184.攻略開始
流石はこの重要な依頼に集められた精鋭部隊、途中に出てくるコボルド達が、通り魔に襲われたかのような速度でその生を終えていく。勿論俺達ではなく、トウキョウ所属の軍人達によってだ。道中はずっとそんな感じだったので、何の弊害もなく門の前まで辿り着くことが出来た。
「じゃ、お願い」
「はい」
門の場所はこの前発見した時と何ら変わりないように見えたが…
「…なるほど、そっちか」
「盲点だったわね」
「ん」
一箇所にぽっかりと穴が開いている。多分あそこに開錠用の何かがあるんだろう。確かに門や周囲の壁に関しては俺達なりにかなり入念に捜索したが、床は全く気にしていなかった。
なんせ床は門や壁と違い、このカツロ山と同じく土壁だ。何かあるなんて思いもしなかった。灯台下暗しとはこのことだな。
恐らくは斥候職と思われる男がその穴の中に右手を入れ、中をゴソゴソといじりだす。やがて、
───ガコンッ。
そんな音と共に、扉がゆっくりと開き始めた。
徐々にその姿を現していく中を覗き見るに、いきなり魔獣がお出迎え、なんて事態にはならなさそうだ。まぁ、あの人が迷いなく操作出来ているってことは、一度は試しに開けてるんだろうし、もしそんな事態になるなら予め知らされているか。
中は何か光源が設置されているのか、松明の明かりしかないこちら側より随分明るいように見える。
「…ふぅ。みんな、行くわよ」
扉は全開となったが、やはり何も起きる様子はない。山の中で音が響いてしまうため、少し音量を下げた桜先輩の言葉と共に、俺達は壁の中へと足を踏み入れる。
「…天井が高い」
「ああ、一番上に銃弾を当てたら空が見えそうだ」
「それは流石に…いや、これはあり得るわね」
まず一番に驚いたのは、内部のその広さ。カツロ山はそこまで大きな山ではないことを考えると、未開拓の部分はほぼ全てこの施設?に使用されているんじゃないかとすら思えてしまう。
「中はギリシャっぽいわね」
「先輩、それあんまり通じない例えかもです」
こっちにはその国を知らない人間が二人程いるからな。ただ確かに、内部にいくつも残っている建造物は、白を基調とした配色や、その風貌が何となくヨーロッパの建物に近しいものを感じることが出来る。
扉は木製のものが残っているが、ガラスが使われている様子はなく、窓はただの壁に空いた穴だ。扉も経年劣化の影響か、割れていたり、細くなって扉の役割を果たせていないものも存在している。
「それじゃ、手はず通り、五部隊に別れて捜索を行うわよ」
「「「了解」」」
その言葉と共に、攻略隊は洗練された動きで散り散りになって捜索を開始した。この広さだと、どこかで部隊同士が出くわすこともかなり少なそうだな。
「私達も行きましょう」
「了解です、陣形は手筈通りで」
「分かったわ」
今回の陣形は前にシルヴィアと菊川さん、後ろに俺とリーゼ、そして間に桜先輩だ。戦闘時は俺と桜先輩が入れ替わる。これは俺の『危機察知』を考慮した陣形で、桜先輩も察知系のスキルを取得しているらしいが、少しでも体力を温存してもらうためにこの陣形となった。
別に桜先輩の立場とかそういうものを考慮したわけではなく、これは純粋な慣れの問題だ。流石に俺達に比べてしまうと、桜先輩や菊川さんの場数は少ないと言わざるを得ないからな。
慣れない戦闘というのは予想以上に体力や精神を消費してしまうものだし、非常時に適切な判断を行ってもらうためにも、これがベストな陣形だと思う。
「あんまり訓練場って感じはしないわね」
「確かに。どっちかって言うと街ですね」
「ん。翻訳、間違えてたかも」
まぁトウキョウ軍の上層部からすれば拍子抜けというか、若干期待外れかもしれないが、俺達にはあまり関係ない。
「とりあえず調査を進めるためにも、どこか建物の中に入ってみましょう」
「そうですね…では、この建物はどうでしょう?」
「ちょっと待って、その中に何か反応がある」
『気配察知』を発動させたシルヴィアが、菊川さんの言葉に覆いかぶさるようにそれを止めた。
「反応は二つ。あの扉を挟みこむような形で、壁の側面にいるわ」
「…待ち伏せか?」
「多少は頭が働く相手みたいね、どうする?」
これがただの建物なら、俺が壁ごとぶち抜くんだが…この建物一つ一つに貴重な品が眠っている可能性がある以上、あまり手荒な真似は出来ない。
「私がわざと突進して、建物に無理やり突入します。それで視線はこちらに集まると思いますので、皆さんで背中を突いてください」
「分かったわ、気を付けてね」
名乗りを上げたのは菊川さんだ。随分強引な作戦だったが、桜先輩は即決で了承した。
桜先輩の了承が出ると、そのままその巨体からは考えられないほどのスピードで扉を突き破った。それはいくら何でも強引過ぎますよ、菊川さん。
「WAU!?」
「WAOU!WAUU!?」
中にいたのは、二匹のコボルド。手にはそれぞれ短刀が握られており、ほぼ同時に振り下ろしたが、菊川さんのスピードに反応が間に合わず、二本の短刀は空を切ったようだ。
「ッは!!」
振り下ろしの隙を見逃さず、シルヴィアが扉から顔を見せた二本の手首を瞬時に切り落とす。…いや、いつの間にそこまで行ったんだよ。
その後はもう流れ作業で、菊川さんとシルヴィアの二人で二匹とも処理をしてしまった。俺達の出る幕は無かったな。
「ここもやっぱりコボルドだらけなのかしら」
「さぁ、どうでしょう」
何せまだ魔獣との遭遇はこの一度だけ。まだまだ油断は出来ない。
「…ねぇ、ちょっと変じゃない?」
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