48.周辺開拓軍

「……君達は、今回が初参加だったのか?」



 試験官は名簿を見ながら、驚いた声でこちらに話しかけてくる。



「そうですね」

「ん」

「そうか。初の受験者が合格するのは随分久しぶりだな、それも一度に二人とは……」



 やっぱり一発合格は珍しいのか。外で経験を積んだ俺はともかく、どうやらアイリーゼというらしい隣の黒ローブは、一体どういう修練を経て試験に挑んだのだろう。


 先ほど戦った感触からしてかなり戦闘に慣れている様子だったし、少し気になるな。



「よし、これを受付に渡してくれ。これで合格の証明になる」

「わかりました」



 渡されたのは、試験開始前に試験官に俺達が渡した木板だ。書いてある番号も俺が持っていた30番。


 木板を受け取り、試験会場を後にする。…受付ってどの受付だ?



「こっちだよ」

「……ありがとう。えーと、アイリーゼさん?」

「なんで急にさん付けなの、リーゼでいいよ」

「……了解、俺もエイムでいい」

「うん」



 リーゼも初めての受験のはずなのに、合格者の受付を知っているらしい。



「すいません」

「はい、どうされました?」

「入隊試験の合格者用の受付って、ここであってます?」

「はい、そうですよ。ということは合格者ですか?」

「はい」

「確認のために木板の提出をお願いします。あ、後ろの方も一緒にどうぞ?」

「分かった」



 受付の人に木板を渡し、説明を受ける。



「はい、確認しました。まずは合格、おめでとうございます。これから、軍の説明に移らせていただきます」



 受付の人は言葉を一度区切り、説明に入る。



「まずお二人の所属についてですが、最初は必ず周辺開拓軍に所属していただくことになっています。これは拠点周辺の生態調査、魔獣の討伐、場合によっては他の部署からの採取依頼などを行う部門になります」



 シルヴィアやガイさん達と同じ部署になるわけか、「最初は」ということは、何か他の部署への配属もあり得るのか?



「この周辺開拓軍で一定以上の成績を収めた場合、人事部の方から異動を勧められることがあります。場合によっては強制的に異動を命じられることもありますが、周辺開拓軍に所属している間はまずありませんね」

「それはなんで?」

「単純に一番人気のなく、一番きつい部署だからですね。現状この部署以上に死亡率に高い部署もありませんし」



 確かにこの世界で街の外で働くなら相当な実力がないと生き残るのは厳しいと思う。安全な範囲で活動していても、いつどんなトラブルに遭遇するか分からない。



「それで周辺開拓軍の詳しい活動内容についてですが、あそこの受付にて仕事を受けることができます。仕事の内容について指定することはできませんが、一応正当な理由があれば仕事の変更を依頼することも可能です」

「仕事の内容はどうやって決めているんですか?」

「仕事を受けるメンバーの実力や、成功した依頼の傾向から判断しています。なので軍に所属したての間は、簡単で安全な依頼を指定することが多いですね」



 その依頼の成功や失敗から、徐々に判断していくわけか。軍にどれだけの人数が所属しているのかは分からないが、とんでもないデータ量を管理していそうだな。



「依頼を達成した場合、あそこの受付にて報告をお願いします。達成を確認できた場合、その場で報酬をお支払いいたします。失敗した場合でも罰金などは発生しませんが、一定以上の失敗が重なると、こちらから指定した依頼を無償で受けてもらうこともありますので、その点はご注意ください」



 無償の依頼が一体どんなものなのか少し気になるが、そう簡単に依頼を投げ出すつもりはない。命の危険が迫ればその限りではないが、そこまで危険性の高い依頼はしばらく回ってこないだろう。



「ちなみにですが、周辺開拓軍の死亡率低下のため、単独での活動は推奨していません。もしよろしければ、こちらから相性のよさそうな方を紹介させていただきますが……」

「ごめん、しばらくはソロで活動するつもり」

「……お隣の方はどうですか?相性は悪くないように思いますが」



 単独での活動を推奨しないのは分かるが、俺の同意なしに話を進めるのはやめてほしい。



「別に組みたくないわけじゃないですけど、お互い後衛職ですよ。相性がいいとは言えないでしょう」

「ですが、貴方もそうすると」

「あ、自分は目途がついてるんで。大丈夫です」

「あら、珍しいですね。合格前から勧誘されたのですか?」

「まぁ、そんなとこです」



 勧誘してきたのは組む予定のシルヴィアじゃなくてガイさんな気がするけど。



「では後ほど、こちらにその方とパーティー登録をお願いしてもよろしいですか?依頼を斡旋する際に参考にしますので」

「了解です」

「大まかな説明については以上です。何か質問があれば、私と同じ制服を着ているものに訪ねてください。大抵は答えられるはずです」

「分かった」「分かりました」

「最後に、これをお渡しします」



 机の上に差し出されたのは、一枚の銀のプレート。名刺みたいなサイズだ。



「これが軍に所属している証明になります。紛失すると再発行には手数料がかかりますので、お気を付けください」



 プレートを受け取り、受付を後にする。



「一人で活動するつもりらしいが、大丈夫なのか?」

「大丈夫、街の外での活動には慣れてるから」

「……油断はするなよ、同期が死ぬのは後味が悪い」

「そっちもね、パーティーを組んでも死なないわけじゃないよ」

「確かにな」



 短く言葉を交わし、リーゼとも別れる。随分と会話したな。自分で言うのもなんだが、俺にしては珍しい。



 さて、待ち合わせ場所に向かうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る