67.総司令からの呼び出し

 それから多忙な日々を過ごしつつ、約一週間が経過した。ようやく調査も一段落がつき、あとは研究者や学者の仕事へとシフトしつつある。



「これでいいか?」

「ええ、それだけ買えばしばらくは大丈夫でしょう」



 そして今は、調査や任務なんかで消費した保存食やその他諸々を補充している最中だ。あの時の反省を生かし、しっかり一人用のテントも購入した。



「かなり余裕もできたし、しばらくはゆっくりできそうか?」



 今回の黒ゴブリン討伐に関しては討伐の依頼を受けたわけではないため、報酬は出ていない。


 だがあの巨大魔石の値段や、何度も行った調査依頼によって、かなり懐に余裕ができた。ガイさんへの借金も、思ってたよりすぐに全額返済できたな。




「そうね。でもあんまりさぼっていると体が鈍るし、適度に依頼は受けるわよ」

「それは勿論」



 そういえば、しばらく討伐系の任務に出てないな。まぁ調査の道中や途中で魔獣に遭遇するのは珍しくなかったから、体が鈍るようなことにはなってないと思うけど。



「じゃ、明日は久々に討伐依頼にでも……ん?」

「どうしたの?」

「家の前に誰かいる……あれは、受付の制服か?」



 目を凝らしてみると、確かに軍の受付で採用されている制服だ。本部で見る分には何とも思わなかったが、外で見るとちょっと目立つデザインだな。



「あ、お二人とも」

「どうしたの?わざわざ家にまで来るなんて」

「少し報告というか、お伝えしたいことがございまして。緊急性はないので、都合が悪いようでしたら出直しますが……」

「……どうする?」

「荷物だけ置いてきてもいいかしら?」

「ええ、勿論です」

「分かった、ならちょっと待ってて」



 というわけで、荷物を玄関に放置して急遽軍に向かうことになった。調査依頼の時にもわざわざ家に来ることはなかったというのに、一体どうしたんだろう。



「……一体何があったのか聞いても?」

「ああ、別に何かあったわけではないと思います。私がお二人の自宅まで赴いたのは、総司令からお二人に話があるとのことだったからですね」

「総司令が?」

「ええ。お忙しい方ですから、丁度時間が空いているタイミングで呼び出したんだと思いますよ。特に今は例のゴブリンの対応で、かなりの時間拘束されていますから」



 巨大組織である軍を纏める存在ともなれば、普段からかなり忙しいはず。それが今はさらに忙しくなっているのか……大丈夫かな、総司令。






♢ ♢ ♢



「総司令、二人をお連れしました」

「ああ……入ってくれ」



 扉を開けると、そこには資料の山に埋もれそうな総司令の姿があった。あの様子を見る限り、大丈夫ではなさそうだな。その他にも、数人の人物が忙しそうに資料に目を通している。秘書か何かだろうか。



「少し休憩にしよう、ゆっくりしておいで」

「「「分かりました」」」



 ……人払いだな。受付の人も含めた全員が部屋から出ていき、部屋に残ったのは俺、シルヴィア、そして総司令の三人だけとなった。出ていった中の誰かが淹れてくれたのだと思うが、俺達の分のお茶が机の前に置かれている。いつの間に用意したんだ。



「急に呼び出してすまないね、好きに座ってくれ」

「いえ、それは構いませんが……一体どういった用件なのですか?」

「それはね。ちょっと待ってくれ」



 総司令はガサガサと手元の資料を漁り、一枚の紙を抜き出す。



「ああ、あったあった」

「……それは?」

「その前に少し経緯を説明しよう。今回の一件、君達二人の迅速な対応のお陰で、最小限の被害で済んだ。この事実は変えようが無いし、それを感謝する人たちは多い」



 総司令は紅茶を啜り、喉を潤して話を続ける。



「だが、それに対して抗議を立てる人物もいる」

「……なんですって?」「へぇ」

「……エイム君はあまり驚いていないようだね?シルヴィア君みたいに、腹を立ててもおかしくない話だと思うけど」

「腹は立ててますよ、文句を言われる筋合いはないですし。でも、なんとなくそういった人達がいるのは察していました」



 この一週間、街や調査中に、やけに攻撃的な視線が多かったのを覚えている。『危機察知』に反応が出たらすぐに武器を抜いてやろうと考えるくらいのはイライラしたな。



「多分あいつらでしょ?日本人支援部隊」

「……え?」

「その通りだ。そして昨日、彼らの署名付きでサイス君が正式に抗議文を送ってきた。私が要約しようと思うが……読むかい?」

「「遠慮しておきます」」

「それが賢明だね、私も推奨しないよ。まったく、この忙しいときに仕事を増やさないでほしいね」



 総司令の顔には、心底面倒くさいと書かれている。



「じゃあ要約すると、命令違反を行った君達二人に対して、何かしらの処分を要求する、とのことだ」

「命令違反?」

「私の場合はあれね、私がガイさん達の静止を振り切ってゴブリンに突貫したこと……あれ、でも二人?」

「エイム君も、僕の要請を断って先に君を助けに行ったんだよ。どちらも正確に言えば命令ではないけど、署名付きということでこちらとしても無視するわけにはいかない。それだけ多くの人間が、この意見に同意しているということだからね」



 まぁ、一歩間違えれば街や軍の人間を危険に晒していたという意味では、筋は通っていないわけではないが。



「それで私達に処罰を、ということですか?……いくら何でも納得できないんですけど」

「まぁそう怒らないでくれ。私も色々考えたんだよ、まずはこれを見て欲しい」



 そうして俺達の元に、先程抜き出していた一枚の紙が差し出された。



 そこに書かれていたのは──



 

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