238.二度目の王都

「……おー、ここが王都」

「さっき一回来ただろ」

「ほんとに足付けただけだったけどね」



 海王カナロアとの激闘を制し、無事?に王都へと帰還を果たすことができた俺達。もうほとんど安全と言って良い状況ではあったが、やはり大地に足を付けるというのは形容しがたい安心感があるのだろう。皆その場に座り込んでしまいそうな勢いだ。



「ところでシルヴィア、それは何だ?」

「……まぁ、ちょっとね。気にしないでくれると助かるわ」



 シルヴィアは王国が見える直前、リーゼから予備の外套を借り、フードを深く被って顔を隠した。リーゼも同じような感じで、俺もフードは被っていないものの、黒いローブを纏っているので、真っ黒集団になってしまっている。



「……どうやら出迎えみたいですわね」



 がしゃがしゃと金属音を立てながら現れたのは、全身を金属鎧に包んだ集団。全員が兜で顔が見えないので、見ようによっては俺達以上に怪しい集団に見える。



「整列!」



 一番前に踊り出た一際光り輝く鎧を纏った男は、兜を脱いで勇者である俊達に微笑みかけた。なかなかにイケメンだ。



「勇者様!王女様!この度はご帰還を祝福いたします」

「……俊、彼らは?」

「王国騎士団、一番前の彼は騎士団長のエルドレッド」



 王国騎士団、軍とはまた異なる、王国直轄の武力集団だ。一般的には軍よりもエリートとされるその集団の団長自らが出迎えに来たらしい。



「勇者様達が迷宮に取り残されたと聞き、急ぎ騎士達を招集し救出に向かうところでございましたが……勇者様には杞憂でございましたか」



 何だろう。言葉だけを捉えれば俊を称える言葉なんだが、どこか皮肉が混じっているというか、勇者を軽んじているように感じてしまう。



(急いで?)

(言ってやるなよ、俺もそう思うけど)



 俊達を護送する船が逃げ帰って来てから、もう相当な時間が経過している。とても急いで騎士を集めたとは思えない。もし本当に急いで来たというなら、それはそれで情報伝達に問題があると言っていいだろう。


 そして多分、俊もそれには気付いている。実際今は仮面を被っているようだし。



(そもそも護送船も騎士団からの斡旋って話だし……そういうことなんだろう)



 そもそも、護送船が船を護り切れずに撤退するなんて話があっていいはずがない。勇者を軽んじていると思われても仕方のない失態だ。



「そうだ、急ぎ王に報告してもらいたいことが。本来なら僕自身で向かうべきなのですが……」

「はい、なんでございましょう?」

「先生、あれを」

「は~い」



 先生は自身の影から、カナロアの魔石を取り出す。その巨大すぎる魔石を見て騎士団は大きくどよめき、団長であるエルドレッドも瞳を大きく見開いている。



「ゆ、勇者様……これはまさか……」

「迷宮の最奥にいた主の魔石です」

「そ、それはつまり!」

「ええ……海底迷宮、攻略完了です」



「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」



 周囲の騎士達、そしてそれを観察していた住民達の歓声が、大地を揺らす。


 正確に言えば海底迷宮の主はカナロアではなく海竜だし、その海竜を倒したのは俊達ではなくカナロアらしいのだが……最終的には合体していたし、細かいことは気にしなくても良いだろう。


 どうやらあの迷宮は周辺の海域が荒れていた原因だったらしく、これが穏やかになれば本土との交流も今より盛んになる。王国にとっても、海を生業にする人達にとっても喜ばしい出来事なのだろう。



「そ、そうですか……ん?」



 興奮を抑えたエルドレッドは、ここでようやく俊達の後ろに控える俺達に気が付いたようだ。兜を脱いでいる割に視野が狭すぎる。



「勇者様、彼らは?」

「僕達を救出してくれた方々です。僕の大切な友人ですよ」

「報告にあった軍人達ですか……」



 そう呟くエルドレッドは、複雑そうな表情だ。騎士団からすれば、自分達の失敗の尻ぬぐいを他人にされたようなものなので、そんな表情を浮かべるのも仕方ないとは思うが……仮にも組織のトップなんだから、表情を隠すことくらいはしてほしい。



「彼らが、英夢達が居なければ、今回の探索で攻略完了までは行かなかったでしょうね」

「……迷宮に入ったのか?」

「ああ、こっちの二人は違うけどな」



 騎士団長ということでお偉いさんなのかもしれないが、こちらを見つめる視線がとても友好的とは言えないので、普段通りの口調で行くことにした。後ろの騎士達の視線から圧力が生まれるが、スキルを使われているわけでもないのでどこ吹く風だ。



「ふむ……そこの二人、フードを取ってもらえるだろうか」

「エルドリッド、それは……」

「分かっております、勇者様。彼らが顔を隠すのには何か理由があるのだろうと。しかし王国の安全を担う騎士団として、怪しげ風貌の集団を王都に招き入れるわけにはいきません」



 言っていることはごもっともだし、口調も丁寧……だが、煙に巻くのは許さない、そんな雰囲気だ。



「……これで良い?」

「その肌、その耳……ダークエルフの民か」

「ん」



 人里では滅多に姿を見せないダークエルフの登場に、再びどよめきが起こる。だがエルドリッドの興味は、既にもう一人のシルヴィアの方へと向かっていた。



「……はぁ、分かったわよ」

「その声、やはり……」



 シルヴィアが嫌そうな態度を隠さないまま、フードを取り、銀色の髪をはためかせる。



「なんでバレたのかしら」

「フードから覗く髪色、腰の細剣……そのうえで海底迷宮を攻略できる実力者。気付く要素はいくらでもあったぞ」



 エルドリッドは、嫉妬、怒り、軽蔑、様々な感情を乗せた瞳でシルヴィアを睨みつけながら、吐き捨てるように呟く。



「どこかで野垂れ死んでいるものと思っていたが……久しぶりだな、シルヴィア・



 

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