそうだからだ。いや、既にその行動自体がおかしくなっている証拠か。孤独には慣れていたつもりだが、流石に一年以上誰とも絡まないと辛く感じてくるものらしい。



 あれから自分も大きく変わった。まずは服装、流石に私服はこれだけ戦闘をこなして持つわけもないので(そもそもキマイラにやられた時点でボロボロだった)、途中で転がっていた白骨死体から拝借した黒いローブを着ている。


 次に武器だが、あの日手に入れたラル=フェスカは今でもその威力を存分に発揮している。こいつらには数えきれないほどに命を救われた。手入れの仕方も分からないので銃身を拭くくらいしか出来ていないが、ここから出たら真っ先にメンテナンスしてやりたい。


 そして白骨死体からナイフも回収することができ、倒した死体の解体なんかで役立っている。死体にはがっつり武装してあって大剣なんかもあったが、流石に使える気がしなかったので置いてきた。



「そろそろ死体じゃなくて生きてる人間を見たいよなぁ……」



 死体が武装していたということは、あいつらは俺のようにここに閉じ込められたわけではなく、自ら望んでここに入ってきたんだろう。ということは、どこかに出入口があるはずだ。



 バシュン!



「…やっぱ便利だな」




『危機感知』

 発動中、自身に危険が及ぶ可能性のある攻撃を事前に察知する。




 俺の後ろで、1頭の虎が爆発四散する。あれから何度も化け物との戦闘を続けているうちに、あの球体が言っていたスキルとやらも手に入れた。突然頭の中に取得アナウンスが流れたときは死ぬほどビックリしたけどな。


 このスキルは基本的に、頭の中でスキルを意識し続けないと発動することができない。だから睡眠中にスキルを使うことはできないし、戦闘中なんかに複数のスキルを併用するのも難しい。後者はマルチタスクを極めればいけるかもしれないけどな。



「それにしてもこの臭いはきついな……水場まで戻るか」



 さっきの大蛇の血肉を被って体の臭いがひどいことになっている。精神的にきついのも勿論だが、あまり強い臭いだとさっきみたいに獣が寄ってくるので面倒くさい。


 進んでいた道を一旦引き返し、水場へと向かう。ここには井戸だったり泉だったり、定期的に水のある場所が存在する。水の確保は食料以上に重要なため、一番近い水場は常に頭に入れるようにしている。


 ここから一番近いのは湖のような場所だったはず、そこで水浴びでもすればいいだろう。そう思っていたのだが……



(ん?)



 ばしゃばしゃと水音が聞こえる。




 ……どうやら先客がいるようだ。


 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る