267.VS騎士団

──side Aim──



「急いだ意味はあんま無かったか?」

「ん、シルヴィなら一人でも大丈夫そう」

「その信頼は嬉しいけど、ちょっと気抜きすぎじゃない?」

「武装した不法侵入者を捕らえよ!!」

「「は、はい!」」



 壇上で一際豪華な服を纏う男の一声で、騎士達が一斉に剣先を向け、こちらに走り出す。呆れるくらいにデカイ部屋のため、騎士達と俺達の間にはそれなりの距離があるが、流石は王国のエリート集団、もうすぐ傍までやって来ている。



「……武装はともかく、この屋敷にはちゃんと許可を得て入ってるんだがな」

「「「!!」」」

牢樹ラプトル



 『死圧』によって一瞬足を鈍らせた隙に、リーゼが精霊魔術によって木の根の壁を作り出す。



「踏み越えるのは自由だよ、干からびてもいいならの話だけど」



 指示をしたのは団長のエルドリッドではないのにもかかわらず、騎士達は一瞬の迷いもなくその指示に従いこちらに向かってきた。それは相手が何かしら騎士団にゆかりのある人物だからか、それとも高位の人物だからか……あるいは、その両方か。



「はじめまして、ドレグ卿。マーティン軍、地方開拓軍所属エイム・テンザキと申します。以後お見知りおきを」



 シルヴィアの隣まで歩いた俺は、そこで一度立ち止まった後、若干声を張り上げながら名乗りを上げ、まずは一礼。恐らくこの程度で回復できるほど俺の信頼は残っていないだろうが、今回は相手を殺しに来ているわけではないので、不意を打つ必要もない。



「…………貴様か」

「はい?」

「貴様が、私の娘を誑かした張本人かと聞いているんだ」



 冷酷な瞳に溢れんばかりの怒りの感情を乗せたドレグは、声を荒げながら立ち上がる。



「団長夫人という立場を捨て、日雇いの仕事に勤しむ下賤な軍人に成り下がらせたのは、お前か!」

「それは自分ではなく貴方でしょう、ドレグ卿」



 【騎士ナイト】に就けなかった。ただそれだけなのに、今までの努力と、それからの向上心を踏み潰し、望まない相手との縁談を押し付けた。それをやったのは俺ではなく、父親であるドレグだ。



「ですが、良かったではありませんか」

「……何だと?」

「シルヴィアが軍人の道を進んでいなければ、自分は今も迷宮の中を彷徨っていたでしょう。マーティンは、今頃ゴブリンに蹂躙されていたでしょう。ダークエルフの森は、暗闇に閉ざされていたでしょう。勇者達は、海王に殺されていたかもしれません」



 あくまで冷静に、ドレグに微笑みながら、俺は言葉を続ける。



「自分には、【騎士ナイト】という職業にどれだけの重要性があるのかは分かりませんが……シルヴィア・アイゼンハイドという一人の人間の重要性は、誰よりも理解しています」

「……」

「きっとシルヴィアには、この王都という場所は狭すぎたのでしょう。彼女の居場所は別にあった、ただそれだけですよ。結果的にドレグ卿の行為は、真の居場所を見つけるきっかけになったのです」



 だから少し、ほんの少しだけ、俺は感謝もしている。シルヴィアをこの家から追い出してくれたことを。



「どれだけ貴方が自分やリーゼを批難しようと、軍をけしかけて襲いかかろうと関係ありません。例え国から追われることになろうと、シルヴィアが俺達を望む限り、彼女の隣に立ち続けます」

「……そうか、ならもうよい」



 小さく嘆息したドレグは、後ろの立てかけてあった大剣を握り、鞘から外した後、それを高々と掲げる。



「これ以上の会話は不要。ここから先は、互いの力を決するのみ」

「諦めるという選択肢は、ないんですね」

「当然だ。元騎士団長として、そしてグリードハイドの当主として、貴様らの愚行を見過ごすわけにはいかない」

「……そうですか」



 ドレグの言葉を借りるわけではないが、そういうことなら、これ以上の問答は必要ない。



「シルヴィアはエルドリッドに集中してくれ、残りは俺達が抑える」

「了解よ、頼りにしてるわね」

「……騎士達は私に任せて。エイムは、あの人を」



 リーゼが指さしたのは、全く衰えを感じさせない覇気を纏う元騎士団長。正直、なんで現役を退いたのか分からない。



「大丈夫か?」

「ん。エイムだと、騎士団相手に手加減は難しいだろうし」



 それは確かに、どうしても手札の殺傷能力が高いせいで、俺は集団を相手取るのには向いていない。相手を殺さないという縛りが付くと、『死の狂乱デス・マッドネス』が使えないことも痛い。



(まぁ、今回に限っては最悪気にしなくても良さそうだけど)



 それでも、殺さずに済むならそれが一番だ。キリユに迷惑をかけると、後が怖いのもある。



「そういうことなら、頼んだ」

「頼まれた」

「それじゃあ、行くわよ……ありがとね、二人とも」

「そのセリフは、全部終わってからな」



 リーゼが牢樹ラプトルを解除すると、今まで立ち往生していた騎士達が俺達へ向け雪崩れ込む。その集団から抜け出し、他の騎士達とは格が違う動きを見せる者が一人。



「なに?それが本気ってわけ?」

「ただ貴様を敗北させればいい、先程まではそう思っていたが……もう手加減はせん、今からは殺すとつもりでいく」

「最初からそうしなさいよ、団長さん」



 そんなエルドリッドに追従する騎士団に対し、礫の雨が襲いかかる。



「相手は、私」

「「「……!」」」

「それじゃ、行ってくる」

「ん、地維壁グランムーロ

「気を付けてね」



 リーゼが作り出してくれた壁を蹴り、大きく跳躍した俺は、騎士団を飛び越え、階段の足元に着地した。



「ほう、私に1人で挑むか」

「安心しろよ、そのうち一人じゃなくなる」




 

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