275.宝捜し 後編
「……エイム、どんな感じ?」
「正直、決めあぐねている」
宝物庫での宝探しを開始してからしばらく、歴史的価値から保管されているような特に役に立たない類の物を除き、一通り捜索を終えた俺は、それでもなお悩み続けていた。
「どれもこれも魅力的なものばかりであることには違いないんだが……こう、なんというか、もう一歩欲しいんだよな」
中にはダークエルフの里からリーゼに送られた『救命のブローチ』、俺が桜先輩に送ったネックレスと同じ能力を持つ『魔晶石のブレスレット』など、普通に生活していればお目にかかれないような品物ばかり。流石は王国の宝物庫といったところだろう。
だが、これだけの品が集まっているからこそ、もう少し欲張りたい気持ちがある。こんな機会、二度とないだろうしな。
「望み薄だが、防具や装飾品以外にも目を向けてみるか……時間は大丈夫だよな?」
「ん。私はもう決めたけど、シルヴィとカルティさんがまだだから」
「りょーかい。参考までに、リーゼが何を選んだのか聞いても?」
「これ」
リーゼがこちらに突き出して来たのは……一本の枝。枝と言ってもサイズはかなり大きく、リーゼの身長と同じくらいある。このサイズで枝って、どんな大樹から採れた枝なんだ。
「なんだこれ?」
「世界樹の枝」
「……何で宝物庫に木の枝があるんだと内心で思っていたが、それなら納得だ」
確かエルフの里にあるという、森を覆い隠すほどの巨大な大木だったはず。
「これがあれば、高性能の杖が作れる。精霊術がもっと強くなる」
「そりゃあいい、良い物を見つけたな」
「ん」
問題はどうやって杖を作成するのかということだが、それでもただでさえ様々な場面で活躍している精霊術の性能が向上するというのであれば、これ以上ない物を見つけたと言っても過言ではないはず。俺もそのレベルの品物を見つけたいものだ。
「それじゃ、俺はもうちょい探してみる。流石に皆を待たせるのは悪いから、全員が決まったら教えてくれ」
「分かった」
♢ ♢ ♢
「……この辺りは、何だ?」
それからまた時間が経ち、そろそろ他の皆も選び終えそうな頃合い。俺は宝物庫の一番奥の区画まで足を延ばしていた。
乱雑に放置されていた宝物庫とはいえ、今までは一応防具なら防具、装飾品なら装飾品というように、類似したものは同じ場所に集められていたが、今俺が見ている場所に置かれている品々には特に共通点が見受けられない。
「ああ、ここにいましたか」
「マリア様」
「エイム様以外が褒美を選び終えましたので、お呼びに参りました……ここまでやって来ているということは、相当お悩みになられているようですわね」
「お察しの通りです……ここは何が集められているんです?」
やはり、俺が最後になってしまったようだ。こうなると、もう適当な装飾品から選ぶのが良いかもしれない。
「ここはまだ整理が終わっていないものが集められた区画ですわね。つまり、運び込まれた時期が新しい物になります。最近は色々とバタバタしておりましたから、少し溜まってしまっているようです」
「なるほど……ん?」
乱雑に放置された品々の中に、俺は見覚えのあるものを一つ見つける。
「海王の、魔石……」
「あれほど巨大な魔石は滅多に手に入ることがありませんから、ここに入れられるのも当然ですわよ」
「……あれ、頂いても?」
俺達が討伐した『海王』カナロア、その身体の形をした美しい色の巨大な魔石。機会が少なすぎて忘れていたが、この魔石なら俺の戦力アップに繋がる可能性がかなり高い。
「構いませんわよ。私としては俊様の功績が形として残らないのは少し惜しいですが、あれだけ大きいと逆に使い道に困りますし」
「ありがとうございます。それから、形としては残ると思いますよ。俺が求めているのは、コイツの中にある魔力だけですから」
「……?」
ここで魔力を吸い出すと、もし何か不味いことが起こると困るので、一度カナロアの魔石を担いで宝物庫の外に運び出す。
「確かにエイムにとってはこれが一番かもしれないわね」
「ああ」
「ねーねー英夢君、魔石なんて何に使うの?」
「今から実演する。あまり人目に付きたくないから、一度部屋まで運ばしてくれ」
「それなら、私の影を使いましょうか~」
「……先生、いつからいたんです?」
本当にいつの間に現れたんだ、最初に集まった頃には絶対にいなかったはず。
「まぁまぁ、細かいことは置いておきましょう~?その魔石、すっごく重いでしょ~?」
「……まぁ、良いですけど」
実際、助かるのには違いない。先生の影の中に魔石を入れてもらい、俺達の部屋まで移動する。
「で、一体その魔石をどうするんですの?先ほどの言葉から、砕いて使うわけではないと思いますけど……」
「ええ、見ていてください」
本当ならあまり見せるのは好ましくないが、マリア様は俺の職業に若干の疑いを持っている。ここでラルの弾補充を見れば、特殊なのは職業ではなく銃だと言う俺の言い分にも箔が付くだろう。
ラルをホルスターから引き抜き、海王の魔石に手をかざす。ダラビエトレントの魔石とは比べ物にならないサイズの魔石から流れ出る光は、ラルの銃身、俺の体だけに留まらず、
「えっと……これは何だろう?」
「俊様?どうしたのです?」
光が俊の方にも届いているのを視界の端に抑えながら、目の前が真っ白に染まっていく──。
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