228.黒雷の死神
「……なるほど。確かにそれなら何とかなりそうですね」
「でしょ?問題は勇者さんのスキルなんだけど……」
「それなら大丈夫です、僕も同じものが使えますから」
「あ、やっぱり【
私は勇者に、考えた作戦の内容を伝える。勇者さんは瞬時に私の狙いを理解してくれた。
それにしても、勇者は剣士のスキルも併用できるのね。確かに物語の勇者も、目の前の勇者も剣を使っているし、聖剣という武器もあるから納得ではあるけど、そうなると勇者は剣士の上位職的な立ち位置なのかしら。
……っと、そんなことを考えてる場合じゃないわね。
「よし、じゃあ合図は……エイムが良いわね」
「ですね」
いつエイムの準備が完了しても良いように、私は魔力を黒剣に流し込む。私の手札じゃカナロアから反撃をもらえば防ぐ術はないし、この際ありったけの魔力を黒剣にくれてやりましょう。
「俊!シルヴィア!!」
「行くわよ!」
「『
私と勇者は、二人で円を描くような形で、中央を開けて走り出す。多分エイムは私達に離れてほしくて名前を呼んだのでしょうけど、仕事はまだ残ってるのよ。
勇者は私にタイミングを合わせられるよう、速度上昇のスキルを使ったみたい。向こうはコンディションも良くないし、その点は少し懸念材料だったのだけど、余計な心配だったみたいね。
左右に展開した私達は、あと少しで流壁にぶつかりそうな場所から剣を構え、そして同じ名前のスキルを発動させる。
「はあああああ!!」
「うおおおおお!!」
使うスキルは、『剣の世界』。周囲を空間ごと切り裂くこのスキルは、『
私だけじゃ範囲的に全て切り裂くのは不可能だったけど、勇者の協力もあって、完全に魔術を破壊しきることに成功できた。これでカナロアを、海王を守る盾はない。
「エイム!!」
「ナイスだ二人とも、あとは任せろ!!」
私が名前を呼びながら振り返ると……そこには、全身から黒い雷を迸らせる相棒の姿があった。
♢ ♢ ♢
──side Aim──
「俊!シルヴィア!!」
十分な量の魔力を練り終えた俺は、二人の名前を呼びながらゆっくりと瞼を開ける。目の前に竜となったカナロアの姿はなく、瞳に映るのは、巨大な水流の壁。
もしかしたら俺の魔力に気付いて防御壁を展開したのかもしれないが、その程度の壁じゃ、この一撃を防ぐことは出来ない。
(……ん?)
二人はてっきり左右に跳んで距離を取るものだと思っていたんが、何故か壁の方へと走り出した。シルヴィアは相変わらずの速度で、俊の方も何かスキルを使ったのか、先ほどまでとは見違えるようなスピードだ。
「はあああああ!!」
「うおおおおお!!」
確かあれは『剣の世界』シルヴィアの切り札的なスキルで、空間を切り裂く、という出鱈目な効果を持ったスキルだ。俊も使えたのか。
(……なるほど、そういうことか)
二人の剣戟により、流壁は完全に崩され、カナロアが姿を現す。何やら魔力を高めているみたいだが、残念ながら俺の方が早い。恐らく二人はあの状態のカナロアを察知し、完全に倒しきるために念を入れて流壁を突破したんだろう。
「エイム!!」
「ナイスだ二人とも、あとは任せろ!!」
俺は貯め込んでいた魔力を解放、解放された魔力を黒い雷へと姿を変え、俺の周囲を焼き焦がす。
(……流石に制御が辛いな)
この量の魔力を操るためには、俺がもてる集中力を全て注ぎ込まなければならないうえ、制御を誤ればすぐそこの雷がこちらに牙を剥くのではないかという恐怖がある。だが、恐れている場合じゃない。
雷を徐々にこちらに引き寄せ、俺の体からラル=フェスカへと纏わせる。これもある意味『纏身』だが、これはラル=フェスカの能力ではなく、俺の【
「……ナンデスト!?」
向こうも集中していたのか、カナロアは今更壁が突破されていることに気付く。そして大量の黒雷を見て、その瞳の色を驚愕と恐怖に変えた。
カナロアが、他の十王と繋がりを持っているのかは分からない。だがもし、あいつと関わりがあるのなら……この光景に見覚えがあるはずだ。
「さーて、海王。待たせて悪かったな、これが俺の全力だ」
胸の前で交差していたラル=フェスカの銃口を、海王へと向ける。
あいつはこんなに長時間のためを必要としていなかったし、俺とは違って連発もしていなかった。だからきっと、まだこのスキルは完成系じゃない。流石に雷の扱いで、雷の王たるあいつにはまだまだ敵わないということなんだろう。
だが、今必要なのは海王を殺しきる圧倒的な威力。その点だけを言えば……俺の一撃は、やつのそれを超えている。
「くらいやがれ──『
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