183.攻略隊
──side Aim──
「ていっ」
「いてっ…なんだよ」
「何でもない」
暇になって俺にちょっかいをかけ始めたリーゼを軽くあしらいながら、俺達はカツロ山の前にて人が揃うのを待っている。
扉が発見されてから三日。あれから驚くほどのスピードで調査が進められ、どうやら扉の開錠自体は一日で見つかったらしい。やっぱこういう仕事は専門職に任せるべきだな。
どうやらこの速度は葛城総司令も予想外だったらしく、それから二日立った今日、ようやく部隊の編成が完了し、今から攻略を行うというわけだ。
「なんというか…リラックスしてるわね、貴方達」
「まぁ、緊張しすぎも良くありませんし…俺達はずっとこのパーティーだけで行動していましたからね。人がいるだけありがたいってもんです」
本音を言えば、俺達だけの方が色々と動きやすくはある。恐らく中の空間はかなり広々としていることが予想されるので、パーティー単位での行動が基本になるだろうが、それでも菊川さんと桜先輩、この二人がいることによる弊害はそれなりに大きい。
だがそれは、あくまで俺やリーゼの行動が制限される、というだけの話。桜先輩や菊川さんが戦闘に参加してくれるのは、パーティー全体で見た時にはかなりの強化だと言える。俺はともかく、リーゼのスキルは最悪使っても大丈夫だろうしな。
「逞しいわね…私も頑張らなくちゃ」
「いざってときはサポートしますから、あまり無茶はしないでくださいよ?」
「ん、無理は禁物」
「大丈夫よ。そもそも私は武器じゃ、無理は出来ないしね」
確かに、弓じゃ強引な突撃は難しいだろうな。流石にナイフの一本や二本は体のどこかに忍ばせていると思うが、それを使って突撃なんて真似はどれだけ気が動転してもしないだろう。というかそれは俺が止める。
「今回は私もしっかりと戦闘に参加いたしますので、よろしくお願いしますね」
「はい、一緒に頑張りましょう」
前回、俺達五人でリハビリを兼ねた依頼を受けた時には、菊川さんはあくまで監視という名目で参加し、戦闘にはほとんど介入しなかった。だが今回は、あの大剣を前線で奮ってくれるらしい。
前衛にシルヴィアと菊川さん、後ろはリーゼと桜先輩、そして間に俺。五人パーティーとしてはこれ以上ないくらいの理想パーティーだ。若干の不安要素を挙げるなら、俺が多人数での戦闘に慣れていないことだな。間違っても味方を撃たないようにしないと、まず間違いなく死ぬし。
「揃ったようですね。ではお嬢様、お願いいたします」
「ええ、分かったわ」
今回この大部隊を統括するのは、桜先輩だ。本人はちょっと嫌がっていたが、俺は適任だと思う。壇上に上がり、周りの視線を一点に集約させる。
「はい。予定より少し早いですが、全員が揃いましたので、ただいまより、カツロ山地下施設の攻略作戦を開始します」
「「「………」」」
「攻略隊の人数は全部で二十八人、施設の中へと突入するのはニ十五人です。中には何が待ち受けているのか予想できませんので、必ず予め決められたパーティー単位での行動を心掛けるように」
今回攻略に参加するのは、合計五パーティー。攻略に参加しない三人に関しては、緊急時の連絡と救護を担当する。内部にどんな危険が待ち受けているか分からないのは勿論だが、入り口も突如出現するコボルドがいるため、どちらも危険な任務であることには変わりない。
「攻略隊、などと名付けられてはいますが、今回の一番の目的はあくまで内部の調査です。くれぐれも、成果を挙げようと無茶な真似はしないように。分の悪い戦闘が発生した場合には躊躇わずに撤退を選択してください」
桜先輩はそう言って釘を刺すが、こういう場で無謀な真似をする人間はいくら釘を刺しても無駄だと思う。そういう奴は大抵、リーダーの意思や指示じゃなく、自分の考えで動くからな。
「また、壁の全長から、内部はかなりの広さがあると予想できます。内部の構造が複雑になっている可能性も考えられますので、パーティーの誰か一人は必ずマッピングを行うようにしてください」
因みにこのパーティーのマッピング担当は俺だ。何故か分からないが三年ほどそういった場所で生活していた経験があるので、精度に関しては任せて欲しい。
「最後に報酬に関して。これは貢献度に応じ、軍の査定によって決定された報酬を、パーティーでの山分けする形でお支払いします。もし内部で何か魔導具の類を見つけた場合、持ち去ることなく軍へと提出するようにお願いします」
とはいえ、あまりにも強力な武具が見つかった場合、持ち逃げされる可能性があることは軍も承知の上、とのことらしい。自らの生存率を向上させるような道具を、他人に譲れというのが無理な話だしな。
「何か質問は?」
手を挙げるものはいない。この説明は事前に説明されたものであり、今のはただの確認作業だ。俺達も桜先輩から昨日同じ説明をされていた。
「では、攻略隊…行動開始!」
さて、行くか。
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