68.地方開拓軍 前編

「『エイム・テンザキ、シルヴィア・アイゼンハイド両名を、地方開拓軍へと配属する』ですか」

「地方開拓軍?なんですかそれ」

「それは今から説明するよ」



 総司令は再び紅茶に口をつけ、喉を潤す。



「正直に言うと、別に厳罰処分なんていくらでもでっち上げられるんだよ。適当な罰依頼を強制したことにして、さらにそれを達成したことにすればいいんだから」

「……」



 それをこの場で言ってしまうのはどうかと思うが…まぁ、俺達しか聞いてないからこそ話しているのだろう。



「だけどそれだけじゃ、きっとあの団体は納得いかないはず」

「そう。それにサイス君は、軍でもかなりの地位を築いている。罰依頼についても、調べようと思えば可能だろうからね。下手なことは出来ない」

「……なんか聞いている限りだと、結構危ない状況な気がするんですけど」



 巨大な組織だから一枚岩じゃないのは当然だろうが、俺達の件を抜きにしてもあまり良くない情勢な気がする。



「まぁ、いくつか策は用意してあるから大丈夫だと思うよ。こればっかりは話せないがね」

「そんな内情、聞かされてもこっちが困りますよ」

「それもそうか、少し脱線してしまったね。話を戻すと、つまりさっき言ったような罰依頼のでっち上げは不可能なわけさ。本当に罰依頼を与えることも考えたんだけど、軽い内容だと向こうも納得が行かないだろうし、かと言って重い内容にするのは論外だ。本来君達に罪はないんだからね」

「それで、その代用案が?」

「そう、地方開拓軍。君達二人のために新設された部門だよ」



 俺達二人のために……?そこまでの配慮をする理由が分からないが、ひとまず総司令の話に耳を傾ける。



「仕事の内容は周辺開拓軍と違いがあるわけじゃない。強いて言うなら、遠征任務が優先的に回されることくらいだね。勿論正当な理由があれば断ってくれても構わない」

「……それ、サイス達が納得します?」

「できないだろうね、

「……?」



 話の先が読めないな、一体どういうことだろう。



「この地方開拓軍へと回される任務は、極めて重要性、機密性の高い任務であり、その内容は厳重に管理、秘匿される。こうすれば、依頼内容を調べさせない理由にもなるだろう?」

「けどそれ、見方によっては昇進じゃないですか?」

「まぁそう見る人もいるだろうね。特にアルスエイデンの人達は名誉欲が高いから。でも、向こうの団体のほとんどは日本人なんだ……エイム君」

「……はい?」

「君なら安定した収入がある状況で、わざわざ危険な任務を選択するかい?」

「しないでしょうね。余程の理由がない限り、断ると思います……なるほど」



 そういうことか。



「気付いたようだね。確かに見方によっては昇進、だけど日本人にとってはそう見えないんだよ。勿論日本人にも名誉欲はあるだろうけど、命と天秤のかけた時の答えは決まり切っている」



 まるでアルスエイデンの人達はそうじゃないみたいな言い方だが、流石に命と名誉なら命を取るんじゃないか?



「それが、そうでもない人達は結構いるのよ。日本人に話しても理解してもらえないけどね」

「……へぇ」



 シルヴィアの言う通り、少し理解しがたい考え方だ。だがまぁ、元々は国どころか世界すら違う場所だったんだ。それくらいの違いはあるのかも知れない。



「そして軍が一枚岩ではないように、彼の団体だって一枚岩じゃない。君達二人に対して感謝している人だって所属しているんだ。そういう人達の声が大きくなれば」

「いかにリーダーと言えど、口出しはしにくくなる」

「その通り」



 なるほど、確かに話の筋を通っている。だが、やはり一つ見えない。そしてシルヴィアの表情を見る限り、同じことに疑問を抱いているようだ。俺も最近、シルヴィアの考えていることが分かるようなってきたな、そろそろスキルが手に入るかもしれない。



「話は分かりました……ですけど、何故私達のためにそこまで?」

「今回の件で、それだけ感謝しているということだよ。君達二人の早急な対処がなかったら、確実にある程度の死者は出ていただろうからね」

「それにしたって特別扱いが過ぎるでしょう」

「……」



 総司令はしばらく沈黙を保っていたが、しばらくして口を開く。



「……これはまだ構想段階だから秘密にしたかったんだけど、この地方開拓軍はいずれ開設するつもりだった部門なんだ。そろそろ外の状況にも目を向けないといけないからね。だから君達二人には、色々試験的な依頼を渡そうと思ってるんだ。他の街との連絡任務とかね」

「なるほど、そういうことですか」

「……どういうことだ?」



 シルヴィアは納得したようだが、俺には何故それが理由になるのか分からない。



「どこかで話したと思うけど、現状他の街へ行くのはかなりの危険が伴うの。つまり、今は依頼内容に違いはないけど、いずれは危険な任務が回されるかもしれないってことよ」

「……意外と腹黒いですね、総司令」

「ははは、それくらいの腹黒さはないと、この椅子までは辿り着けないよ」



 俺達にとっては笑いごとじゃないんだが。



「とはいえ、さっきも言ったけど正当な理由があれば断ってくれても構わない。そのうち他にも人員は増やす予定だしね。どうする?本当に嫌なのであれば、別の案を考えるけど」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る